部下と上司とエトセトラ⑥
部下と上司と始まりの釜飯
まだ最上と芳香と、芳香の同期・霜村ミライを加えた3人で出掛けていた頃の話だ。
芳香が2連休の初日に実家へ帰るのに合わせて、3人は夕方過ぎに最寄りから2つ離れた駅で待ち合わせた。
>何かリクエストある?
>翌日が焼き肉なので、それ以外で
社員寮の好で組まれたグループチャットで、前もって最上から希望を聞かれていたが、帰省翌日の夜に家族で、よく行く焼肉屋へ行く予定を考慮してそう返した。
だが、夕食の献立が変わるのはよくあること。
外食の予定が頓挫になり、出前の寿司を頼むことになった。それが帰る前の日のこと。
ところが当日の朝、再び変更になった旨のメールが義姉から届いていた。
(変わりすぎでしょ!)
呆れた芳香だが、あまりにも献立が変わるので、変更の旨は最上にもミライにも伝えなかった。まさか被るとも思っていなかったから。
「焼き肉が駄目なんだよね」
予定の時間に合流すると、移動する途中で最上が確認してきた。それに対し、芳香は苦笑しながら顛末を話す。
「それが……あれから二転三転して、結局は釜飯になりました」
「釜飯になったんだ」
芳香の話に、ミライが反応を見せる一方で、最上の様子がどこかおかしかった。
「嘘でしょ……」
「どう見ても嘘なんて言うタイミングじゃないでしょうよ」
最上の反応で、芳香は9割方悟った。
「……もしかして、釜飯なんですか?」
「うん」
最上が困ったように頷く。
「だってさ普通、夕食が釜飯になるなんて思わないじゃない? 俺だって『もしかしたら、変わるかもしれない』って思ったよ? でもさ、まさか釜飯だなんて……ねぇ」
「私も夕食に釜飯被りするなんて聞いたことないですよ」
「釜飯被り……」
最上は言い訳を始め、芳香は申し訳なさから全面同意、ミライは【釜飯被り】という日常生活ではあまり耳にしないパワーワードが、つぼに入ったようで腹を抱えて笑い出した。
「何で釜飯なの?」
「それ、私に聞きます?」
あまりにも非をこちらに擦り付けてくるので、キレ気味に返すが、芳香自身も内心では最上に賛同していた。
だが一方で、出前寿司の系列店である出前の釜飯屋を家族ぐるみで贔屓にしているのもまた事実で、完全には頷けないのもまた事実だ。
店頭にさがっている看板を見て、芳香は改めて実感した。
(釜飯なんだな……)
その店は、芳香達が勤める会社の系列店の近くにあって、最上が現在の日下店に来る前にいた店でもあったから、馴染みがあったようだった。
そのため、注文はほとんど最上に丸投げした。
そうして運ばれて来たのは、串揚げの盛り合わせや枝豆などの定番的な居酒屋メニュー、そしてその締めに、それはやって来た。
滅多なことには、連日釜飯が出ることなどないわけで、隣に座ったミライは再び笑い出した。
店を選んだ側と知らずに被らせてしまった側は最早冷静である。むしろ、酒の肴にすらしている勢いだ。
「まあ、そうそう2日続けて釜飯食べることなんてないんだからさ」
「……たぶん、これから先ずっと最上さんに弄られ続けそうだね」
ミライが芳香にだけ聞こえるように囁いたが、芳香は大して気にしてなかった。
個人的にもこれは面白い展開だったし、実家に帰る度に引き合いに出されたとて、それはそれで愉快だと思っていた。
そして翌日の夜。
実家の食卓では、あまりスマホを持ち込まない芳香だが、これは撮らねばと1枚撮影し、即座に最上へ送った。