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山梨山小屋逗留日記(二日目)

【二日目】
 翌朝、キッチンからの調理音に起こされ、起床。
病気や服薬の影響で昼夜逆転、不眠症、過眠症を何クールか繰り返した末、朝七時頃に起床できるようになったのは最近である。
 一階に降りると家族が朝食を作ってくれていた。私は料理こそ出来るが取り合わせと見栄えの才能がないのでここにおいて料理は家族におんぶにだっこである。
 朝食はスクランブルエッグ、ウインナー、スライスハム、レタス、トースト、自宅から持ってきた苺、瓶牛乳、コーヒー。
もしゃもしゃ食べる。
 完食してシャワーを浴びて、最低限の化粧をして、今日のスケジュールを敢行する為に車に乗って九時には出発。
 家族はすでに山小屋の修繕作業を開始している、事前に資材を買い込んで持参しているけれど、足りないものがあれば私に連絡が来るようになっている。
 出発して間もなく別荘地の出入口に出る。ここから見える富士山が毎度絶景なのでスマホと一眼レフで撮影する。
 今日は土曜日なので、明日いっぱいまで観光名所はうんざりするほど混むだろうし、ガイドブックに載っている観光名所は前回で大体おさえたので、個人的に好きな場所を濃い目に攻めていくことにした。
うねうねとした山道を下りながら大通りに出ると、西湖や精進湖の方へ車を走らせる。
このあたりは『ハッピードリンクショップ』という看板をよく見る。要は自動販売機が数台置かれた場所である。立ち止まってよくよく見たことはないのだが、安かったりするんだろうか。我が家の方では見ないので、ご当地的なものなのかもしれない。
 のんびり走っていると目的の場所の駐車場入り口が見えてくる、天然記念物『鳴沢氷穴』へ到着である。
青木ヶ原樹海の東の入口に位置する竪穴型洞窟で、一年中氷に覆われた内部の平均気温は3℃という涼しさ、昨年行った時は真夏だっただけに体感気温の落差に感動した。
 夏にあれだけ涼しいのであれば、4月中旬の今ならばさらに凍えるほど寒いのではないか、私はそう考え再度入洞することにした。
券売窓口の横には大量の風車が飾られている、綺麗で風情もあるが、場所柄もの悲しさも感じる。
 一番手で入洞、溶岩洞窟の隆起が激しい入口の階段を数段下がり、上を向くと隆起の激しい樹形溶岩群の岩肌からそびえる木々が覗く。ここからの眺めが好きだ。
すでにひんやりとした空気が下から上ってきて、家族連れのお父さんが驚いていた。
 内部の足元はでこぼこ、濡れて滑る、気を付けないと頭を狭い天井にぶつかるので、程度はあれど常に中腰進行で引きこもり体質には地味にきつい。
閉所恐怖症にはとてもつらい隘路を抜けて地上への階段を上り切ったところで本来の目的を思い出した。
 結論、4月中旬の気温と氷穴の気温差がそもそも少ないので寒さを痛感するには夏に来るのが自分的にベスト。
 次に向かったのは富岳風穴、こちらは横穴型洞窟となっており、氷穴よりは歩きやすい奥に進むと現れる氷柱や、かつては権力者に献上されていたという氷の塊が積まれている。
 気温の低さを利用した天然の冷蔵庫として昔は蚕や種子を保存していたので、サンプルの展示もある。最近、養蚕に関する神事の取材のお手伝いをさせていただいてから、少しだけ養蚕に興味を持ち始めたよくよく眺める。
 ちなみに山梨には大石紬という伝統工芸品があり、河口湖近くには無料で入れる『大石紬伝統工芸館』があり、三日目終盤に立ち寄った。
さて、富岳風穴に来たのはもう一つの理由があった青木ヶ原、青木ヶ原樹海である。鳴沢氷穴と富岳風穴は内部の遊歩道を歩けば着くくらいの距離だが、実は住所が前者は村で後者は町にあたる。氷穴も青木ヶ原樹海なのだが、富岳風穴には住所そのものに青木ヶ原の名が入っている。
 心霊系YouTuberの動画を視聴し続けてきたおかげで、青木ヶ原樹海に関する洒落怖話はほぼ暗記しているし、撮影スタッフがどこから入っていくのかは動画でチェック済みである。今回は素人が正規ルートで安全に青木ヶ原樹海を散策してみることにした。
 富岳風穴の入口・売店の反対側に、『富士箱根伊豆国立公園(東海自然歩道)』の看板が立っている。本格的なトレッキング装備をしたグループが入っていくのを何度か見かけたが、自分が入るのは初めてだ。
看板の上には駐車場にいるひとりひとりを厳しく睨みつけるように背の高い一台の監視カメラが立っている姿が、町中で見かける監視カメラとは違う雰囲気を醸し出していた。
 歩道側から青木ヶ原樹海へと入っていく、装備など全くしていないカジュアルさなので、奥まで足を運ぶ予定はない。それでも10分くらいは歩みを進めたと思う。
 まだ午前中である、樹海の木々の間を天上から降り注ぐ柔らかな日差しが木漏れ日を作り出して周囲を照らしている。澄んだ空気と空間だと感じた。
昼間なので当たり前だが全然怖くない。これが夜になると雰囲気が一変するというのだが、いくら寝起きする山小屋から近くても、夜はちょっとだけ遠慮したい。怖いのはオバケだけじゃないから。
 富岳風穴の駐車場を出て、本栖湖方面へ。『ゆるキャン△』にも登場する身延町にある『浩庵キャンプ場』へ、限定のゆるキャン△グッズを買うのが目的である。
 ただやはり今日は土曜日、キャンプ場は激しい混み具合だった。観光バスも乗用車もキャンプカーも押し合いへし合い状態。グッズを買う為だけに来たのが正直申し訳ない。スタッフさんの案内で車を停めると足早に売店へ入店。
 現存する施設とキャラクターが描かれた限定ステッカーがあったのでそちらを購入、展示されたフィギュアや非売品グッズを撮影して浩庵キャンプ場を後にした。また今度ゆっくり来る予定。富士五湖でそれぞれ富士山の見え方が違うので写真はちゃんとファインダーに納めた。
 河口湖方面にUターンしつつ、まだ立ち寄ったことのない神社を発見、駐車場探しに四苦八苦しつつ参拝したこちらは『富士山世界文化遺産 延喜式内明神大社 河口浅間神社 』
 冠木門(かぶきもん)という石造りの門柱には、重要無形文化財の河口の稚児舞の張り紙が目を惹く。帰って調べてみたらこのお稚児さんのことを『オイチイサン』と言うらしく、語感が可愛い。
 大鳥居を越え、拝殿へ向かう参道の杉並木の途中に『波多志神』さまという小さいお社がある。これも公式ホームページで調べたら北麓地方に伝わる『徐福伝説』に関わるそうで、不死の妙薬を探しに蓬莱山へ来た徐福伝説大好き人間な私は静かに興奮。
 本当は本殿の裏を歩いていくと滝もあるようなのだが、今回は参拝のみで我慢。次回ゆっくり軽い山登りと滝のマイナスイオンを楽しんで来ようと思う。
 駐車場に戻り、覚悟を決めて河口湖付近へ、この時期はさくら祭を開催されていたらしく、富士山に桜、湖にキッチンカー、フリーマーケット、屋台とあっては、人の出が尋常でなかった。
 『河口湖木ノ花美術館』でねこのダヤンの美術館を一回りし、大石紬伝統工芸館を見学して退散。
家族のおつかいで、昨日寄ったモール内のスーパーでマヨネーズと醤油、ホームセンターで購入して山小屋へ帰還。
 晩ごはんは家族が作っておいてくれたクリームシチューをたっぷり食べて、ハンドメイドの雑貨を数点作り、本日も就寝。

つづく

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