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亡き夫の声を聞きにEmbankment駅へ( ロンドン)

ロンドン旅行では本当によく地下鉄に乗りました。路線が発達していてどこへ行くにも便利です。そのなかで、どうしても行きたかった駅がありました。
Northern LineのEmbankment駅です。
”Mind the Gap”(隙間にお気をつけください)という駅のアナウンスが聞きたかったのです。


<エピソード>
2012年11月、開業医のマーガレット・マッコラム(Dr. Margaret McCollum)さんは、長年親しんだEmbankment駅のアナウンスの音声が突然変わったことに気づき、ショックを受けました。そのアナウンスは、2007年に亡くなった夫のオズワルド・ローレンス(Oswald Lawrence)さんが1970年代に録音したものだったからです。時代が新しくなり、アナウンスは自動化されたデジタル音声に代わりました。夫に先立たれてから5年間、駅でオズワルトさんの声を聞くのを心の支えにしていたマーガレットさんは、音源のテープをもらえないかと交通局に尋ねました。
スタッフは、アーカイブを検索し修復した音源からCDを作成してプレゼントしただけでなく、マーガレットさんが生きている限り、オズワルドさんの声でEmbankment駅のアナウンスを流すことを約束しました。


実際の音声(30秒~)とマーガレットさん ↓


画像:Dr. Margaret McCollum at Embankment Station on the Northern Line. Photo: BBCより


マーガレットさんの願いを叶えようと奔走ほんそうした方々の優しさに胸を打たれます。CDをプレゼントするところまでは想像がつくのですが、駅でオズワルトさんの声を流し続けると決めたことに感動しました。
大きな組織が人間性を持つ・・・なかなか出来ないことですよね。
ロンドンを歩いていると、車が来なければ赤信号でも平気で渡るし、地下鉄は小さくて汚いし、雑な感じもあるのだけれど、「人間味」でくくると、じわっと魅力が増します。


スタイリッシュなデザイン


ベンチに座ってしばらくアナウンスに耳を傾けました。 大勢の人が乗り降りしては去っていくホームで何台も電車を見送っていると、自分だけが時間の流れから外れているような不思議な気がしました。
オズワルトさんの少し演劇的でアナログな声が心地よく、今も耳に残って離れません。
といっても、何も知らずに聞いたらデジタルな音声と区別がつくはずありません。 世界的ヴァイオリニストの五嶋みどりさんが、オンラインでヴァイオリンのレッスンをしなくてはならなかった時、「オンラインだと生徒の音がデジタルになってしまう」と言っていたのを思い出しました。
やはり何かが違うのでしょう。 


ロンドンの地下鉄は、駅それぞれに歴史や個性があって面白いです。
主要な駅のエスカレーターにミュージカルや演劇のポスターがずらっと並んでいるのは、さすがでした。


2023年5月の戴冠式の週末には、何とチャールズ国王とカミラ王妃の音声が駅に流れたそうです。
「妻と私は、あなたとあなたのご家族が素晴らしい戴冠式の週末を過ごせることを祈っています」
「どちらに旅される方も、安全で楽しいご旅行になることを願っております」
そして最後は、Remember, Please mind the gapで締めくくりました。
どんないきさつで録音に至ったか、想像すると興味深いですね。


毎日のように使っていても、声の主など気にもとめない駅のアナウンス。でも、行き交う人の心に知らず知らず響いているのかも知れません。
音声ではないけれど、地下鉄の職員2人が、運行状況を知らせる掲示板に書き始めたポジティブなメッセージが反響を呼び、本になりました。


ロンドン交通博物館のギフトショップには、その本をはじめ、座席と同じ柄のカラフルでお洒落なクッションなど、楽しいグッズがたくさん。


私はティータイムのお供に、MIND THE GAPのショートブレッドを買いました。勿論、缶はとっておきま~す❤