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虞美人草
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砂浜沿いに作られた道路を歩いた。
いつもは眺めるだけの遠くに見える灯台まで歩こうと思ったのだけど、これが意外に遠くて、途中で息が上がり始めた。
まったく情けない。
初夏のような陽気であったので、額にはじわりと汗が滲む。
ふと「虞美人草」の出だしを思い出す。
「随分遠いね。がんらいどこから登るのだ」
とひとりがハンケチでひたいを拭きながら立ちどまった。
「どこかおれにも判然せんがね。どこから登ったって、同じ事だ。山はあすこに見えているんだから」
と顔もからだも四角に出来上った男がむぞうさに答えた。
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この「虞美人草」は夏目漱石が作家として書いた一作目で、一言一句に渡り、事細かに砕心したと聞く。
言い方は何だが、若いころに狂ったように本を読み耽った頃があった。
高校三年から大学二年の頃である。
この「虞美人草」も、遅ればせながらそんな頃に読んだ本であったと記憶している。
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この「虞美人草」は「雛芥子」の別名である。
虞美人とは漢の項羽の寵妃で、自決をした時に飛び散った血がこの花になったという伝説がある。
灯台下でしばらく息を整え、また来た道を引き返した。