見出し画像

北海道のおもちゃの歴史とこれからを探求する

 今回のコラムはずっとゆっくり考えてみたかった内容で、北海道のおもちゃの歴史と木のおもちゃの未来を考えてみた。特に北海道にはどんなおもちゃ作家がいるのか知らない方も多いので、自分自身を除く他の先輩おもちゃ作家に注目しながら、歴史と合わせて深堀りしていきたい。


・北海道の郷土玩具から学ぶ

 北海道の本格的な開拓は、明治2年(1869年)に始まった。2024年現在、北海道の開拓が始まってから155年が経つ。おもちゃ作家として活動していくと、おもちゃの歴史的背景を考えることも多く、特に郷土玩具にはそうした歴史が詰まっていることも多いので、ふとよく考える事がある。例えば北海道が蝦夷地だった頃、江戸時代から明治にかけて作られた郷土玩具は各地域の風土を色濃く反映し、多くは信仰的に作られたものが多く、明治から大正になると、外国からセルロイド製の近代的な玩具が入ってきたことで少しずつ郷土玩具の文化は目にすることが無くなっていった背景がある。
 
 北海道の郷土玩具で代表的なものは「木彫りの熊」「ニポポ」「北海道神宮の干支鈴」「いかのぼりと蝦夷凧」「十勝だるま」「アイヌ人形」などが挙げられるが、これは開拓後に出来た郷土玩具であり、元々アイヌ族は織物類・祭神具・工芸品などは作るが、玩具の類を持たない部族だったそうだ。そして、やはり現代的なおもちゃの印象とは違い、観光時のお土産や工芸品の要素が強い。


出典:日本全国郷土玩具バーチャルミュージアム 民芸館より

 では、現代の北海道で遊ばれる木のおもちゃはいつから育まれ、現代に続くものはどのくらいあるのだろうか?グローバル社会となり、ネットを中心に国内だけではなく、世界と繋がり海外製の玩具を気軽に手に入れることが出来る現代だからこそ、誰がどのように木のおもちゃを作り続けてきたのかを改めて抑えておくと、今後の北海道のおもちゃ作りのヒントが見えてくるのではないだろうか。

・北海道のおもちゃ作家と玩具の歴史


 まず、北海道のおもちゃ作家を知る上で代表的な作家は誰なのかを調べていくと、1995年に出版された「木遊び」という書籍が参考になる。タイトルには「10人の木のおもちゃ作家の対話から」とされており、当時の全国のおもちゃ作家を紹介し、うち2名が北海道のおもちゃ作家として紹介されている。一人は工房カラコロとして作家活動をしていた本保真治さんだが、現在はスタジオノートという屋号として岡田亘さんが跡を継ぎ、おもちゃ製作を続けている。新千歳空港に北海道を代表する木のおもちゃとして華々しく陳列され、木のおもちゃオンラインサイト「APTY」でもイチオシの全国的に人気のおもちゃ作家である。

新千歳空港で沢山並べられる木のおもちゃ達
出典:Living札幌
新千歳空港deシマエナガ雑貨に出会う
「Craft Studio(クラフトスタジオ)」! - リビング札幌Web

もう一人はKEM工房の煙山泰子さんだ。網走郡津別町で“木のつべつの木デザイン計画”を指導し、おもちゃ及びウッドクラフトのデザイナーとして活躍していた。(肩書きはおもちゃ作家ではない)現在は木育マイスター研修の講師業を中心に幅広く木育活動を展開している。更にもう1名個人的に思い付くのは、銭函で木の店AUAUという屋号で木製クラフトを中心におもちゃを作り続ける運野淳さんだ。子どもが遊べるおもちゃはもちろん、生活で使える木のクラフト製品も数多く製作・販売している。夏休みシーズンにはスマートボールで遊べる企画など毎年恒例で行っており、地元に愛される作家さんだ。他にも三浦木地の三浦忠司さんや木工クラフトのチエモクさんなども有名だが、おもちゃ作家というカテゴリーではなさそうだ。

煙山さんの工房に訪れた写真。木で出来た様々な美しい玩具や造形物が並ぶ。

 以上、3組が北海道を代表するおもちゃ作家さん達ではないだろうか。いずれの作家さんも1990年代頃から活動を始めており、2024年現在も世に木のおもちゃを送り出している。ただ、おもちゃの歴史を辿っていくと、1960年代~1980年代はテレビやアニメの普及、プラスチックの大量生産などにより、おもちゃの世界が大きく変化し、1990年代~2000年代ではデジタル化とインターネットの普及により、デジタルゲームが子どもたちの遊びの中心になった。そして、2020年代以降はコロナ渦の影響もあり、アナログボードゲーム等の自宅での遊びが改めて重視され、子ども向けのプログラミング玩具が注目を集め、論理的思考能力や創造性を育むツールとして玩具が活用されている。

出典:北海道Likers編集部

 このようにおもちゃの歴史を辿っていくと、木のおもちゃというものはおもちゃの歴史の表舞台にはいないことがよく分かる。だが、木のおもちゃの潜在的なニーズと子ども達を中心とした教育的な必要性があるからこそ、今でもおもちゃ作家が活躍し、木のおもちゃが多くの人に愛されていることは事実だろう。そうした様々な背景を踏まえて、今後木のおもちゃはどのような形として残っていくのだろうか。

・次世代へ繋ぐ木のおもちゃとは

 上記の戦後からの歴史的背景を考えても、北海道で木のおもちゃ作りが始まって100年にも満たない間に子ども達の遊びのベースがコロコロと変わっている事が分かる。これは産業の発展と素材の多様化、経済成長と消費の変化、グローバル化と情報化、教育への意識の変化など、本当に複雑な要素が絡み合った結果、一見して捉えきれないほどの多様化が進んだと考えられる。

カラマツの森

 こうした中で木のおもちゃを次世代に残していくのかを考えることは、様々な素材と世界との中でその魅力がきちんと伝わるようなものとして″人から人へ”伝わらないと繋がらないだろう。、、というのも、やはり大量生産・大量消費が出来るデジタルコンテンツ・プラスチック製品などとは違い、木製品が同じ土俵で勝負するのは単に資本主義の流れに飲み込まれてしまうからである。なので、その点をいかに差別化しながらもその良さを次世代へ継承できるキッカケが増えるような機会を作るかが、これからの”木のおもちゃ”には欠かせない要素でないだろうか。

 冒頭では”郷土玩具”に関して述べたが、郷土玩具のように多くの人に認知され文化のようになっているモノというのは次世代へ繋がっていくのだろうと思う。しかし、郷土玩具には実用性がほとんどないものが多いので、″実用性があり、次世代へ繋がるおもちゃ”というのがこれからの時代へ繋いでいく為のおもちゃ作りに必須になるように思う。それは流行り・廃りに左右されない時代を超えて良いと思えるおもちゃである。おもちゃの考察はまだまだ続く。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?