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変態(143回目)

オリンパスのBCL-1580とGIZMONのWtulens。
ここでは何度となく取り上げてきたレンズである。
Q10なんかで古いシネレンズを触っていて色々調べるとレンズ構成の話によく出くわす。
何枚何群とかいうやつだ。
その名もトリプレットだのガウスだのテッサーだの。
今どきの高価なレンズは死ぬほどたくさんレンズを使ってたり、硝材なんかもいいやつを使ってたりで、これまた死ぬほど「普通」に写る。
この「普通」というのが厄介で、つくづく人の眼というのはよくできてるなァと感心させられるのだが、まあ要するに見たままの様子に撮れるという意味である。
この「見たままに写る」という事にレンズ設計者たちは砕心してきたのがレンズの歴史である。

メガネやコンタクトレンズなんかは1枚のレンズである。
メニスカスレンズというのだが、そのレンズ単体だと真っ平らなレンズではないから「収差」が出る。しかし人の眼も真っ平らではないから、多少の収差であれば脳内で補正してしまう(個人差はある)
ところがカメラは勝手に補正などしないからレンズを通った光はそのレンズの持つ屈折率のとおりに像を描く。
なので2枚目、3枚目と補正するレンズを加えて「普通」に写るように設計するのである。

BCL-1580というのはオリンパス的にはレンズではない。レンズアクセサリーだ。
アクセサリーではあるが3枚3群のトリプレットのレンズ構成を持つ。プラスティックではなくガラスのレンズだ。
15mmでf/8固定というとツァイスのホロゴンを思い浮かべる人も多いと思うが、あれは真ん中の凹レンズが実に奇妙な形をしていた。
ひょうたん型とでといえばいいのか、まあちょっと特別なレンズなのである。
おまけに価格も特別なものになってしまっていて、今ちらっと見てきたら軒並み200万を超えていた。

ただ、というと叱られるかも知れない。
なにしろこのBCL-1580は5000円くらいからある。
そんなレンズに文句をつける方がおかしい。
おかしいのだけど、惜しむらくという意味で、このレンズの描写には「エモさ」がない。
非球面レンズを使っているせいか、あるいはコーティングのためか。
上の写真を見てもらっても分かると思うが、周辺の若干の光量落ちや描写の破綻を除けば、当たり前に写る。
しかもかなりよく写る。

Wtulensは文字どおり写ルンですのレンズを取り出して2枚貼り合わせたものだという。
こういう改造レンズは割と昔からあって、写ルンですのレンズ1枚だけのものとかも見たことがある。
このレンズはプラスティックだが非球面レンズを使っている。
像面の収差がかなり出るレンズだが、写ルンですではフィルム面を湾曲させることで打ち消しているのだとか。
ものすごいアイディアだ。
2枚2群。
前にも書いたが、これはゲルツのハイパーゴンだ。
もしくはトポゴンの内側2枚の構成。

しかしこれとて描写にはそれほど破綻がない。
歪曲も抑えられているし強烈な色被りもない。

シンプルな構成。小さなレンズというのは大好物なので、どちらも好みのタイプなのだが、そのどちらも「普通」に写る。
誤解があるといけないのだけど、写るレンズが悪いはずがない。
とてもとても良いことなのだけど、ぼくくらいの変態になると、もっと変なことになるのを期待してしまうのだ。

変態は生きづらいのだよ、本当に。

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