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生誕140年 YUMEJI展 大正浪漫と新しい世界

十字架

”神は彼を罰して
一人の女性の手に
わたし給へり”
ああ、
わが負へる
白き十字架。
わが負へる柔き十字架。
人も見よ。
わが負へる美しき十字架。


心飢ゆ

ひもじいと言つては人間の恥でせうか。
垣根に添うた 小徑をゆきかへる私は
決して惡漢のたぐひではありません
よその厨くりやからもれる味噌汁の匂が戀しいのです。


故郷

いい年をしてホームシツクでもありますまい。
だが、泥棒でさへどうかすると故郷を見にゆきます。
生れた故郷が戀しいからではありません
人生があまりに寂しいからです。

つきくさ

おほかたのはなは
あさにひらけど
つきくさの
つゆをおくさへ
おもぶせに
よるひらくこそ
かなしけれ。
ひるはひるゆゑ
あでやかに
みちゆきびとも
ゑまひながめど
つきくさの
ほのかげに
あひよるものは
なくひとなるぞ
さびしけれ。


ある思ひ出

思ひ出を哀しきものにせしは誰ぞ
君がつれなき故ならず
たけのびそめし黒髮を
手には捲きつゝ言はざりし
戀の言葉のためならず
嫁ぎゆく日のかたみとて
忘れてゆきし春の夜の
このくすだまの簪を
哀しきものにしたばかり


夕餉時

夕方になつてひもじくなると
母親おふくろのことを思ひ出します。
母親おふくろはうまい夕餉を料つて
わたしを待つてくれました。

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