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【展覧会】Study:大阪関西国際芸術祭/kioku手芸館「たんす」
2021年の「東京ビエンナーレ」ではじめて西尾美也さんの作品を見た。
「装い」をテーマに作品やアートプロジェクトをされている方で、神田の海老原商店を会場に行われたプロジェクト《着がえる家》では、子ども時代に着ていた衣服を今の自分に合うサイズで再現した作品や、西尾さんのお子さんが実際に着ていた服を見本帳にまとめた作品など、衣服が記憶する家族の思い出に触れる作品が幾つも展示されていた。
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子どもの服の見本帳なんてもう、一枚一枚めくるたびに、よそ様の家のことではあるれど、人の成長の尊い記憶に触れているようで、しみじみ感じ入ってしまった。
会期中は、みんなで洗濯板で服を洗うワークショップなどが行われていて、服や装いを通じて人々が新しい関係性をつくったり、思い出を振り返ったりするきっかけを生み出していたように感じる。私自身、作品を見て、体験して、服ってなんて面白いメディアなんだろうと驚いたことをよく覚えている。
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その後、「FUJI TEXTILE WEEK 2021」でも西尾さんの作品を見て(これは見るというより中に入る感じだった)、ますますわくわくさせられた。
そして今回、「Study:大阪関西国際芸術祭2023」にて「NISHINARI YOSHIO」という服のブランドを知ることになった。
「たんす」は地域とつながるクリエイティブスペース
会場となっていたのは、通天閣からほど近い西成区の一角にあるkioku手芸館「たんす」。その名の通り、もとはタンス店なのだそうで、レトロな3階建ての建物のなかで作品が展示されており、実際に服やアクセサリーを購入することもできるようになっていた。
この場所に週二回、西成に住む70代から90代(!)の女性が6名ほど通ってきては、西尾さんと服作りをしているのだという。
彼女たちは仕事として取り組んでいるわけでも、それこそアートをしているという雰囲気でもない。ただ、この場所でみんなと顔を合わせて、お喋りをして、なにか繕うことが楽しいといった感じだ。
詳しくは、BSで放送されていたドキュメンタリー「デザイナーは大阪・西成のおばあちゃんたち!革新的な服が生まれるまで」を見て欲しい。とてもいい番組だった。
※有料ですが、NHKオンデマンドで視聴可能
この「たんす」という場所を運営されているのが一般社団法人brk collective(ブレコ)の松尾さんという方で、西尾さんと彼女たちの懸け橋的な役割を担っている。
とはいえ、世代も育ってきた場所も違う西尾さんと彼女たちのコミュニケーションは、意図せずズレることも多いのだという。西尾さんが投げかけたお題に対して出来上がったものが想像とかなり違っていたり、イメージするものが違ったり...。そんなズレこそが、この場所で生まれる服の魅力なのだと、松尾さんが教えてくれた。
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「NISHINARI YOSHIO(ニシナリヨシオ)」
一風変わったネーミングのブランドは、「NISHIO YOSHINARI(ニシオヨシナリ)」を並べ替えた言葉。偶然にもこの街の名前「西成」が浮かび上がって来たらしい。なんて素敵な名前だろう。
「NISHINARI YOSHIO」の服はカラフルで、楽し気で、そしてちょっと切ないような懐かしさを秘めている(と、私は感じた)。
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この写真は、「人生最後の3着を考えて」という西尾さんのむちゃなお題に対して、メンバーの一人が作った作品。
いくつもいくつも、無数のわっかをつなぎ合わせて作られたエプロンは始まりも終わりもみつけられない。
ひとつひとつ手で編まれていて、そのパワーに圧倒される。
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ちなみにイヤリングとも一体化しているので、このエプロンを纏うということは、エプロンと融合するってことなんだな、きっと。
どうやったらこんなすごいものを考えつくんだろう。
ふだんアートだなんだと難しいことをこねくり回している人々の、はるか上空を颯爽と飛び去って行くような素敵な服だ。
ものを作ることってものすごく楽しいことなんじゃないかって、すごくポジティブな気持ちを分けてもらえた気がした。
「NISHINARI YOSHIO」の服に感じる懐かしいような切ないような気持ちは、人が集い、繕い、編む、その営みのなかで生まれる温度なのかもしれない。
「NISHINARI YOSHIO」の後継者はどこに?
「NISINARI YOSHIO」の活動はもう何年も続いているもので、今回の芸術祭としてのプロジェクトはこの活動をどう続けていくのかを切り口に、西成の抱える社会問題にもアプローチした《後継者問題(仮)》。
展示されているポートレート作品には、「NISINARI YOSHIO」の服をまとった外国人の若者たちが写っている。皆、技能実習生や留学生など様々な立場で西成に住む人々だ。
文化や生活リズムの違いから、接点を持てないでいる地元の人々と外国人居住者たちを、服がつないでいる。
互いに接点がないから姿が見えてこないだけで、日本中のさまざまな場所で同じような隔たりが生まれているんじゃないかな。
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プライバシーの観点から写真撮影はほとんど不可なので、ぜひ現地で作品を見てほしいです。
展示の詳しいスケジュールは「たんす」のHPにアップされています。
Study:大阪関西国際芸術祭