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映画“めぐり逢い”3.独断と偏愛で語るラストシーン
“めぐり逢い”は、レオ・マッケリー監督が1939年に作った“邂逅”(シャルル・ボワイエ&アイリーン・ダン)を自身でリメイクしたものです。1939年版もしっとりとした味わいのある作品です。せりふや演出がほぼそっくりなので、逆に違う点が興味深く、監督が何にこだわったのか、つい妄想したくなります(笑)
<シャルル・ボワイエ&アイリーン・ダン、邂逅:めぐり逢い>
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ラストシーンは、クリスマスの日、ひとりで過ごすテリーのアパートにニッキーが現れ、思いがけず再会するところから始まります。
*1枚の絵のようなテリーの姿
エンディングまで、テリーはソファに座ったまま。表情や顔の傾き、わずかな手のしぐさだけで繊細な感情を表現します。初期にバレリーナを目指し、ステージも経験したデボラ・カーは、こういうデリケートな表現が素敵です。テリーはクリスマスカラーの上品な赤い色の服を着て、同じ色のブランケットをかけています。
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足先まで一続きの姿は絵画的な美しさで、マネの“オランピア”を思い浮かべました。
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アイリーン・ダンは柄物のブランケットで、いかにもかけていますという印象で、ともすればブランケットに意識がいってしまいます。実は、旧作のほうが、多くの点でよりリアリティがあって面白いです。
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去り際、部屋を出ようとしたニッキーが振り返ると、肖像画のようなテリーの姿が目に入り、手放した「絵」を思い出して語り始める・・・そこに至る重要な伏線として、テリーの姿を「絵画」のように、見る人の目に焼きつけようとしたのではないでしょうか。
*脚本になかった“これが眺めの良い部屋かい?”
ニッキーは、やっと探しあてたテリーに皮肉たっぷりの憤った調子で挨拶し、動揺を抑えつつテリーは応じます。ニッキーが椅子に腰を掛け、会話が始まります。
ニッキー:これが眺めの良い部屋かい?
テリー:高いところが嫌いになって・・
一瞬の間があって、2人は目をあわせて、ふっと微笑みます。
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私はこの場面が好きです。一体どういうことなんだ!と問い詰めたいことも言いたいことも山ほどあるけど、目の前に相手がいるのがやっぱり嬉しいのです。ニッキーはテリーの返事に、“こんな切り返しをするのが彼女なんだ”と懐かしく思ったかもしれません。二人の心情がよく表れていると思います。
ところがこのやり取り、どうも脚本にはなかったようなのです。ネットでみつけたRevised Final Script(1957 1.30付)では、挨拶が済んで座ったあと、“突然訪ねて驚いただろう?”と、話が進んでしまいます。
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いつ、どのようにしてあのシーンが加わったのでしょう・・ ちなみにレオ・マッケリー監督は、即興で自由に演技させるタイプだったそうで、最終カットに残った場面の多くがケーリー・グラントとデボラ・カーが即興で演じたものだったとか。現場を想像するとワクワクしますね。
*順番が入れ替わった“そんな目で見ないで”
すべてを悟ったニッキーとテリーが向き合う場面。
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最初の台本では、
ニッキー:なぜ黙っていたんだ? よりによって、君がこんな目にあうなんて
テリー:ダーリン、そんな目でみないで
という順番でした。(アイリーン・ダン版も同じ)
これだと、ニッキーの言葉に対するリアクションになります。
映画では、目に涙をためたテリーが先に、“そんな目でみないで”と言います。順番が逆になっているのです。
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テリーはニッキーの目に、真実を知らなかったことや守ってあげられなかった悔恨、そして何よりも深い愛情をみて、胸が一杯になり、先にそう言わずにはいられなかった・・
順番を入れ替えたことで、より深いニュアンスが加わったのではないでしょうか。
*幻のエンディング
スクリプトには、最後に何ともう一つシーンが書かれていました。
→ ナポリのVillaで、ニッキーがテリーが抱きかかえて出てくる、テリーが歩けるようになったかは分からない
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王子様とお姫さまはめでたく結ばれました、で終わるはずのエンディングに、その後はいらない・・・そんな理由でカットされたのでしょうか。等々は知る由もないけれど、監督と俳優・スタッフの、クリエイティブで真摯な共同作業に感動です☆ 何度見ても、結末が分かっていても感動する珠玉のラブロマンスに乾杯!
<キャビンのセットで打ち合わせをする3人>
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最初と最後の写真は、インターネットからお借りしました。