『2030年の世界地図帳』を読んで。追記。「デジタル発酵」とは?
前回の記事で、落合陽一さんの『2030年の世界地図帳』の紹介をしたのだが、文章が思いのほか長くなってしまったので、最後の方を少し濁して終わってしまった感がある。
それは落合陽一さんの主張する「デジタル発酵」についてだ。
実はこの部分がこの本における最重要ポイントなのだが、「詳しくは本書を読んでほしい」などと読者に放り投げてしまった…。
という訳で、「デジタル発酵」についてもう少し言及してみたい。
この本は「世界」の現代や未来を俯瞰するための見取り図的な役割も果たすが、それは本の1ページから333ページまでで、
「おわりに」と題された本の最後17ページに、前333ページ分に匹敵するくらい大事なことが書かれている。
それが「デジタル発酵」という落合さんの概念だ。
「発酵」とは、「醤油」や「味噌」、「日本酒」の製造に代表されるように「微生物の働きによって、物質が変化すること」を言うが、
本書では「日本文化を発酵させ、新しい日本文化をつくり出す」というような意味合いで使われている。
落合さんの説明によるとこうだ。
木の枝が放射状に生長していくような、外部に向けてネットワークの網の目を伸ばしていく力学とは反対にある、内側へと籠ることによって醸成され生み出される変化。さまざまな酵母菌が生み出す混とんとした生命活動の結果生まれる、厳密なコントロールは不能だが、しかしなぜか心地よい、不思議な「腐食」の成果です。
岐阜県の伝統発酵食品「鮒ずし」は乳酸菌の働きによるものだが、琵琶湖で捕れたニコロブナをご飯に漬け込むことによって毒性が消え、美味しい食品になるという。作り方だけが江戸時代から継承され、微生物の詳細な科学反応は未だわかっていない。
つまり、
環境を操作することによって複数の微生物のネットワークを育成する繊細な発酵技術が、新しくて美味しい食品をつくり出すように、
「日本」という箱の中にいる「人間」が、互いに情報を交換しながらネットワークを形成して、新しい日本文化をつくっていく。
そのために必要なのがデジタルテクノロジーをはじめとした各種のイノベーションであり、世界を俯瞰した上での日本独自の着地点が求められているという。
このような概念が「デジタル発酵」だ。
そしてこのデジタル発酵に必要なネットワークとは、多様に開かれた「人間関係」であり、さらには「自然や生物圏をも含んだ豊かな相互作用」だ。
ここに人間と自然を守るための課題である「SDGs」が絡んでくる。
落合さんは最後に、固定された静的な目標であるSDGsを、より動的なものへと発展させるための「対立軸」というものを挙げている。
ここでいう対立軸というのは
僕が勝手にイメージするところによると
固定された「両極」の思考から脱却した「柔軟な姿勢」だと捉えている。
こんな感じ↓
(「ニュートンのゆりかご」のように、右でもない。左でもない。僕らは両極を移動しながら、そして吸収しながら、真ん中の軸である「自分」をつくっていく。)
1.デカルトかつベイトソン 原子論的かつ全体論的に
2.ソーシャルグッドかつディスラプター 硬直的理想の攪乱者であれ
3.集団かつ個人 公でありつつ私を忘れない
4.デジタルかつアナログ デジタルは完全な世界ではない
5.短期かつ長期 1年後と100年後を同時に考える
6.理念と空気 支配の構造を脱中心化する
7.傍観者と主体者 私たちはすべてをできはしない、しかし何ができるか考えてみよう
落合さんの提唱するこの7つの対立軸はこれから僕たちが生きていくための、複雑かつシンプルな「人生の羅針盤」だと言えよう。
この本は単なる「世界地図」じゃない。
未来の僕たちの生き方を書いた「自分自身の地図」である。
おわり♪