歌うひとのための「口づけ(Il bacio)」
曲:L. Arditi/詞:G. Alghieri
対訳
Sulle labbra se potessi,
その唇に、できることなら
dolce un bacio ti darei,
甘いくちづけを、きみにあげたい
tutte, tutte ti direi
余さず、余さず きみに伝えたい
le dolcezze dell’amor.
愛のやさしさのすべてを
Sempre assisa te d’appresso,
いつもきみのそばにいて
mille gaudii ti direi,
幾多の喜びを伝えたい
ed i palpiti udirei
そして鼓動を聴いていたい
che rispondono al mio cor.
あたしの心に応える鼓動を
Gemme e perle non desio,
宝石も、真珠も、あたしは望まない
non son vaga d’altro affetto;
心惹かれない 他の誰かの愛にも
Un tuo sguardo è il mio diletto,
きみの視線が あたしの喜び
un tuo bacio è il mio tesor.
きみの口づけが あたしの宝物
Vieni ah vien! più non tardare,
ああ、来て ぐずぐずしないで
vieni, ah vieni a me d'appresso.
あたしのところへ そばに来て
Ah vien! nell’ebbrezza d’un amplesso,
ああ、来て 抱いて、酔って
ch’io viva sol d’amor.
あたしを愛だけに生かして!
歌詞について
舞踏会のごとき、華やかなワルツ歌曲。『椿姫』のタイトルロール等で活躍したコロラトゥーラ・ソプラノ歌手に献呈された。
第三連第二行の「non son vaga(私は)心惹かれない」で、自らに対する形容詞vagaが女性形であることから、女性の歌であることがわかる。
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すべて八音節詩行からなり、各連の最終行が字足らず。
八音節詩行は「強弱」型のアクセントをもつ。
Sul/le / lab/bra / se / po/tes/si,
dol/ce un / ba/cio / ti / da/re/ï,
tut/te, / tut/te / ti / di/re/ï
le / dol/cez/ze / del/l’a/mor.
(「/」は音節の切れ目。太字はアクセントの位置)
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連ごとに「ABBC」という構造で脚韻を踏み、かつ各連の最終行同士も「-or」で脚韻を踏んでいる。
最終行の末尾は
「amor(=amore)愛」
「cor(=core)心」
「tesor(=tesoro)宝、転じて大切な人を指すこともある」
となっており、意味の上でも響きあう。