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歌うひとのための「樹木の陰で(Ombra mai fu)」

曲:G. F. Händel/詞:N. Minato

対訳

Frondi tenere, e belle
優しく美しき枝葉、
del mio pratano amato,
愛するプラタナスの葉叢よ
per voi risplende il fato;
汝らがため 運命は輝いている
tuoni, lampi, e procelle
雷鳴よ、稲妻よ、また颶風よ
non v'oltraggino mai la cara pace,
ゆめ穢すなかれ 汝らの貴き平穏を
né giunga a profanarvi austro rapace!
汝らを涜すことなかれ、獰猛なる南風よ

Ombra mai fu
かつて無かった、
di vegetabile,
樹木の陰で
cara ed amabile,
かくも慕わしく 愛らしく
soave più.
快いものは

歌詞について

「ヘンデルのラルゴ」として知られる名曲。
もとはオペラ『セルセ(クセルクセス)』内のアリアだが、今では古典歌曲として単体で親しまれている。

 *

レチタティーヴォのうち、前半四行は七音節詩行・後半二行は十一音節詩行からなる。
七音節詩行と十一音節詩行は、ともにイタリア詩の代表的な詩行の形式。

Fron/di / te/ne/re e / bel/le
del / mio / pla/ta/no a/ma/to,
per / voi / ris/plen/de il / fa/to;
tuo/ni, / lam/pi, e / pro/cel/le
non / v'ol/trag/gi/no / mai / la / ca/ra / pa/ce
né / giun/ga a / pro/fa/nar/vi aus/tro / la/pa/ce!

(「/」は音節の切れ目。太字はアクセント)

ABBACCという形式で韻を踏んでいる。
すなわち、七音節の四行は交差韻・十一音節の二行は吻合韻。

一行が長い十一音節詩行は、七音節詩行にくらべて説明的な、あるいは捲したてるような印象を与える。
自然現象に対して王が命じるセリフに十一音詩行が使われていることを踏まえると、高らかに布告するニュアンスが感じられる。

 *

アリアはすべて五音節詩行。一行目・四行目は字足らず、二行目・三行目は字余り。
ABBAという形式で韻を踏んでいる(交差韻)。

Om/bra / mai / fu
di / ve/ge/ta/bi/le,
ca/ra e/d a/ma/bi/le
so/a/ve / più.

 *

元となったオペラ『セルセ』について、簡単に述べておく。
ペルシア王セルセは、アマストレという婚約者のいる身でありながら、別の女性ロミルダに恋してしまう。ところがその女性はセルセ王の弟アルサメーネと密かに将来を誓った仲だった。セルセとアマストレ・アルサメーネとロミルダという二組は破局の危機を迎えるが、やがて元の鞘に収まる。

この「樹木の陰で」は、冒頭でセルセ王が王宮の庭園の木陰を讃えて歌う。
高貴で愛情に溢れたアリアだが、この直後に王がロミルダに浮気し、婚約者のことも忘れて求愛してしまうことを思うと、木陰に寄せる一途な親愛の情が皮肉なものにも見えてくる。

参考:
『ヘンデル アリア選集1』(全音楽譜出版社)
『セルセ』リブレット(PDF・イタリア語)

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TJ
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