見出し画像

いつか(後編)

その頃、WRX STIに乗って7年の月日が経過していた。
最も好きなクルマに乗ることは
確実に自分自身のQOL
・・・よく医療現場で言われる、
Quality of Life,
すなわち生活の質、が向上したと感じられた。


だが、一方で乗ったからこそ
抱えることになった感情もあった。


とにかく、愛車を他者に触って欲しくない。
当初、物珍しさからか
よくSTIを見せてと言われることもあり、
お披露目する機会も設けたが、
触られる度に嫉妬心が湧き上がってきていた。


今でも愛車について語る時に
半分笑い話で言う話だが、
恋人が他者と寝ても許せるが
愛車が誰かに乗られたり、
触られたりするのが許せない。


また、納車1ヶ月で追突された日や
(これもいつか語る日が来るかもしれない。)
雪の日にエアロが破損した日は
数日に渡って泣き暮れた。
STIに対する自分自身の感情に、
かなり振り回されていたのは事実だった。


「1番好きな人と結婚するより、
2番目に好きな人と結婚した方が幸せになれる」
通説として語られることが多いその言葉を
悲しいかな、人間ではなく
クルマで体感してしまった。


26歳という
自分の身体能力の絶頂時に購入し、
様々なところを走り、
自分の手に余るクルマであることも
十二分に体感できた。


山口百恵氏や、最近だと
安室奈美恵氏ではないが、
ピークの時に、美しい思い出を残したまま
まだ綺麗な状態の時に
次のオーナーに渡すことが出来れば・・・。


それに加え
訪問看護に舵を切るにあたって
時には社用車ではなく、
自家用車で訪問することも考えられる。
次は軽自動車を選ぼうか。


考えを巡らせるだけ巡らせて、
最後に息子たちに聞いてみた。


「STI乗り続けたい?」


「うーん、俺らはいいかな。」


自分の予想とは裏腹に、
息子たちはスプラッシュほど
執着心がなかったようで
肩透かしを喰らってしまった。


「もっと、反発してもいいのに・・・」


初めはそう思った私だが
そう思うのも、ある種
親のエゴなのかもしれない。
・・・「子供がいたからできなかった」
そう言われて育った私は、
何事においても
「子供がいるから」を
言い訳にしない生き方を目指してきた。
ここにきて、意味合いは違えど
息子たちを盾にして
保有し続けるというのも言い訳じゃないか。


かくして、WRX STIを手放し
ほどなくして体調を崩したこともあり、
病院を退職。
在宅医療を中心に訪問看護も行なっている、
現在(※2023.11.23.時点)
の事業所へ移ることとなった。


医療、福祉の仕事をしていると
人生の最後を迎える方や、
そのご家族と出会う。
最後に後悔を口にする方の多くが、
「やりたいことをやっておけばよかった」
と話される。
やりたいことを、悔いなく
言い訳を作らずに、やりきる。


WRX STIを通じて、
よりその思いが強くなったのであった。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?