カプリコが思い出の味になるなんて②
初めての出会いから1ヶ月以上が経過してから、ようやく童顔男子と二人で会った。
普段からスカートよりパンツ派の私は、お気に入りのブラウスとサンダルでデート仕様に仕上げた。
仕事上、毎日一つに結っていた髪の毛もコテで巻いて下ろした。
暑いけれど、オシャレは我慢だと自分に言い聞かせた。
でも、どんなデートをしたのかはもうあまり覚えていない。
たぶん、今から書く内容が記念すべき初デートでの出来事だったと思うが、もしかすると2回目に会った時の話だったかもしれない。
とにかく、まだお互いをよく知らない間柄だということがここでのポイントだ。
小雨の降る大きなターミナル駅に私たちはいた。
日曜だから、翌日からの地獄のサラリーマン生活に備えるべく、夕方にこの駅で私たちは別々の帰路につくことになっていたのは確かだ。
彼は周りに会話を聞かれない、けれど腰を据えて話ができるシチュエーションを求めていたのだろう。
私は何も聞かされないまま、「ちょっとあの辺に行こう」と言われるまま、駅構内をあちこち歩き回らされた。
20分程うろうろしていたと思う。
最終的に座れたのは、雨が風に乗って屋根の下に入るために、お気に入りのブラウスから出る腕が軽く濡れてしまうような場所だった。
昼間は暑かったのに、もう肌寒くて早く帰りたかった。
足元はヒールのあるサンダルで、すっかり歩き疲れていた。
なんなの?
なんでこんなところまで連れてくるの?
ヒールの女に気遣いの欠片もないじゃないか。
自分はスニーカーでスタスタ歩きやがって。
私には怒りの感情すら沸いてきていた。
そこで彼が、もじもじしながら声を出した。
「あの…よかったら、僕と付き合ってください。」
え?
今日初めて二人で会いましたよね?(確か)
まだあなたのこと何も知らないですよ?
私のことも何も知りませんよね?
こんな童顔で真面目そうな男性が?
え?
そんな見切り発車していいんですか?
意外すぎる大胆な行動に絶句した。
夫曰く、最初に会った時から付き合おうと決めていたらしい。
これを私は友達に「とりあえずツバをつけられたんだよ」と説明している。
謙遜とか卑下ではない。
おそらく「とりあえず付き合ってみよう」というスタンスだったのだろう。
ちなみに彼にルックスの好みというものは無い。
赤子に対する可愛いも、恋人に対する可愛いも同じ意味だという。
だから一目惚れという説は残念ながら無いのだ。
誠に残念ではあるが。
返事はよく考えてからでいい、と言われたので、その場では答えなかった。
その代わり、来週も会いたいと言われた。
予定もなかったので承諾した。
そんな調子で、私は向こう1ヶ月ほど返事を保留にしたまま週1ペースで彼とデートをしていた。
なかなかな高頻度。
こんなに積極的な人だとは思いもしなかったが、私も不思議と誘いを断らなかった。
決め手には欠けるけれど嫌いではないし、一緒にいるとなんとなく心地良い。
心のどこかで、もっと彼のことを知りたいと思っていた。
そして、私は自分の気持ちのコントラストがまだ曖昧な状態で、なぜか他人のことを言えないほど大胆な行動に出たのである。