夜明けをめぐる冒険
小学5年か6年のころの夏休み、ぼくは夜明けの街を自転車で走るのが気に入っていて、ずいぶん早起きをしていた。
早起きの話なので親に見つかると叱られるまではないだろうが、あれこれと聞かれるのが面倒だったので、そっと勝手口の方から家を出た。
夜明けの街は車も人もまばらで、いつもの街とは、ずいぶん違って見えた。
いつも客がごった返している市場や自転車がごちゃごちゃ並んでいる本屋もシャッターや雨戸を引いている。
道路は空いているから、ぼくは車道を走った。
時々ものすごい勢いでトラックが走るから隅っこを走った。
猫が朝飯を探して歩いている。
ぼくはどんどんそれらを後に走り続けた。
それだけのことに高揚感を覚えて、いつもは行かないような遠い所まで自転車を漕いだ。
そのままどこまでも走っていけそうな気がしていた。
自分には無限の力があって、疲れなど知らず、例えそれがまだ見ぬ土地であっても、どんどん進んでいける。
そんな思いを自分の力として感じていた。
実際は朝ごはんの用意で母が起き出す6時までには戻らなくてはならない。
何日か東西南北、色々な方向へ自転車を走らせ、どこまで行くと時間に間に合うかを知ると飽きてしまった。
それから幾星霜。
夜明けを何ともうんざりした気持ちで迎えるようになってしまった。
無限の力など微塵もない。
始業時間までに職場にたどり着けるように無理矢理起きる。
失ってきたものに、ふと思いを馳せる。