スタートアップのリアル: コロナ禍での資金調達に失敗したお話。
今だに入居拒否され続けている在留外国人が、自由に住める社会を目指す不動産テックスタートアップ、アットハース代表の紀野です。
スタートアップとして資金調達してから3期目、自営業から始めて7期目。
全て2021年に起きたアーリーステージのスタートアップのリアルな話です。
大きく成功したことを振り返るのも良いと思いますが、本音で本当に危なかったところを冷や汗かきながら振り返るコンテンツがあっても良いんじゃないかなと思い、自虐的に筆を取っています😉
1.2021年の失敗
国内の引っ越し需要が増えて、お客さんの8−9割国内に住んでいる方なのでコロナによる申込数へのインパクトは限定的でした。寧ろ月次の購入意思の有る申込数は20-30件程度→緊急事態宣言後は引越し控えしていたお客様からの申込みが100件を超え、先月も120件という爆発的な伸びが有りました。(1成約の売上単価は20万+生活サポート5万=25万円だが、多すぎて捌ききれないとサービス低下と離脱に繋がる)
(1)取捨選択、難しい意思決定
元々2021年はシリーズAで1〜2億円を増資によるEquity Financeで調達する予定ではいました。
ただ、過去の傾向から3−4ヶ月マインドも体力も社外に取られてしまうので、足元で数字が伸びている時は社内の施策リードと売上作りを優先しようと決めました。それだけの準備をしてきた自信も有りました。
売上やトラクションが確保出来そうなタイミングは寧ろ借り入れでつなぎ資金を確保しつつ、事業の堅さを作って実績を出してから投資家の方々に評価頂く方が時価総額が上がる(=同じ株式放出分での調達額が増える)可能性が上がるからです。
これは僕のような経験不足な起業家にとっていつも難しい決断です。
どちらもメリット・デメリットが有り、意思決定のタイミングと判断が事業の命運を分ける事になります。
(2)予期しない出来事
ただ、今年はその難しい判断に加え、予想外のことが起きました。
2021年の3回に渡る緊急事態宣言と入国制限です。
冒頭でも触れた通り、私達のお客さんの8−9割国内に住んでいる方なのでコロナによる申込数へのインパクトは限定的でした。また、長期的に考えるとコロナ禍でも実需である賃貸の経済活動は止まらないと考えていました。
それ自体は正しい判断でしたが、国内での情勢を踏まえて引っ越しの先延ばしが思ったよりも重なりました。つまり、申込み意思は堅いが、内覧の為に外出をみだりに繰り返すことはしたくないということです。
最終的にそれが無くなったのは9月以降となり、外国人向け事業で最もハイシーズンである6−9月の売上を確保することが出来ませんでした。
ハイシーズンを見越して5月に開発費用の為に数千万大きく投入するも、予定していた納期の8月を過ぎても新機能が完成せず、キャッシュフローが大きく悪化。
費用削減の為に9月には開発停止とメンバーの稼働日数を削減した矢先に申込数が予想以上に激増し、そこから更に3ヶ月間売上を犠牲にすることに。
事業の雲行きも怪しくなり、特にカスタマーチームを牽引してくれたメンバーには負担が集中し、辞めていくメンバーも。以前と同じ水準で支払うことも難しくなり、現場で問い合わせが増えているにも関わらず稼働日数を減らすことになっていました。
(3).お客さんに助けてもらう
また、長年朝から晩までずっとデスクワークを続けており、健康管理の為に始めた筋トレが仇となり、代表である自分が頚椎ヘルニア&脊髄損傷し、ブロック注射と痛み止め、2−3ヶ月入院する手術の可能性も浮上しました。
2−3年不眠だった理由も明確にはなったことは良かったですが、かなり疲弊していました。
2021年9月に緊急事態宣言が明け、月次100件以上(過去3−4倍)の問い合わせが3−4ヶ月続き、人手が足りず内覧現場に自分もコルセットして行くことに😂 緊急手術の危険性も感じながらコロナに絶対感染出来ないという緊張感が有りました。
情けない話ですが、そんな時内覧中に心配してくれたカスタマーから内覧メンバーを紹介してもらったりユーザーさんにたくさん助けてもらいました。「寧ろアットハースのサービスにもっとお金を払いたい!何か出来ることがあったら教えてくれ」と物件探しを手伝ってくれるお客さんも😢
(他社ポータルサイトの物件URLを持ってアットハースの扉を叩くお客さんがとても多い。)
綱渡りでオペレーションを続け、担当制→分業体制のチューニングに時間がかけながら、不慣れなCRMの導入と運用で自動化を進め、毎日マネージャーと目先のカスタマーをさばく日々。
そもそも開発と営業を見てもらっていた英語を普段使わないマネージャーにまで、無理くり翻訳ツールDeepLと文法校正ツールGrammarlyを使って一次対応してもらうという無理をお願いし、1−2ヶ月で短期的に済ませられる資金調達=借り入れに奔走することにしました。
日本語オンリーでも、最近のツールを駆使して基本のやり取りは可能
2.転機
(1). 何を犠牲にして何を得るか
幸運なことに、10月にお世話になっていた方からの紹介で複数の銀行とキャピタルから問い合わせが有り、是非融資と出資をしたいと申し出を頂きました。
ここでまた取捨選択です。
毎月20名〜問い合わせがくる採用候補者や100件のお客様からの問い合わせ対応を現場のメンバーに思い切って任せて、2ヶ月以内に調達をして採用と組織作りに戻らなければなりません。
プレゼン資料や事業計画書や5年〜7年分の3−4ケースを時間外にマネージャーと夜な夜な作りました。
何度も往復のやり取りを続ける中、社内稟議を回す際に、時間をかけて作成したエクセルは数字の細部に議論が集中したり、パワーポイントを作成しても最も主要なポイントが伝わらず分散してしまい、必要以上に時間がかかること、そして何より意思決定者に正しく伝わっていないことが分かりました。
社内稟議の資料として完璧にしなければ回せないという仕組みを考えると、既存の手法だと難しいのではと感じました。5−7年後の数字をいじっている間にも無情に日々の実業は回っています。
以下を伝えるための動画を幾つも作成しました。
(例:新型コロナウィルスの影響)
a.需要:コロナ禍でも順調に足元の申し込みが増加していること、
b.供給:社内DX開発により東京での外国籍OK物件の解析が終わり、最も多くの物件を保有していること
c.売上:ただ、キャッシュフローの関係で数字として見えてくるのは1−2ヶ月後になること。
d. なぜ今か:その為、繋ぎ融資を2021年内に完了させて、ハイシーズの2-3月に備えて採用と開発費用を今すぐに獲得しなければならないこと…。
(2).最悪の始まり
そして、12月頃にオミクロン株の報道がなされた直後に
「コロナの影響を社内で説得することが出来ない。出資はやはりシリーズBからで今回の話は無かったことに」と言われることとなりました。
頭が真っ白になり、「あぁ、これがよく昔から聞くスタートアップのハードシングスの1つか」と思い、銀行の残高を見ました。残り2ヶ月とちょっとで資金がショートしてバーンします。
あまりの返信の遅さとサポート体制の薄さにユーザーは怒っています。
直接オペレーションを改善しようと現場に入れば、一時的には収まります。
一方で、「組織を作れない創業者、忙しい経営者はダメだ」という声が聴こえてきます。迷っている暇は有りません。
フォローが足りない状態で新メンバーに任せてしまい、過去7年間起き得なかった内覧当日にスタッフが道に迷い、音信不通となり現れないという致命的なミスも起きてしまいました。
そういったことを起こさなかった過去のメンバーへの感謝の気持ちが滲み出てくる間にも、現場を責任者として治めなければいけません。大きく任せたメンバーにも可哀相な経験をさせてしまいました。
(3). 結果に繋がる意思決定
「正しい情報×量 = 意思決定の質」だと言います。
資金調達に成功した人たちの例を大量に見ても、感情が追いついてきません。そこで、大学から起業まで一緒だった友人、シェアハウスに住んでいた頃からの仲間たち、投資家、たくさんの人たちにお会いして相談しました。
アットハースの事業を信じてくれた投資家のGenesia Ventures水谷さんから紹介して頂いたScheeme社の杉守さんと高嶋さん、横浜スタートアップの会でライフタイムベンチャーズの木村さんたちから力強いアドバイスをもらうことになります。
「多分、*資本制ローンいけるよ。」
過去の増資での資金調達時に2回ともトライしてダメだったので諦めていたのですが、実績も出来てきたこのタイミングで外部のScheeme社さんを藁にもすがる思いで頼む事としました。そこからは休日にも関わらず高嶋さんが即レス・即対応してくれて、事業計画の叩きを一緒に仕上げてくれました。
国民金融国庫へは既に10月から相談していたのですが、結果としては
「200万円のコロナ融資」が決まっていました。
有難いお話ではありつつも、1〜2ヶ月手続きを要して1ヶ月の費用分に満たない額であることを担当者の方も認識していた為、定年に相談した結果支店変更をお願いしました。(そもそも、事業継続が出来なければもっとご迷惑をお掛けしてしまう。)
新しい支店の担当者の方と膝を突き合わせて0から信頼関係を構築し、パワポやエクセルで伝わらないと感じた自分は動画を年末年始に4つ作り、必死で上司の方へ繋げてくれる様にお願いしました。
売上が下がっている状態でこれを依頼された担当者も大迷惑です(笑)
3.2022年の改善
(1). 結果
それでも関係した皆さんがアットハースの事業の可能性を信じ、繋いでくれた結果、2022年2月に3,000万の資本制ローンと事業再構築補助金の1,000万が承諾されました!
コロナ禍で何度も資金調達を失敗しながら、今回はブリッジファイナンスと補助金では有りますが累計で約1億2600万円の調達となりました。
(半分事実、半分釣りタイトルすいませんm(_ _)m)
そして、2ヶ月前に断られてしまった複数の銀行からも融資の依頼が来ることとなりました。(一瞬人間不信になりそう、と思いましたが😂 融資は結果が全て。)
そして、開発とカスタマー対応を停めていた3ヶ月ほぼ0となってしまっていた売上も1月から例年の水準以上に戻って来ました。
(2).失敗と改善
失敗と改善の繰り返し。因数が多く変化が激しいこの時代はPDCAというよりDCAの高速回転。スタートアップ的にはPrep→Do→ReviewのPDRの方がしっくりきます。
a.資金→プロダクト×EX
多大な費用をかけて開発や採用をしても、
b. EX→CX
安定的に保守管理したり皆が働きやすい組織を作れないとユーザーを喜ばせることは出来ない。
c. CX→トラクション→資金
ユーザーを喜ばせても、足元の売上を増やして事業を構築出来ないと資金調達は出来ない。(aに戻る)
1つ1つのステップ全てが繋がってEX→CX→トラクション→資金→EX… と還元されないとそもそも事業を継続することが出来ません。
以前はアグレッシブに費用を投入、売上を期待し、資金調達を進めていましたが、今はプランB&Cを準備して戦略的に事業展開出来る経営者になろうと思っています。
(3).信頼とは
その負のサイクルを断ち切る唯一の方法は、a, b, cでリスクを取って協力してくれる信頼関係を得られるか(それを加速させるのは、売上という形で結果を出せるか)がポイントだと思っています。
どんなに全ての人に公平な住環境を作るというビジョンを掲げても、与えてくれた信頼を結果で返せない事業はクローズしていく恐怖を身を持って実感しました。
お客さんやチームメンバー、投資家や銀行との信頼関係なしでは事業継続は不可能です。
ただ、創業時とは違い何年も事業をやっている上で、可能性だけで人は融資や出資をしてはくれないですが、それでも信じてくれる人はきっといます。
メンバーから信頼され組織を作っていく経営者として、まだまだ未熟ですが失敗と改善を繰り返し、絶対に結果を出してみせます💪🔥
アットハースを信じてくれた人たちの顔やこれまでのメンバーの顔が浮かびます。
そして今この瞬間でも、こんなにたくさんのカスタマーが日々感謝してくれたり、必要としてくれていることを糧にまた挑戦していきたいと思います。
6,326文字もの長文、最後まで読んで下さいまして有難うございました。
2022年 2月15日 アットハース代表 紀野