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フォルテピアノってまるで〇〇のようだった~川口成彦リサイタル~

みなさんこんにちは。群馬県高崎市のコンサートサロン「アトリエミストラル」オーナーの櫻井です。

11月2日にアトリエミストラルで演奏してくださった川口成彦さんのフォルテピアノのリサイタルを、かつしかシンフォニーヒルズ アイリスホールに聴きに行ってきました。

プログラムは

シューマンやメンデルデルスゾーンの他、女性作曲家であるクララ・シューマンやポーリーヌ・ヴィアルドの作品を織り交ぜながら、最後はショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーゼ」という、割とというかすごく意欲的かつ内容の濃いプログラム。フォルテピアノは1843年製のプレイエル(タカギクラヴィア楽器所有)。

私はフォルテピアノの音は聴いたことはあったものの、どうもピンと来ていなくて、表現力とか音量の面でやっぱりモダンの方に軍配が上がるのでは?と思っていた典型的な一般聴衆の一人。でも川口さんの演奏や、書籍からフォルテピアノをこんな私の狭い了見で判断していいのか?という疑問から、聴きに行きたいと思ったのでした。

しょっぱなのシューマンの第一音

から「あ、モダンとは全く違う。何だこの柔らかくてふくよかな響きは!?」と、それまでの疑問が一瞬にして氷解したのが我ながらびっくりしました。これがフォルテピアノなのか?だとしたらすごい世界だし、そういう機会に巡り合えてよかったと開始5分も経たないうちに悟りました(笑)

たとえて言えば「良い素材で丁寧にとった出汁で作られたお吸い物や煮物」という感じ。現代においては、意外とその濃い味付けや派手でおしゃれな盛り付けが目を引くけれど、実は一番大事なのは「出汁」の「旨味」。

川口さんの演奏は

ただ楽譜をなぞるだけではない、ピアノの変遷とか歴史とか当時の音楽を取り巻く社会的な環境とか、また作曲家の想いとか、楽譜から読み取れる感情とか、それと自分を同期させる術とか、あらゆる技術や経験や知識を総動員させて紡ぎだしている音なのでした。そこには生々しい感情や「死」の匂いまでもがあったのです。

こんな演奏を聴いたのは初めてで、感動や驚きやその他のいろいろがごちゃごちゃになった自分がいました。そしてふと、アトリエミストラルのプレイエル(1905年製)の音に似ている音が存在していることにも気づいたのです。あ、この楽器と同じ系統のピアノを私はいつも聴いているのだと。

フォルテピアノを使用していた時代の音楽を

現代の演奏家がフォルテピアノで演奏し、その音を現代の私たちが聴く重要性を改めて納得したというか、腑に落ちたというか。。。

それは単に「ショパンはこんな音を聴いてたんだ、へぇ~」という単純なものではなく、掘り下げれば掘り下げるほど、自分の認識や知識がいかに表面的なものだったかということに気づかされ、モダンピアノへの変化が「なぜ」なされたのか?そして「我々はなぜそれを受け入れたのか?求めたのか?」という音楽とは関係ないかもしれない視点を持たざるを得なくなってしまったのでした。

そう、もはや「出汁なしには戻れない」のです

「女性作曲家」の作品

そしてもう1点、川口さんが取り組まれている「女性作曲家」の作品を聴けたことが大きな収穫でした。私は自分が女性であるにもかかわらず、「女性作曲家」の作曲する作品は、言ってもいわゆる男性の著名な作曲家にはその内容で「劣る」のではないか?と思っていたのです。

しかし、実際に聴いてみると、まったく見劣りせずしっかりした構成だし、「女性作曲家」だと言われなければわからないのでは?と思いました。

改めて、なぜ歴史に残った曲は男性のものばかりなのか?なぜ女性は残らなかったのか? そこには(あくまでも私の直感なのですが)意図的に女性作曲家は「消された」のではないか?との想いがよぎりました。

私を含めて、西洋クラシック音楽にかかわる者は、その歴史や社会的な慣習、宗教、文化(文学や絵画なども)まで知る必要があるし、個人的に「女性作曲家」の作品がなぜ演奏されなくなったのか?を意識していくことになるような気がしています。

ピアノの歴史は「発展」ではなく「変容」

これは、会場で買い求めた、川口さんが27歳の時に録音したシューベルトのフォルテピアノによる演奏のプログラムノートに書かれていたものです。

ついつい、私たちは現代のものが最も「上」で過去のものは現代になるための「準備段階のもの」と思いがちです。ある一面ではそうかもしれません。しかしピアノそのものが「発展して」今の形になったのではなく「変容」の一側面なのだと考えるだけで、モダンピアノに対してもフォルテピアノに対しても、「聴き方」の幅が違ってくる気がしたのです。

このコンサートが、私にとって今年2024年最後のコンサートになりますが、このタイミングでこんな大切なことに気づかせてくれたフォルテピアノという楽器と川口成彦さんに心から感謝申し上げます。



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