小説を書いたことがありますか?
わたしはありませんでした。
「耳元の鈴を鳴らさない!」の執筆には四か月がかかりました。
その後に改稿したりが続き、結局のところ一年くらいかけて本文はブラッシュアップされましたが……。
今回執筆にあたり意識したことは、
・本文の長さ(本の厚さ)
・ラノベっぽくない表現
・漢字とひらがなのバランス
・一巻完結
・ページをめくる時の文末
・従来の本の形式をできる限る破る
他にも無数とありますが、いくつか主要的なものをあげるとすればこんな具合です。
【本文の長さ(本の厚さ)】
小説を書いたことがある方ならおわかりかと思いますが、出来上がったものからさらに大部分をカットしたり、あのシーンを増やそうなど考え、完成する頃には大幅に変わるものだと思います。
当初は文字数も9万字近くありましたが、最終的には67,751字です。
ここはかなり意識したことでした。
手軽に読んでもらえる薄さを実現するために本文は短くすること。
読みやすくするためにひらがなと漢字のバランスや、改行もかなり重ねることになりました。
残しておきたかったところも数多くありましたが、”勇気の決断”でとにかく削りました。
以前、わたしの崇拝する朝井リョウ先生が自身のエッセイでこんな感じのことをおっしゃっていたのが印象的でした。
いい作家は何を書くかではなく、何を書かないかを考える。
これはその通りだと思います。
描かれていないことを否定する方がいます。先日「天気の子」を観て、たまたまこの作品について語り合うことがありました。
「帆高がなぜ東京に来たのか。両親と何があったかが描かれていなくて薄っぺらく感じた」とその子は言いました。
わたしからするとこの演出は素晴らしく、新海監督の”勇気の決断”が垣間見えたところでした。
この物語には必ず帆高の過去や両親とのあれこれも存在しています。ないワケがない。
しかし、この部分を映すとこの作品は『映画』として二時間を超えるものになってしまいます。
仮にそのシーンを15分かけて映し出したとすると
上映時間 2時間7分
となります。
上映時間 1時間52分
二時間を超えていた場合、動員数は今ほど伸びていなかったでしょう。
集中してみていただくためにも、この壁は意識したのではないでしょうか。
帆高の物語を削ることは、監督としては間違いなく”勇気の決断”です。
そこに踏み込む新海監督は非常に魅力的に思えました。
話は逸れましたが、わたしも削った部分だけをWordファイルにまとめたものがあります。そちらは本文より文字数が多くなっています。
【ラノベっぽくない表現】
本編はラノベ調で、モノクロイラストが10枚挿し込まれています。すべてうなさか先生が描いてくださった素晴らしいイラストです。
巻頭イラストもあり、そこはラノベらしさを意識しました。
他に、ラノベっぽい小説の特徴とはなんでしょう。
「『美少女』というフレーズがやたら飛び交う」「そんな美少女が、メイド喫茶でバイトをしている(驚き)」「そんな美少女の着替え中を覗いてしまう(ラッキースケベ)」等々……。
わたしが徹底して行ったのは、主人公(男子高校生)に『美少女』という言葉をつかわせないことでした。
本作は主人公の一人称視点で語られます。『美少女』という言葉は他のキャラクターたちの口から出てくることはありますが、主人公の語り口(ト書き)からその単語が聞こえてくることはありません。※近しい表現をすることはあります。
理由としてはラノベっぽくしたくなかったからです。
ラノベっぽくしたくなかった理由は、ラノベっぽい小説として、読み手の層を狭めたくなかったからです。
ラノベを手に取ることに抵抗のある方にも、わたしは読んでいただきたい。
そんな思いをどうしても込めたかった。
他には巻頭カラーページに決まってあるテキストを入れなかったこと。
(キャラクターの名前や、本編のセリフなど)
あとは「わああああぁぁぁぁああああぁぁぁっっ!」とかもなしにしました。
【漢字とひらがなのバランス】
これに関しては小説を手掛けたことのある方なら皆さん意識することだと思いますので割愛します。作家の先生方もこの部分でこだわりを持っていらっしゃる方が多いように思えます。
【一巻完結】
続編のことは一切考えず書き上げました。超大作になる匂いのするWEB小説をいくつか拝見しましたが、物語を”完結”させるのはとても重要なことです。
わたしも「絶対に完結させる!」「最後には幸せになってもらう!」という願いを込めて綴りました。
【ページをめくる時の文末】
これは”一つの文が、ページをめくる時に跨がないようにする。”ということです。
一つの文を目で追いかけている時にページをめくると、少なからず集中力が切れてしまうとわたしは思っております。
せっかく時間を共にしているのであれば、この世界に集中してほしい。というのが、わたしの想いです。
この作業はとても大変でしたが、やりがいがありました。
ちなみにこれは暁佳奈先生の真似です。
【従来の本の形式をできる限る破る】
「みみすず」ではいくつも変なことをしております。
その例をいくつか……。
◆本分にない、モノクロイラストがある。
基本的にライトノベルは挿絵がなくても読めると思います。本文に書かれている一部がイラストになっているようなイメージですね。
しかし「みみすず」の場合はイラストがないと物語が完結しない。
イラストがないと結末が変わってしまうような作りにしました。
◆裏表紙から物語がはじまる。
今回はカバーデザインの画像をお見せしながらお話しします。
ここに書いてある文章は、これから読みはじめる方でも、読み終わった後でも、楽しめるものにしてみました。
そしてわたくし佐久良マサフミをご存知の方は、佐久良マサフミの姿を投影したような作りになっています。
◆あとがきとクレジット
当初、映画のエンドクレジットのようなものを小説に入れることはできないか。と画策していました。本編に『映画』という題材を使っていることも加味すると、とても面白い仕上がりになるはず……。
しかしこの案は最終的にはなくす方向で決まりました。
理由としてはページ数を減らすことが優先されたためです。
同じ理由であとがきもなくしました。決して間に合わなかったワケではございません……。
そしてカバーデザインにQRコードを入れて、読み込んでからネット上で見る、というものにしました。※上の画像をご覧ください……!
オンライン環境でないと見れない。という不自由さはありますが、これも新たな試みとして採用しました。
他にもございますが、書きはじめるときりがなくなりますのでこの辺で……。
いかがでしょうか。これを読んだ方は間違いなく「耳元の鈴を鳴らさない!」が読みたくなったことでしょう。
正直に自信作です。
あらゆる試みを盛り込んだ作品はとても自由に羽ばたいていきました。
まぶしくて仕方がありませんが、できる限り、長い時間、その奔放な姿を眺めていたいです。
次回はうなさか先生との出逢いでも書きたいと思います。