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正直な信号とは

2020年11月に東京大学の岡ノ谷一夫教授のご講演を聞く機会をいただきました。岡ノ谷先生は、小鳥のさえずりに文法があることを発見された方で、言葉の起源やコミュニケーションの本質について研究されています。今回はオンラインによる受講でしたが、最新の研究成果を身近な事例を交えながら、素人にもわかるように教えていただきました。

その中で特に印象に残ったキーワードが3つありました。それは「性選択」、「ハンディキャップの原理」そして「正直な信号」です。それぞれについて私が理解したことを挙げます。

〇「性選択」                            動物が生きる究極の目的は、次の世代に自分の遺伝子を残すことである。そのためには、生き残る可能性が高いパートナーと生殖を行う必要がある。ただし、オスは相手を替えて何度も生殖ができるのに対し、メスは抱卵や妊娠に期間と栄養が割かれるため、生殖の機会が限られる。そのため、動物の世界では、メスがパートナーとなるオスを吟味して選んでいる。これを「性選択」という。

〇「ハンディキャップの原理」
ダーウインの進化論でいう「適者生存」の考えでは、逃げ足が早かったり、戦いに強いオスが、優れたパートナーとしてメスに選ばれることになる。しかし、クジャクの世界でオスの尾羽があれほど綺麗で立派になったのは、その特徴を持つオスがメスに選ばれ続けた結果である。クジャクの他にも、キジのオスが目立つ色をしていること、鹿のオスが大きな角を持っていること、シオマネキというカニもオスが無駄に目立つ大きい爪を持っていることなど類例がいくつもある。これは、無駄に目立つものを付けていても天敵につかまらず生き延びていることがポイントで、それが錘を付けて競走するように、ハンデキャップをつけても負けない実力があるという、強さの証明になっている。これを「ハンディキャップの原理」という。

〇「正直な信号」                          人間のコミュニケーションは言語と感情によって行われる。感情を伝える表情について、意図的に笑う表情をつくることはできるが、「目が笑っていない」というふうに相手には本気かどうかがすぐ伝わる。言語については、流暢さや語彙力、声の震えなどはごまかせないが、内容については編集可能で嘘をついたり誇張したりすることができる。発話行為のうち、韻律、表情、動作など編集できない部分(情動情報)が「正直な信号」としてコミュニケーションの信頼性を保証している。したがって、発話内容と情動情報が一致して初めて、伝えたいことが伝わる。

3つのキーワードを基準に自身のこれまでの人生をふり返って、残念な場面をいくつも思い出し、女性の直観力には私たち男の想像を超えるものがあると悟りました。私は特に鈍かった(^^;)。

近年、女性活躍という言葉がよく聞かれます。しかし、それは男性の視点から発せられる言葉のようで、「労働力が減るから」であったり「平等にチャンスを与える」、「誰もが活躍できるように」という文脈で語られることがほとんどのように思えます。

私は「女性の直観力を活かす」観点で、組織の仕組みや戦略、行動を変えていくことが幸福度の高い社会を実現する近道ではないかと考えます。

私は仕事がら政治家の方とお話することが多いので、選挙を例に考えてみます。公職の選挙では「女性票が大事」とだれもが言います。それは「女性=浮動票」という考えが下地にあり、多くの候補者が、幼児教育無償化、待機児童解消、一人親支援など女性が喜ぶと思う施策を公約に掲げています。しかし、これは後で編集可能な情報ですし、候補者の日ごろの行動などが理由でそもそも女性有権者に相手にされていない恐れもあります。

それより大事なのは、女性に話をまともに聞いてもらえるようなプレゼンスや表情、声など直感に訴える側面を整え、そのうえで公約の内容について女性有権者から率直なフィードバックを受け、本当に住民が望む政策を練り上げて示していくという戦略ではないでしょうか。

企業の経営者やチームリーダーにも同じようなことが言えるのではないかと思います。

岡ノ谷先生のお話で気づいたことを、さらに理解しようと思い12月に岡ノ谷先生の著作「脳に心が読めるか?」を読みました。その中で脳と心に関して90冊以上の文献が紹介されていましたので、これからそれらを少しずつ読んで気づいたことを書いていきたいと思います。

2021年正月

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