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普通の大学生が港区にあるアミューズメントポーカー店のWEBCOINリングで100万円溶かした話。

ポーカー好きの皆さん初めまして。
自分が経験した話をまとめましたので、WEBCOINリングやトーナメント中の暇つぶしにでも読んでいただけると幸いです。10分程度で読めるようにまとめました。

[アミューズメントポーカー]や[WEBCOINリング]について知らない方は,
こちらのnoteをまずお読みください。



■どうして大学生が100万円も溶かすことになったのか?

[■第一章,ヨコサワキッズと美味しい店]

東京―――、2024年11月某日。
落陽が街を染める中、自分は友人に誘われて港区にあるWEBCOINリング専門店に向かっていた。

この友人とは、某店舗の所属ディーラーをしてる時に客として知り会った。

ポーカー歴は2年で、友人も同じくらい。
二人とも、ヨコサワのYouTubeきっかけで始めたいわゆるヨコサワキッズ。
でも実力は、海外で勝てるくらいには正直上手いと思うし、歴だけ長いアミュオジや自分を誘ってきた友人よりは確実に上手いと思っている。今でも。てか、ヨコサワキッズって誰が言い出したんだろう。ピョコタンかな。

そんな自分より格下の友人が「オイシイ店があるから行こう」と誘ってきたのが数日前。

「マジで稼げる!」て、あまりにしつこいから一回ぐらい行ってみるか。そんな軽い気持ち。

目的の店はSNSで有名なとこで、何度も警察が来てるってことも聞かされてた。

夕方5時くらい。
六本木の交差点付近、黒人が並ぶ繁華街の通りに立つ雑居ビル。その空中階に店はあった。

タバコと薄く異様な匂いがするエレベーターを抜けて店内に入ると、すぐに店員が近づいてきてリングゲームですか?と聞かれた。愛想は凄く良い。「はい」と答えると、開いてるテーブルに友人と一緒に案内された。

店内を軽く見回す。半年前?に出来たばかりの店にしては、綺麗とも汚いともいえない黒を基調とした内装で、雑居ビルのテナントらしい檻のような閉塞感があった。

テーブルは全部で4卓。ところどころ毛羽立ったラシャや少しべたつくチップ。
椅子の座り心地は良いのに、なんか店全体に漂う空気は良くない。

ふと、所属のディーラーをしてた時に、毎日トランプとチップを洗わされていたことを思い出した。めんどくさかった。こういうのは社員がやればいいのにって思いながらとりあえず従ってた2、3か月前のマジメな自分。

所属は就活を理由に辞めて、今は大型大会で撒くくらい。まあ就活ってことにして辞めたけど、店長を納得させられるなら辞める理由なんてなんでもよかった。

卓に座っていると、頼んだジンジャーエールを店員が運んできてくれた。
そしてそのままシステムを説明してくれる。
レートは[1-2]で[100円-200円]。
100bbは2万円で、大学生が遊びに使う金としては高め。

自分は別に富裕層の子供じゃない。六本木まで1時間かかる郊外の実家に住んでる普通の大学生。バイトでするディーラーの時給は1,500円前後で、一日働いても1万ちょい。その倍の金をチップに換えて港区の雑居ビルでポーカーをする。ほんと自分でも馬鹿だと思う。就活すら半端なのに。

自分と友人は200bb(4万円)を引き出した。
引き出したといっても、この店は後払い制で、負けない限り無料で遊べるし、勝てばその分のWEBCOINが貯まる。

テーブルには他に30~40歳くらいの大人が4人いて、6人でWEBCOINリングをやることになった。アメリカのカジノの最低レートがこのくらいの値段じゃなかったっけ?行ったことないから詳しくは知らないけれど。

とりあえず最初の30分くらいは様子見しようとって思ってた。[ポーカーは観察のゲーム]って、どっかのプロが言ってたし。

でも、たった数ハンドで分かる。このテーブルなら負けることはない。チップの出し方、マックの仕方、ハンドの見方もベット額もプレイも、目も雰囲気も、へぼくて、雑魚そのものだったからだ。

なによりアクションが固かった。タイトというかニット。レイズすれば降りる。アグレッションの高さがウリな自分にとって一番都合のいい相手。ポーカーは臆病者のゲームじゃないって、こいつらはそんな当たり前のことさえ知らないようだった。

1時間ぐらい経った頃、アホほどニットな大人からスチールしまくった自分は200bbを1時間で250bb(5万円)まで増やしていた。時給は1万。楽勝過ぎ。友人も同じくらい勝ってた。

それからさらに1時間近く打って、夜7時くらいになると4卓満席で店内は騒がしくなっていた。この頃には、入ったばかりに感じていた居心地の悪さはチップが増えたこともあり、とうに無くなっていた。


[■第二章,群れをなすサカナ]


でもまだ1万ちょいしか勝ててない。
テーブルがぬるいのに[1-2]じゃ稼げない。

そう思っていた時、隣の[2-5]の席が2つ空いた。1bb、500円。100bb、5万円のレートだ。

所属してた店舗は良心的な店で100bbは平均相場の5,000円。

思い返せばもうすでに感覚は若干麻痺ってたと思う。それか、ジンジャーエールに変なもんでも入れられたか。どっちにしろ、相場の10倍レートに座ろうとしているのに怖さはなかった。
むしろ、数千円で長々とポーカーしてる奴らがセコく、小さく感じる。所詮あいつらは、フロップと可愛い女性ディーラーを見たいだけなのだ。

自分と友人は200bb(10万円)もって[2-5]のテーブルに座って1時間ほどプレイした。

テーブルはバカみたいにぬるかった。シーシャの味にやたらこだわる女性を連れた講釈メガネおじ。その隣には、ワイシャツのボタンを胸元まで開けた威勢だけはいいツーブロックの下手クソサラリーマン。さらにその隣は、負けを認めたくないのか「サービスコール」などと毎回保険をかけてプレイする中年。それと、スタックされたら「ふざけすぎたからちゃんとやるか!」などと騒ぐプライドだけはご立派な関西弁ロン毛。

サカナの群れというのを初めて目の当たりすることが出来た。友人がオイシイ店と言っていたのは確かだった。

女性にまとわりついた不快な香水。おじの的外れな講習と口臭と加齢臭。ツーブロックが飛ばす唾液。関西弁のチリチリに傷んだロン毛。保険屋。こんな公害が気にならなくなるほどに、間違いなくここは楽園だった。

夜8時、気づけばチップは300bb(15万)にまで増えていた。3時間弱で+11万。時給4万弱。
バイトするのがバカらしくなる。

「このテーブルで死ぬまで打ってたい」
友人からラインが届く。

俯きながら「だな」って返すと、笑いを堪えてる自分の顔がスマホの画面に映ってた。

会社ではそれなりに立場があるらしいツーブロックも、女性を金で買える眼鏡おじもポーカーの実力は下の下。こんな無能と社会に出て一緒に働くのは疲れそうだなって思いながら、打ち続けた。

そんな中、もうひとつのテーブルで[5-10]が始まった。噂は本当だった。

SNSで、港区のWEBCOINリングで数十万勝ったという投稿を何度も見たことがあった。社会で報われない寒いヤツが承認欲求を満たすために吐き出す虚言だと思ってた。でも違った。本当だった。

移動する?いやさすがにレートが高すぎるか?
[500円-1,000円]。つまり100bb、10万円……。たしかYouTubeでヨコサワが打ってるレートがこのくらいだった気がする。別にカジノなら普通じゃね?って思うかもしれないけど、ここは港区のアミューズだ。渋谷の店が[4円-12円]なのと比べるとどれだけハイレートかが分かる。

でも、見た限りテーブルはぬるそうで、すぐにやるしかないって気になった。

実は、10月のJOPTメインで入賞してWEBCOINは40万ほど持っている。
それに今の勝ち額と合わせれば50万、500bbもある。これだけあれば、破産することはない。
それどころか100万だって夢じゃない。

もしダメそうならひとまず100bb、10万勝って、あとは減らさない様にすればいい。そうすれば、年末年始のJOPTは余裕で遊べる。

自分は、友人と共に[5-10]に移動した。

卓には自分と友人を含めて8人。
コロナ罹患疑惑の自称経営者。35歳くらいの性癖歪んでそうな胡散臭い起業家。それに、ストライプスーツを着た50歳くらいの白髪まじりの不動産社長。あとは、音楽関係者らしい奴と、某ポーカーYouTubeに出てたマッシュルームメガネ。それから、何してるか分からないけどとりあえず人の金で生きてそうなアイコスしゃぶりの女性。なんかそんなのがいた記憶。

卓は賑やかで、移動するとなぜかすげえ歓迎された。

年齢聞かれて、大学生と言うとはじかれる気がしたから、IT企業で働いてるってことにした。

「給料よさそぉー」と、アイコス女性。
「いや、そんなでもないっす」って、愛想笑いで返して気付く。この女性どっかで見たことある。寿司屋で問題を起こした例の女性か?いや、多分見間違い。港区の女性はキレイだけど、顔がみんな同じで見分けがつかない。

まずは様子見。3分で分かる。レベルは他と同じで雑魚のみ。JOPTよりレベル低いし、明らかに所属してた店の常連の方が100倍上手い。

正直不動産「ポーカー歴はどのくらい?」
「4年くらいすね」ちょっと盛った。

コロナ疑惑「海外は?」
「たまにっすね」行ったことない。

雰囲気音楽家「きっかけはヨコサワ?」
「まあ、そうすね」だからなに?

アイコス「じぇいそる知ってる?」
「知ってます」
アイコス「韓国で写真撮ってもらったよ」
「いいですね」羨ましくもなんともねえよ。

なんて楽しい会話をしながら30分が経った頃。
性癖歪んでそうな起業家が「”あれ”、やろうよ」と言い出した。

”あれ”って? 友人も分かっていない様子。

その言葉に、某YouTubeに出てたマッシュルームが「”あれ”やるんなら帰るよー」と、情けない声を出しながら言った。こいつネカマらしい。そして、本当に帰っていった。「これから女の子と食事だから」ってふかしながら。

マッシュルームが帰ってテーブルには自分と友人、それから「”あれ”やるんなら俺も入るわ」と言ってきたハイブランド茶髪サングラスを含めて8人で再開した。

そして始まったんだ。
[5-10-20-40-80]のゲームが。


[■第三章,港区ハイリミットポーカー]


そう、"あれ"とはストラドルが入るゲームのことだった。

円換算で[500-1,000-2,000-4,000-8,000]。
これって、ヨコサワがYouTubeで打ってるレートより高くね……?

ストラドルがあるなんて知らなかったと言って断ればよかった。でもできなかった。心の中で声がしたんだ。「逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ」って。いや、うそ、単純に見栄。余裕の顔で受け入れたけどほんとは寒気がしてた。

オープンレイズは[200]。
現金価値にして2万円。
フロップの時点でポットは5万超え。
そんなゲームが毎回のように行われた。

友人と顔を見合わせた。一刻も早くこんなゲームから降りよう。じゃなきゃ、一年分のバイト代が瞬間で吹き飛ぶ……。

そう思えたらよかった。

でも、人間てのは不思議なもので、いざゲームが始まるとアドレナリンが認識を切り替えた。

1回ポットをとれば5万。2回とれたら10万。
なんだ楽勝じゃんって。

あとは、適当な理由をつけて店を出ればいい。
数か月前、世話になった所属の店を就活を理由に辞めた時みたいに。

こんなオイシイ店はない。友人に誘ってくれてありがとうと視線を送った。

それから30分も経たなかったと思う。

友人は手元の200bbすべて溶かし、リバイしていた。30分弱で20万負けたのだ。

平気な顔をしているが、笑顔は引きつっていた。

自分でさえ、さすがにもうヤバいかもしれない。そう感じていた。

なぜならスタンドアップゲームが始まったからだ。

8人いる中で、最後までPOTを取れなかったら他の7人に1bbつまり1,000円。合計7,000円を払う罰符ゲーム。アクションを促す為に海外で主流だということは知ってる。ヨコサワがやってるのも何回も見たことがある。

でも、ここはそれだけじゃない。
二回連続で負けたら、罰符が1bbではなく2bbになり14,000円払うルール。

こんなバカみたいなゲームを、この店に通う客は毎日やってるらしい。
海外に行かずに、港区の雑居ビルで、いい大人が、WEBCOINで。

そう思うと、どいつもこいつもコンクリートの檻ではしゃぐ間抜けなサルに見えてきた。

高田馬場に100bb、2万円のWEBCOINリング専門店ができた時、さすがに違法だろとSNSで炎上した。

数か月前まで、100bb、5,000円の店に所属してた自分もそっち派だった。アミューズで万単位の金使ってどうすんのバカが。

それなのに自分は今、手元に配られた[AK]で上乗せ(つまりレイズ)するだけで2万かかるゲームをしてる。

上乗せしたら3人がコールした。POTは10万。

フロップにA落ちてくれ。頼む。絡めよボード。死ぬほど願った。

思いが届いて、フロップはAK6でツーペアができた。

すると、茶髪サングラスが5万のドンクBETをしてきた。

まさに間抜け。転売する才能しかないのか。

相手がボトムヒットさえ降りないということは、これまでのゲームを観察していたから知っている。

自分のチップは手元に25万。全弾ぶちこんで、倍の50万にできるこれ以上ないチャンス。

転売ハイブランド茶髪サングラスのドンク5万に、25万のオールインを返した。

全弾とれる!!

はずだった。

しかし相手は、AJを見せながら降りた。
「ブラフできないっしょ」そう言われた。

少し前まで[1-2]でニットだと周りの大人を見下してた自分が[5-10-20-40-80]のこのテーブルでは自分がそのニットになっていた。

嘲笑のマト。
教室で手を上げて答えて、それが外れた時のような恥ずかしさに似ていた。そんなこと、小学生以来ないけど。

でもPOTはとれた。25万が40万になった。スタンドアップゲームの罰符も逃れた。OK、満足。あと1回スチールしたら帰る。そう決めた。

なのに、次のPOTで10万負け、さらにそれからしばらくPOTがとれなくなり、罰符を何度も払わされ、勝率80%のオールインに負け、テーブルにあった40万とそれを取り返す為に追加した40万を失っていた。

たった1時間の出来事だった。
引き出しは合計50万。
40万WEBCOINでは足りない。

帰ればよかった。
でも帰らなかった。
だって友人は、150万負けていたから。

そんなのは言い訳でしかないけど。

自分は50万。友人は150万を取り返す為に、テーブルに座り続けた。
目の前のバカで間抜けな、ポーカーの基本ストラテジーすら知らないギャンブル中毒のサルたちを沈めるために。


[■最終章,檻の中の美しいサルたち]


「大丈夫。焦ったら本当に負けだ。とりあえす今はペイシェント」
ヨコサワの言葉を胸に刻む。

その結果、友人は50万負けまで取り返し、自分は、さらに負け続けて1,000bb、つまり100万円負けた。

入店から4時間が経っていた。

頭を冷やそうとジンジャーエールを含んでも喉は渇き切ったまま。頬は痙攣、手足は震え、呼吸は浅く、血液は循環を諦め、数時間前に路上で見た黒人とは正反対に、顔は青白くなっていた。

目の前でケラケラ笑ってるサルを殴ってやりたい衝動に駆られたが耐えた。

友人に、もう帰ろうと言われた。

瞬間、頭が働いた。店員の目を盗んで逃げればいいんだ。

だが、その様子を察したのか、二人の店員が囲むように近づき「支払いはどうしますか?」と、声をかけてきた。

脳天がぶち抜かれ、血液は逆流を始める。

「払えません」
事実だし、嘘ではない。40万WEBCOINしかないのだから、残りの60万は払えない。

「え?」って、店員が言ってきたけど、そんなの知ったこっちゃない。払えないから払えないって言うしかない。

奥の部屋に連れていかれて、誰でもいいから知り合いに連絡しろと言われたけど、無理だった。これまで何回も借りて飛んでるんだから。

前のバイト先の同僚にも借りようとしたし、店長には負けすぎたからポーカー辞めるって言った。でも続けてた、内緒で。

親呼ぶか警察行くかって迫られた。
今思えば、警察に行けばよかった。
こんなレートの店、違法なんだから払う必要なんてないって開き直って。

でも、この期に及んで親にすがった。
大学生にもなって、来年就職して社会に出る歳にもなって。

成人ってなんだっけ……?

パート終わりの家で晩飯作って待ってる母親に電話で説明した。WEBCOINリングで負けたから、60万払って欲しいって。

驚いてたし、全く意味が分かってなかった。
そりゃあそう。意味わからんよ、突然そんなこと言われたら。

でも、驚かれてる場合じゃない。払わないといけない。不足分の60万。

「とりあえず、六本木に来て。住所送るから」
そう言って、電話を切って、母親が来るまで2時間を要した。

遅い、早く帰りたい、そう思いながら待った。
だって腹減ってたし。

母親が店に来て、自分と店員とで説明した。

「よく分からないけど、払うしかないのね」
そう言いながら母親は支払うことを決めた。

40万円分WEBCOINで払おうとした時、急にGAME iDアプリからコインが消えるのが嫌になった。

だから、母親に80万払ってもらい、手元に20万コイン残すことにした。

姑息だと思う人もいれば賢いと思う人もいると思う。自分は肯定的に捉えてくれる人と仲良くしたい。自分に対して敵意を抱く人に使う時間なんてもったいないし。

母親と共にエレベーターに乗り込む。
入店した時にあんなに愛想よかった店員が、見向きもしない。

「なんか、このエレベーター変な匂いするね」
母親の鼻は正常だと思った。

夜11時前くらいだったかな。
こうして、なんとか檻から抜け出すことができた。

蝉も鳴かない、雪も降らない半端な季節の秋の夜に六本木の通りを母親と歩くことになるなんて、想像していなかった。

母親は都会の人込みが嫌いだった。
電車で駆けつけてくれたらしいけど、乗り換えが大変で、時間がかかったと言っていた。

「ごめんね、着くの遅くなって」
隣を歩く母親の服は、何年も着回している数千円の色褪せたもの。港区を歩くには華やかさが足りなかった。

いいよ別に。

「なんで途中で辞めなかったの?」
そう言ってきた母親の顔はうっすら思い出せる。

「ポーカーまだ続けるの?」
続けて母親が聞いてきた。

うん。
だって父親が子供の頃に教えてくれたんだ。
負けたまま帰って来るなって。
YouTubeでそうじろうも言ってたし。

「ポーカーってお金かかるんだね」と母親。

そうでもないよ。数十万は誤差だってWATABETていう番組に出てたクズって人とブロッコリーていうプロの人が言ってたし。

「お野菜?」

それに今、俺とタメくらいの奴が店の金でラスベガスで打ってるんだけど、そいつらも何十万とか負けてるし。

「そういうもんなんだね」

大丈夫だって。あのさ母さん。来月あそこに新しくできる店で10万円のトナメがあって、それで優勝したら200万もらえるから。

自分に歩幅を合わせるように歩く母親が「そう」と、だけ言う。その横顔がなぜか寂しそうだったから、安心させてあげたかった。

JOPTっていう大会あるでしょ。1か月前に俺がインマネした。それがまた年越しにあるんだけど、5万とか10万のトナメたくさんあるし、50万のやつ優勝したら2,000万とか貰える!

「よく分からないけど、勝てるの?」

前に俺が出てたJOPTの配信見たでしょ。解説のみさわさんってプロの人が俺のプレイ見て、なんだこれすげえって褒めてたじゃん。

「みんなにそう言ってたような気がするけど」

そんなことないって!

熱い話をしながら母親と共に地下深い大江戸線のホームに沈んでいく。

そして、流れ込んできた車両に乗り込んだ。
郊外の実家へと帰るために。

1時間、都心を流れるように走る電車の中で母親は大好きな曲をリピートして聞いていた。

吉田拓郎の『落陽』―――。

父親との思い出の曲らしい。でもどんな曲かよく知らないし、興味もない。

だから自分は、SEKAINO OWARIを口ずさみながらSNSを開く。
[怖いものなんてない、僕らはもう一人じゃない]いい歌詞だ。

[高時給‼]なんて甘い言葉で綴られた闇バイト募集の投稿を簡単にスルーして、ポーカー関連の投稿に目をやる。

【★100万WEBCOIN保障トナメ!】
【★周年祭!総プライズ1,000万WEBCOIN!】
【★大人気WEBCOINリング‼新規特典あり‼】
【★完全後払いシステム‼WEBCOIN大放出‼】
【★JOPTのためにWEBCOINを獲得しよう!】

チャンスはたくさんある。必ず取り返してみせる。逸る気持ちを抑えて母親をチラと見ると、まだ吉田拓郎を聞いていた。

よく飽きないな。あ、てかヨコサワのYouTube明日更新か。そろそろ勝ってるとこ見てえな。そんなことを思いながら母親から視線を外すと、二つの眼球が車窓に映った己を捉える。

その姿はまるで、知性を失ったサルのように美しかった。


■終わり

以上、お読みいただきありがとうございました。

自分が経験したこの話に[悪]は存在しないと思ってます。アミューズメントポーカー発展のためにPOKERWEBCOINを生み出し、店は客の需要に精一杯応える。そして、客はポーカーを全力で楽しむ。

これ以上ない、健康で文化的な素晴らしい環境だと思います。ずっと続いて欲しいと心から願ってます。

今では、中学生がオンラインで100万負け、得体の知れないヘッズアップコーチングで20万かかるそんな時代ですから、業界はこれからもどんどん発展していってくれると信じています。次のJOPTで100万円のトナメが開催されることも願っています。ステーキング集めて出たいです。

実は自分だけでなく、他にも数人、WEBCOINリングで数十万負けたという大学生がいます。みんな負けたことを話してないだけです。もちろん数百万勝った友人だっています。一時期、自分には実力がないかもしれないと思ったことがありましたが、大型大会でみさわさんがプレイを褒めてくれたので、自分は間違っていなかったんだと勇気を貰えました。ポーカーは実力ももちろん反映されるけど、ほとんどは運なのでこれからも諦めずに戦っていきたいと思います。ペイシェント!

以上


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