雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?
以前の記事(【令和4年1月1日施行】雇用保険 高年齢被保険者の複数事業所での適用の特例)でもご紹介しておりますが、2022年1月1日にスタートしたマルチジョブホルダー制度について、厚生労働省にてパンフレットやQ&Aも公開されたため、改めて説明したいと思います。
<雇用保険マルチジョブホルダー制度とは?>
(従来の雇用保険制度)
主たる事業所での労働条件が週所定労働時間20時間以上かつ31日以上の雇用見込み等の適用要件を満たす場合に適用されます。
(雇用保険マルチジョブホルダー制度)
複数の事業所で勤務する65歳以上の労働者が、そのうち2つの事業所での勤務を合計して以下の適用対象者の要件を満たす場合に、本人からハローワークに申出を行うことで、申出を行った日から特例的に雇用保険の被保険者(マルチ高年齢被保険者)となることができる制度です。
マルチ高年齢被保険者であった方が失業した場合(※1)には、一定の要件(※2)を満たせば、高年齢求職者給付金(被保険者であった期間に応じて基本手当日額(※3)の30日分または50日分の一時金)を受給することができるようになります。
なお、65歳以上の労働者に限定して本制度を令和4年1月1日から試行実施し、その効果等を施行後5年を目途に検証することとしています。
(※1)2つの事業所のうち1つの事業所のみを離職した場合でも受給することができます。
ただし、上記2つの事業所以外の事業所で就労をしており、離職していないもう1つの事業所と当該3つ目の事業所を併せて、マルチ高年齢被保険者の要件を満たす場合は、被保険者期間が継続されるため、受給することができません。
(※2)離職の日以前1年間に、被保険者期間が通算して6か月以上あること等の要件があります。
(※3)原則として離職の日以前の6か月間に支払われた賃金の合計を180で割って算出した金額の、およそ5~8割となっており、賃金の低い方ほど高い率となります。
<雇用保険マルチジョブホルダー制度の適用対象者は?>
マルチ高年齢被保険者となるには、労働者が以下の要件をすべて満たすことが必要です。雇用保険マルチジョブホルダー制度の場合、雇用保険の適用には本人の申出が必要です。
加入後の取扱いは通常の雇用保険の被保険者と同様で、任意脱退はできません。
1.複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること
2.2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること
3.2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること
なお、雇用保険に加入できるのは2つの事業所までです。また、2つの事業所は異なる事業主であることが必要です。
<加入要件を満たすと必ず加入しなければならないのか?>
通常の雇用保険とは異なり、初めてマルチ高年齢被保険者に加入する場合は、要件を満たすと必ず加入しなければならないわけではなく、マルチ高年齢被保険者として申出をする方の希望により、ハローワークに申出を行った日からマルチ高年齢被保険者となります。
このため、要件を満たす者から申出があった場合は、加入が必要となります。
<3つ以上の事業所で勤務している場合の手続きは?>
3つ以上の事業所で勤務している場合は、マルチ高年齢被保険者として申出をする方が雇用保険に加入する2つの事業所を選択することになります。
なお、3つ以上の事業所(事業所a、b、c)で雇用され、それぞれの事業所との雇用契約が週5時間以上20時間未満である場合、このうち2つの事業所(事業所a、b)によってマルチ高年齢被保険者資格を取得し、そのうちの1つの事業所(事業所b)で離職しても、残る2の事業所(事業所a、c)で週の所定労働時間の合計が20時間以上となり、それぞれの事業所における雇用見込みが31日以上であるのであれば、引き続きマルチ高年齢被保険者として取り扱われます。
この場合、マルチ高年齢被保険者には、事業所bを離職する時点で、事業所a、bに係る資格喪失の手続をしていただき、その上で、事業所a、cに係る資格取得の手続をしていただきます(事業所a、bに係るマルチ高年齢被保険者資格の喪失日と同日に事業所a、cに係るマルチ高年齢被保険者資格を取得します)。
<従業員からのマルチ雇入届の記載依頼は、必ず対応しないといけないのか?>
マルチ高年齢被保険者として雇用保険の適用を希望する者が加入要件に該当する場合に申出を行いマルチ高年齢被保険者となることは、雇用保険法に定められた本人の権利ですので、必ず対応する必要があります。
なお、マルチ高年齢被保険者として雇用保険の適用を希望する者が申出を行ったことを理由として、解雇や雇止め、労働条件の不利益変更など、不利益な取扱を行うことは法律上禁じられています。
<社会保険労務士や労働保険事務組合に雇用保険手続を委託している場合、マルチ取得届やマルチ喪失届の記載を委託することは可能か?>
社会保険労務士や労働保険事務組合が事業主の代わりにマルチ取得届やマルチ喪失届を作成することは可能ですが、提出代行等はできません(マルチ高年齢被保険者本人が社会保険労務士へ委託している場合は代理として申請することは可能です。)。
<雇用保険マルチジョブホルダー制度においても雇用保険料の納付義務はあるのか?>
マルチ高年齢被保険者として雇用保険の適用を希望する者が雇用保険の資格を取得した日から雇用保険料の納付義務が発生します。後日、住居所管轄ハローワークより送付される「雇用保険マルチジョブホルダー雇入・資格取得確認通知書(事業主通知用)」に資格取得日が記載されていますので、確認する必要があります。
<マルチ高年齢被保険者の離職理由は、雇用関係助成金の支給に影響するのか?>
マルチ高年齢被保険者の離職理由は、雇用関係助成金の支給には影響しません。
【参考】
「雇用保険マルチジョブホルダー制度」を新設します2022年1月1日スタート
雇⽤保険マルチジョブホルダー制度の申請パンフレット
Q&A~雇用保険マルチジョブホルダー制度~