歌うひとのための「君なんかもう(Non t'amo più!)」
曲:F. P. Tosti/詞:C. Errico
対訳
Ricordi ancora il dì che c'incontrammo?
まだ覚えていますか、出逢った日のことを
Le tue promesse le ricordi ancor?
あなたが交わしたいくつもの約束を、まだ覚えていますか
Folle d'amore io ti seguii, ci amammo,
恋に狂って、俺はあなたを逐い あなたと愛し合い
E accanto a te sognai, folle d'amor.
そしてあなたのそばで夢を見た、恋に狂って
Sognai felice, di carezze e baci
俺は見ていた 幸せな夢を、愛撫や接吻(くちづけ)が
Una catena dileguante in ciel;
絡まり合って空に消えてゆく夢を
Ma le parole tue furon mendaci
けれどあなたの言葉は虚言(そらごと)でした
Perché l'anima tua fatta è di gel.
あなたの心は氷だから
Te ne ricordi ancor?
思い出せますか、今でも
Te ne ricordi ancor?
思い出せますか、今でも
Or la mia fede, il desiderio immenso
いまや俺の真心も、果てなき憧れも
Il mio sogno d'amor non sei più tu
愛の夢も、もうあなたへは向いていない
I tuoi baci non cerco, a te non penso
あなたの接吻を求めない、あなたを想わない
Sogno un altro ideal: non t'amo più!
新たな理想を夢見て、あなたなどもう愛さない
Nei cari giorni che passamo insieme,
一緒に過ごした愛おしい日々に
Io cosparsi di fiori il tuo sentier.
俺は花を撒いた あなたのゆく径(こみち)に
Tu fosti del mio cor l'unica speme,
あなただけを この心は望んでいた
Tu della mente l'unico pensier.
あなただけを この頭は想っていた
Tu m'hai visto pregare, impallidire,
あなたは見てきた 祈る俺を、蒼褪める俺を、
Piangere tu m'hai visto innanzi a te.
涙する俺を あなたは見てきた、眼前に
Io, sol per appagare un tuo desire
俺はただあなたの望みひとつを叶えるためだけに
Avrei dato il mio sangue e la mia fé.
捧げることだってできたでしょう、この血も、誠も
Te ne ricordi ancor?
思い出せますか、今でも
Te ne ricordi ancor?
思い出せますか、今でも
Or la mia fede, il desiderio immenso
いまや俺の真心も、果てなき憧れも
Il mio sogno d'amor non sei più tu
愛の夢も、もうあなたへは向いていない
I tuoi baci non cerco, a te non penso
あなたの接吻を求めない、あなたを想わない
Sogno un altro ideal: non t'amo più!
新たな理想を夢見て、あなたなどもう愛さない
歌詞について
かつて愛した人へ、「君なんかもう愛していない」と繰り返す歌。
Tostiの「L'ultima canzone」と同様に、「現在」と「過去」の対比が未練がましさを浮き立たせている。
現在を語る部分が長調で書かれており、かつmeno mosso(「動きを少なく」、すなわち「遅く」)と指定されている点に注意が必要。
過去を回想する部分と比べて、言い含めるような表現になる。
*
「Te ne ricordi ancor?」を除き、十一音詩行で書かれている。うち、偶数行は全て、末尾にアクセントのある字足らずの詩行である。
Ri/cor/di an/co/ra il / dì || che / c'in/con/tram/mo?
Le / tue / pro/mes/se || le / ri/cor/di (/) an/cor?
Fol/le / d'a/mo/re io / ti / se/guii, / ci a/mam/mo,
E ac/can/to a / te / sog/nai, || fol/le / d'a/mor.
(「/」は音節の切れ目、「||」は句切れ。太字はアクセントの位置)
*
回想に、二種類の過去形が使われている。
ひとつは遠過去形で、「現在と心理的に関わりのない過去のことがら」を述べる際に使われる時制である。
後述の一箇所を除き、回想は基本的にこの時制で書かれている。遠過去で書かれている動詞をすべて挙げると、以下の通り:
・seguii(私は)追った
・ci amammo(私たちは)愛し合った
・sognai(私は)夢見た
・furono(それら=君の言葉は)~であった
・passamo(私たちは)過ごした
・fosti(君は)~であった
もうひとつは近過去形。「現在とかかわりのある過去のことがら」を述べる際に使われる。
以下に挙げる一箇所でのみ使われている。
・Tu m'hai visto(君は私を)見た
すなわち、「俺」=歌い手にとって、遠過去で語られている幸せな日々と、現在の失恋の苦しみを結びつけて考えるのは困難であると窺える。
一方、近過去の部分には、「俺」が「祈」り、「蒼褪め」、「涙する」様子を見てなお「あなた」が「俺」を捨てたことを詰る気持ちや、なりふり構わない「俺」の姿に絆されてほしいという期待が透けて見える。