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【コラボ作文】ストレス
「ストレスたまってると空を飛ぶ夢を見るんだって」
いつのことだろう。誰かがそう言った。
そして私は、いや違う、それは違うぞと心のなかで呟いた。
なぜなら、私は自分がその練習をしたという自負があるからだ。
“そらとぶれんしゅう”
あれは小学校入学前であったろう。
団地の花壇の上から、両手を羽ばたきながらジャンプするという訓練をひたすら続けた時期があった。手のはためかせ方に微妙な変化をつけたり、ジャンプ後どのタイミングで羽ばたきを始めるのがベストかを計るなど、幼いながらに地道な検証を重ねていた。
(あ、今、さっきより少し飛べていたような気がする!)
私の心は高鳴った。
〜昔 ギリシアのイカロスは ろうで固めた鳥の羽 両手に持って飛び立った
雲より高くまだ遠く 勇気一つを友にして〜
みんなのうたでこんな歌が流れていて神妙な気持ちになったものだ。
そしてある夜、私は夢の中で“自分の意思で自由に空を飛ぶ能力”を獲得したのである。夢の中で必要に迫られると、花壇でそうしたように地面を蹴り、あるタイミングで羽ばたき、気流に乗る。すると下から、みんなが私を不思議そうに見上げている。
「どうして飛べるの?どうやって?」
ちなみにこの能力(特権?)は年齢を重ねても、消失することはなく、大人になった今も、あの時の練習は無駄でなかったと思ってしまうほどである。
「ねえみて!そらとぶれんしゅうをしているの!」
「じょうずでしょ!さっきよりとべた!」
そして、驚くべきことに、最近、娘が私と全く同じ練習を始めた。繰り返しソファから飛び降りては両手をはためかせている。
「もっとこう、手を細かく動かしてさ。」
「どのタイミングでパタパタするか色々試してごらん。」
母の指導はなかなか具体的かつ真剣だ。
習得すれば、娘も夢の中で空飛ぶ能力を得られるかもしれない。
あの得も言われぬ心地よさを、できればこの子にも味わってほしいじゃないか。
「ストレスたまってると空を飛ぶ夢を見るんだって」
いや違う。違うぞと、娘の跳ぶ姿を眺めながらやはり心の中で叫ぶのである。
★この作品は友人とのコラボ作文です。相棒よこたちかこの作品はこちら。