カプリコが思い出の味になるなんて①

夫との馴れ初めを記しておこうと思う。
少し前、フォーリンラブのバービーさんが結婚したときに、パートナーが二人の馴れ初めを書いていたのがきっかけだ。
とても素敵な文章だった。
あんなに引き込まれるような面白い書き方は出来ないけれど、遠い記憶になる前に、記録しておこうと思う。
長いので、少しずつ。

きっかけは友達の紹介。
事前情報は、友達の職場の先輩で、私と同じくロックバンド・藍坊主が好きで、私の地元の隣町出身ということだけ。

この共通の友達と、もう一人女の子、そして私の三人は、前日もたまたま一緒に過ごしていた。
この子たちを含めたいつもの仲間6人で、私の誕生日会をしてくれたのだ。
当時の私は、仕事に打ちのめされてかなり落ち込んでいた。その少し前には彼氏に突然フラれて、散々だった。やさぐれていたところだ。
だからバースデーケーキを前に泣いてしまったのを覚えている。
こんな私でも、生まれたことを祝ってくれる友達がいることに感動していたのだ。

そんな嬉しかった余韻を残しつつ、初めての「紹介」という場に若干緊張していたが、努めて冷静を装った。
待ち合わせの時刻。季節は梅雨入り前。夕方だがまだ外は明るい。
団扇で暑そうな顔を仰ぎながら、でも緊張を隠せない表情で上目遣いになってしまっている童顔男子と、仏のような微笑みをたたえて半歩後ろを歩く少しふくよかな癒し系男子。
二人が小声で「こんにちは。」と寄ってきた。
共通の友達は彼氏がいたので、今日は仲人役。
つまり、2対2の、しかも矢印の方向がほぼ決まった合コンのようなものがスタートした。
私に向けられた矢印は、童顔男子が起点になっていた。

まずはじめに名前を聞いて驚く。
地元ではその名字を聞くとどの辺りに住んでいるか分かるような、逆にその地域以外では滅多に聞かない名字だった。
何より、私が中学の頃に好きだった人と同じだったのだ。
告白したらOKをもらえたのに全く相手にされず避けられ続ける、という謎で残酷で非常に切ない思い出だ。

こんなことがあるのか!?
もし付き合ってそのまま結婚したら私もこの名字になるのか!?
どうする!?どうする私!?
と何度も「!?」が頭に浮かんだ。
今日のメンバーにこの名字事情を知る人はいない。動揺を周囲に悟られないようになんとか落ち着こうと前向きな言い訳を探す。

ふと思い出した、過去の自分が得た教訓。

「名前で人を判断してはいけない」

我に返った。

これは昔、彼氏の元カノと同じ名前だからあの子はちょっとね…と陰口を言っていたクラスメイトから学んだ。
そのクラスメイトもきっと、どこかのタイミングで考えを切り替えたと思いたい。

名字のインパクトに気を取られてながらも男性陣が予約してくれた居酒屋へ向かおうと身体を捻ろうとしたとき、男性陣が「昨日誕生日だって聞いたから…」と私に何かを差し出した。
がさがさ…。
私の目線が正面から右下に落ちる。童顔男子が手に持っていたのは大量のカプリコだ。いちご味の象徴であるピンク色の円錐形が透明のビニール袋の中に積み重なっている。たぶん10個はあったはず。
ここに来る前にゲーセンで獲った代物だという。
咄嗟にこの時、
これまでの24年間でカプリコって食べたことあったかな?いや、ないな。
となぜ考えたのかも分からないが、誰にもバレないくらいの一瞬だけ、フリーズした。
でも、そんな気を遣わせない程度のプレゼントを用意できるところに好感を抱き、名字のインパクトはトーンダウンし、私は既に気を良くしていた。

既に脳みそをフル回転させて一人で一仕事終えたような私だったが、まだこれは待ち合わせ場所の話。
居酒屋では、内容は昔のことすぎてよく覚えていないけれど、共通の話題がいくつもあったので会話は難なく続いた。
ただ、緊張で表情筋の動かし方を忘れてしまったような、しかし相変わらず目がくりっとした童顔男子が
「山登りが好きで、料理を作るのも好き。だから季節で言うと秋を思い切り楽しめる人間です。」
と考えに考えたのだろう自己紹介を言ったことは一生忘れない。
まぁ、忘れていないのだから、彼の勝利か。

この時点ではまだ恋愛対象としての決め手には欠けていた。ただ、とても真面目で話のテンポも心地良く、話していて疲れない相手だとは思っていた。

それから童顔男子とメールでのやりとりが続く毎日。
私も彼も仕事が忙しく、しかも彼のスケジュールの都合で向こう1ヶ月は会えないとのこと。
自分の誕生日を消化した私は、彼からのメールには返信するものの、それを楽しみにするまでの余裕がなく、ただただ仕事に忙殺される毎日を繰り返した。

いいなと思ったら応援しよう!