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日常で使う自然な会話がいつでもどこでも学べる業界初のAI日本語会話webアプリ「HAi-J」が誕生!開発に秘められた想い。

 ヒューマンアカデミー日本語学校では2024年11月、独自開発の外国人向けAI日本語学習アプリ「HAi-J」をリリースしました。これは生成AIを用いた自然な日本語会話練習ができるwebアプリで、日本語教育業界では初となる試みです。既存の日本語学習教材との違いや開発で苦労した点、今後の展望などを、企画と開発に携わった3名のメンバーに伺いました。

――まずは自己紹介を兼ねて、皆さんの担当業務について教えてください。

▲ヒューマンアカデミー株式会社 国際教育事業部 エグゼクティブオフィサー|田中 知信さん

田中:私はヒューマンアカデミーの国際教育事業部の責任者を務めています。外国人向けに日本語教育をベースとした教育を行う事業部門で、これまでは留学生が主体でしたが、近年は就労者や生活者に対する日本語教育にも手を広げています。

▲ヒューマンアカデミー株式会社 国際教育事業部 教学室 課長 |太田 慎一さん

太田:私は国際教育事業部の教学室に所属し、DX推進に関わる業務を主に担当しています。当社に入社したのは2023年4月ですが、前職の出版社で『つなぐにほんご』というヒューマンアカデミー日本語学校のオリジナルテキストを出版している関係で、以前からヒューマンアカデミーと一緒に仕事をしてきました。

▲ヒューマンアカデミー株式会社  DX戦略本部 開発課 主任 | 橋元 涼矢さん

橋元:私は2024年4月に入社しました。前職では4年ほどSEとして働いていたことから、その経験を活かして今回「HAi-J」の開発業務を担当することになりました。

――「HAi-J」は、どのような特徴や機能を備えた日本語学習アプリなのか、簡単にご説明いただけますか?

田中:「HAi-J」の基盤になっている『つなぐにほんご』は、従来の日本語教育とは趣が異なる教材です。従来の日本語教育では「文法積み上げ式」という、文法・文型を易しいものから徐々に難しいものへと積み上げて学んでいく学習方法が主流ですが、『つなぐにほんご』は「場面シラバス方式」を採用しています。これは言語の使用場面を想定し、その場面で使う会話の表現を最初に覚えた上で、文法を学びます。日常場面を想定した会話を入口に語彙文法を学ぶことで、学習者の興味を損なうことなく短時間で効果的に、日本での社会生活に必要な会話運用力を養うことができます。「HAi-J」は、場面会話で語彙文法を反復学習する「インプット」レッスンと、AIアバターを相手にした自由会話で実践練習を行う「アウトプット」レッスンの2本立てになっています。

学習者の生活スタイルにあわせ24時間365日いつでもどこでも学習が可能に。

太田:どの言語の学習に関しても言えることですが、会話力を磨くには、たくさん話さなくてはいけません。人間を相手した会話練習はコスト的にも時間的にも制約がかかりますが、アプリ上のAIアバターであれば24時間365日、いつでもどこでも学習可能です。「自由にどんどん話しましょう」という壁打ち会話的な教材は英語などで既にありますが、初学者がいきなり自由会話を試みても会話が続きません。きちんと計算されたインプット学習と、その実践・応用練習としての自由会話がセットになっている学習教材は、少なくとも日本語では初だと思います。「アウトプット」レッスンでは1回3分間の自由会話が行えますが、シナリオ通りに会話が進まなくてもAIがうまくアジャストして、ネイティブと話しているような感覚で、自然な会話のラリーを続けることができます。まだまだ改善の余地はありますが、第一歩としてはかなり完成度の高いものができたと感じています。

日常のワンシーンがわかりやすいイラストで日本語の練習ができるようになっている

――「HAi-J」を開発したのは、どのような背景があったのですか?

田中:日本語は、4技能(聞く・話す・読む・書く)のうち、特に「話す」ことが難しい言語といわれています。けれども、学校という場では、他に学習者がいて自分1人で練習できるわけではないので、会話力を鍛えるにも限界があります。日本語の会話運用力を伸ばすことに特化した教育ツールはこれまで世の中になく、日本語教育に携わる私たち自身が必要としていたことに加え、近年、社会的にもニーズが高まってきたことが、背景として挙げられます。ご存じの通り、日本は人口減少という課題を抱えており、外国からの労働人材や生活者が国内にどんどん増えています。日本で暮らす外国人が日常や職場で必要となる日本語会話能力を効率よく習得できる方法を提供し、教育品質を上げていくことが、急務となってきたのです。
 そんな中、ChatGPTなど生成AI技術が進化してきたことで、web上でAIを相手に会話レッスンを行うというアイデアが実現できそうだという見込みが立ち、「HAi-J」の開発に着手しました。

――開発過程では、どのような苦労がありましたか?

田中:私が悩んだのは、誰をターゲットに、どのような商品に仕上げるかという商品の定義づけです。最初は、世界に約380万人いる日本語学習者が自分で会話練習ができるツールにすることを考えました。しかし、議論を重ねる中で「そうじゃないよね」という話になり、次は会話力を評価するためのアセスメントツールにすることを考えました。けれども、それも違う。最終的には「先生がいなくても自分で学べる日本語会話力の増強ツール」にすることを決めました。私が苦労したのは商品の方向性を固めるところまでで、その先の開発を担当した太田さんや橋元さんには、もっと大変な苦労があったと思います。

太田:「HAi-J」のプロジェクトがキックオフしたのは2023年の10月で、最終的に方向性や仕様が決まったのは2024年の3月。4月から本格的に開発を始めました。2023年の秋にテスト版を作ったのですが、当時はChatGPT-3を使用していて、自然な会話とは程遠い状態でした。会話は可能ですが反応速度が遅く、会話自体のファインチューニングもなく、「これでちゃんと会話ができるの?」と不安になるような出来でした。しかし、その後ChatGPTが劇的に進化し、かなり自然に近い会話が実現できるようになりました。技術的な面でいろいろ苦労はありましたが、特に大変だったのは、学習者の母語によって日本語の発音のクセが違い、なまりのある日本語にAI側をうまく対応させることです。ブラウザから出す音声を自然な日本語の会話として仕上げるのも大変で、そのあたりは橋元さんが苦労されています。ただ、AIの進化やブラウザの翻訳機能のレベルアップが目覚ましいので、そうした技術的進化を受けて、「HAi-J」も今後加速度的によくなっていくと思います。

橋元:私は「HAi-J」の開発が本格的に始まった今年4月に入社しました。「HAi-J」のようにAIをサービスに落とし込んで開発しているケースは業界的に見てもまだ少なく、私自身も初めての経験です。その上、入社したてでヒューマンアカデミーの教育事業や日本語教育に対する理解が浅く、太田さんや学校の先生方からいろいろと話を伺い、ヒューマンの日本語教育について学びながら、どのようなサービスを構築していけばよいかを考える日々でした。また、私が所属する開発課は1年くらい前にできた新部署で、自社でシステムを内製化するのは今回の「HAi-J」が初めてです。設計から開発、テストに至る開発工程のナレッジがまだ蓄積しておらず、開発を行いながらメンバーに都度フィードバックを行い、改善することを並行してやっていました。知らないことや初めての経験ばかりで大変でしたが、これまでにない画期的な商品の開発に、チーム作りから携わることができたのはとても楽しくて、いい経験ができたと感じています。

――「HAi-J」のネーミングには、どのような意味が込められているのでしょう?

田中:商品名は「ヒューマンアカデミー(HA)」「AI」「日本語」の3つを想起できるようなネーミングで、重くなく軽い語感の教材名がいいなと考えていました。ネーミング案はたくさんあり、事業部内でアンケートを取ったのですが、「HAi-J」が1位でした。「Hi!」という英語の挨拶のような軽いタッチで、HAもAIも商品名に入っており、最後のJで日本語とわかるので、いいネーミングだと思っています。

――今後「HAi-J」はどのように進化していきますか? 展望をお聞かせください。

田中:日本語を勉強する人は全員がこれを使う、という教材に育てていきたいですね。技能実習生などの形で日本に来る外国人の来日前教育や、すでに日本で暮らしている外国人やその子弟の日本語教育など、日本語を学ぶすべての人たちのソリューションとして「HAi-J」を活用していきたいと考えています。『つなぐにほんご』と「HAi-J」で学べば、国内外を問わずどんな人でも、会話力・文法理解を含めたかなりのレベルの日本語力がつくと自負しています。日本の将来を考えたとき、外国から人を受け容れ、多文化共生社会を創っていくには、外国人が日常生活や職場で必要となる日本語会話能力を効率よく習得できる教育が不可欠です。日本語を理解できないことで生まれる日本人と外国人との摩擦やカルチャーギャップを解消するためにも、外国人が日本の社会になじみ活躍していくためにも、「HAi-J」は大きな役割を果たしてくれると考えています。
 ヒューマンアカデミー日本語学校としては、将来的にはネットワーク上に校舎を持ちたいと構想しています。いわゆるメタバースのような形で、日本語を学ぶ世界中の人がネットワーク上の校舎に集い、そこで日本語を学び、「HAi-J」で日本語会話を学び、カリキュラムを修了した人には履修証明書を出す。世界のどこにいても同じ品質の教育を受けられる日本語学校をネットワーク上に構築したいですね。

太田:ヒューマンアカデミー日本語学校は37年の歴史があり、現在の学生数は4000人超と、国内最大級の規模を持つ日本語学校です。その日本語教育の会話部分を担うコンテンツとして、「HAi-J」を進化させていきたいと考えています。いまアイデアとして考えているのは、さまざまな国籍の学習者に「HAi-J」を使ってもらう中で、学習ログを記録することです。学習ログをとることで、この国籍の人・この母語の人はここでつまづく、といった国籍別の学びの傾向がデータとして可視化できます。その傾向を基に、学習者の国籍や地域にアジャストした、その国の出身者にとって最速の日本語会話学習法を私たちが考案し、講座として提供することもできるようになると思います。幅広い人々に日本語の学習機会を提供することはもちろんですが、学習ログを活用して当校の教育を一層レベルアップしていくことにも、「HAi-J」を活用していきたいと考えています。

橋元:開発者としては、自分たちが作ったサービスでユーザーの皆さんが満足していただけることが一番の喜びです。「HAi-J」を使って日本語を学び、日本語を話せる人たちが大勢出てきてくれることが、「HAi-J」の目的だと思います。田中さんや太田さんが話された通り、「HAi-J」は外国人人材の日本社会での共生など、日本の国策とも関わる大きな社会的使命を持った商品です。私としては、より使い勝手のよい、学習者が楽しく日本語会話を学べる教育ツールにブラッシュアップしていくことで、プロジェクトの成功に貢献したいと考えています。

<プロフィール>
田中 知信(写真中央)
ヒューマンアカデミー株式会社
国際教育事業部 エグゼクティブオフィサー
外国人向けの日本語講師を経て、2004年にヒューマンアカデミー株式会社に入社。一貫して日本語教育事業に携わり、2018年以降は事業部長としてヒューマンアカデミー日本語学校校長を兼務している。
 
太田 慎一(写真右)
ヒューマンアカデミー株式会社
国際教育事業部 教学室 課長
出版社勤務を経て、2023年4月にヒューマンアカデミー株式会社に入社。教学室にて、主にDX推進に関わる業務を担当している。
 
橋元 涼矢(写真左)
ヒューマンアカデミー株式会社
DX戦略本部 開発課 主任
SEとして事業会社で約4年間勤務した後、2024年4月にヒューマンアカデミー株式会社に入社。外国人向けAI日本語学習アプリ「HAi-J」の開発業務に携わっている。


※2024年9月に取材した内容に基づき、記事を作成しています。
 肩書き・部署名等は取材時のものとなります。

<ヒューマンアカデミー株式会社・会社概要>
ヒューマンアカデミーは、学びの面白さを提供する「Edutainment Company」として、1985 年の創設以来、時代や社会の変化にあわせながら800以上の講座を編成しました。未就学児童から中高生・大学生・社会人・シニア層とあらゆるライフステージにおけるSTEAM教育やリスキリング、学び直しの支援を行っています。
 さらに、独自の「ヒューマンアカデミーGIGAスクール構想」を推進し、学習支援プラットフォーム「assist」を開発。SELFingサポートカウンセラーと講師が、個別に学習目的や目標にあわせた進捗管理や相談などの学習サポートをします。私たちは、常に最先端の教育手法やテクノロジーを取り入れ、学びの喜びを追求し最高水準の教育サービスを提供していきます。