神田淡路町
「あのね、私は主義として理屈が通って法律に触れなければ、大体引き受けるんですけどね。あと相手が信用できるかっちゅうかね」
「俺たちはね、そんな利己的な暴力よりも、ほんの何気ない優しさが欲しいんだよ」
「人間ていうのはさ、なんかこうあの、冗談か本気か分かんないギリギリのところで生きてるんじゃないかしら」
「いつも事実が真実語ってるとは限らないんだよな」
「こういう東京っちゅう街でさ、こんな商売長くやってると、なんとなく物の価値観ってのは表向きじゃあ測れないってことが分かって来るわけさ。例えばね表向きは綺麗に着飾ってても、裏にまわりゃあ、とんでもない落とし穴が待ってたりするんだよ。だからさ、まぁその逆もありうるっちゅうことさ。例えば、人から後指さされる仕事やってる人でも、いざという時にゃあ人のために一生懸命やってくれるような、そんな優しい人が多いんだよ。だからさ妹さんのことでも、一方的な価値判断じゃあ可哀想過ぎるんじゃない」
「あのねぇ、職業蔑視しちゃだめだよ。どんな商売だってねぇ、売春婦だってなんだって同じ血が流れてるんだから。商売のこと言っちゃダメだよ。物の善悪はね、表向きで捉えちゃダメ」
「金が人生だなんて寂しい生き方もうやめようじゃないか。世の中にはねぇ、考え方一つでもっとまともに面白おかしく暮らせる方法はいくらでもあんだよ。あんたも俺も、多分その日暮らしの方が性に合ってるよ。バカなことはやめな。あんたな、ちょっとな、遊び方を間違っただけ。分かったな?」
「今ねぇ、忙しいの。ラーメン食べなきゃいけないのよ」
「帰ったらキスしてやるから」
「只今、午前12時半。一日お勤めご苦労さんでした。......グッナイ、スイートハニー」