新 星緒
《小説》 入社以来犬猿の仲だったふたりが恋愛するお話。 全22話(本編18話+番外編4話)。創作大賞2023、恋愛小説部門に参加中。
拙作の『悪役令嬢は攻略対象と縁を切りたい~息抜きで町歩きを楽しんでいたら、顔を隠した怪しい男に恋してしまいました~』のコミカライズが、本日よりRenta!様で配信さ…
《あらすじ》 『十八歳で死に、同時に国も滅びる』 父親がろくでなしだったせいで、そんな呪いをかけられてしまった王女エウフェミア。期限まであと一年というときに、彼…
土曜日。あらかじめチェックしておいたジュエリーショップで、婚約指輪を爽真に買ってもらった。常につけていてほしいと爽真がねだるから、邪魔にならないようダイヤが埋…
すっかり遅くなってしまった夕飯。デリバリーのインドカレー。木崎は珍しく、腹が減ったと言ってナンを食べている。普段は遅い時間に炭水化物は取らないのに。 ヤツは…
「木崎姉がお礼にディナークルーズ? ずいぶん太っ腹だね」 ランチタイムにいつもの定食屋。日替わり定食の豚肉のしょうが焼きをもりもり食べながら、佐原係長が言う…
木崎の甥っ子、翔太と寛太。翔太は先週小学校に入学したばかりで、寛太は保育園に通う五歳。木崎は時々お守りを頼まれて彼らを預かる。人懐っこい可愛い子たちだ。 今…
半個室に戻ると、それまでの騒がしさが一瞬にして消えて、全員の視線が私たちに向けられた。 何だか変。 「買えたか?」 と、今度は木崎の席に座った藤野が笑顔で尋…
修斗が私の悪口を言っている。 どうしてそこまで、私を嫌いになってしまったのだろう。悪態の端々に、私が仕事バカすぎるという内容が出てくるから、余程そこが気に入…
気付いたらクローゼットの隅に追いやられていたフレアスカートを手に取っていた。昨年、休日に履こうと買って、二、三回しか着なかったもの。ブラウンの膝丈。 可愛い…
エレベーターを降りる。足は第一でなく、第二に向かう。 高橋はデスクでパソコンに向かっているが、見るからに辛気臭い。フラれて落ち込んでいる。 「高橋」 と声を…
ランチを終えて佐原係長と社に戻ると、そのビルの前に立つ木崎を見つけた。鞄を片手に第三営業部の間宮さんと話している。 彼女は綾瀬と同期で入社二年目。我が社の営…
「私の素晴らしい洞察力によると、宮本は私に相談したいことがあるんじゃないかと思うんだよね」 佐原係長がそう言いながら、テーブルに置かれたばかりの盆から茶碗と箸…
区立公園のジョギングコース。祝日の早朝。好天とあって、それなりに走っている人がいる。 その中のひとりになったものの、体が重い。寝不足でのジョギングはよくなか…
シャワーを浴び終えてダイニングに戻る。一直線にテーブルの元へ。その上に置かれたスマホを見る。私用、社用どちらにも藤野からのメッセージはない。 時刻は二十三時…
火曜の十九時前。普段なら休日はまだまだ先。だけど今週は違う。明日は祝日。休日出勤の予定もない。 帰り支度を済ませ、まだ残業をしている同僚に、 「お先です」 と…
木崎が宮本とエレベーターに閉じ込められた。 それを知ったときに最初に浮かんだことは、『なんだ、その羨ましい状況は!』だった。 そんなことを言っている場合じ…
2024年3月30日 08:52
拙作の『悪役令嬢は攻略対象と縁を切りたい~息抜きで町歩きを楽しんでいたら、顔を隠した怪しい男に恋してしまいました~』のコミカライズが、本日よりRenta!様で配信されています!コミカライズを担当してくださったのは、坂下コウ先生です! キャラたちをとても可愛くかっこよく描いてくださっています(*´艸`*)Renta!様のXのポストで冒頭が読めますので、ぜひ!本編はこちらRenta!様
2023年7月14日 17:51
《あらすじ》『十八歳で死に、同時に国も滅びる』父親がろくでなしだったせいで、そんな呪いをかけられてしまった王女エウフェミア。期限まであと一年というときに、彼女の夫となってくれる青年が現れる。敵国に人質として差し出すために育てられ余ってしまった王子、ジェレミアだ。これは普通ではない生き方をしてきた二人が出会い、幸せになるお話。《前編》出会い 顔を覆うベールに大粒の雫《しずく》がつ
2023年5月15日 17:05
土曜日。あらかじめチェックしておいたジュエリーショップで、婚約指輪を爽真に買ってもらった。常につけていてほしいと爽真がねだるから、邪魔にならないようダイヤが埋め込み式のものを選んだ。 いずれ結婚指輪を買うのだから婚約指輪はいらないと私は思うのだけど、爽真は違うらしい。一緒に選ぶのも楽しいんだと無邪気に言うから、きゅんとしてしまった。一年前の私が知ったら驚くこと間違いなしだ。 刻印を
2023年5月15日 17:04
すっかり遅くなってしまった夕飯。デリバリーのインドカレー。木崎は珍しく、腹が減ったと言ってナンを食べている。普段は遅い時間に炭水化物は取らないのに。 ヤツはかなり機嫌がいい。私といえば、激情に流されていらぬ約束をしてしまった。婚約指輪。土曜に買いに行く。そんな、『私、結婚します!』を具現化したものなんて、必要ない。だって社の人間はみんな、私の相手が木崎だと知っている。その状況であえて指輪をつ
2023年5月14日 13:11
「木崎姉がお礼にディナークルーズ? ずいぶん太っ腹だね」 ランチタイムにいつもの定食屋。日替わり定食の豚肉のしょうが焼きをもりもり食べながら、佐原係長が言う。「断りましたよ」「うん。それが正解。どんなに今優しくても、いつ何が変わるか分からない。それが義両親、義姉妹」「言葉の重みが恐ろしすぎます……」 どうだろう。ご飯をもぐもぐしながら考える。紗英子さんにもそれは当てはまるのだろうか
2023年5月14日 13:10
木崎の甥っ子、翔太と寛太。翔太は先週小学校に入学したばかりで、寛太は保育園に通う五歳。木崎は時々お守りを頼まれて彼らを預かる。人懐っこい可愛い子たちだ。 今日も木崎のお姉さんの紗英子さんが急な休日出勤になり、夫の太一郎さんは短期出張中ということで預かった。木崎も仕事に行っているけど。 午前中いっぱいはマンション脇の小さい公園で遊んで(私はへろへろだよ)、お昼は紗英子さんが持ってきた冷凍パ
2023年5月13日 11:28
半個室に戻ると、それまでの騒がしさが一瞬にして消えて、全員の視線が私たちに向けられた。 何だか変。「買えたか?」 と、今度は木崎の席に座った藤野が笑顔で尋ねる。「買えた。会計の時に渡そう」 そう私が答えると、またざわめきが戻り、『木崎が酒で失態だなんて初めてじゃないか』と盛り上がる。「藤野」と木崎が声を掛ける。「俺たち付き合うから」 途端に二度目の静寂が訪れる。「木崎!?」
2023年5月13日 11:25
修斗が私の悪口を言っている。 どうしてそこまで、私を嫌いになってしまったのだろう。悪態の端々に、私が仕事バカすぎるという内容が出てくるから、余程そこが気に入らなかったのかもしれない。けっして修斗を蔑ろにしていたつもりはなかったのだけど。 止まらない悪口に空しくなるけど、もうかなり昔に終わったことだ。 水族館のときのようにウザ絡みをされたくないから、みつからないよう、ここを出ないようにしよ
気付いたらクローゼットの隅に追いやられていたフレアスカートを手に取っていた。昨年、休日に履こうと買って、二、三回しか着なかったもの。ブラウンの膝丈。 可愛いというよりは大人系デザインだ――。 急に冷静になる。 私は何をしているんだ。 帰宅してスーツを脱ごうとしただけなのに。スカートを戻して代わりにハンガーを手に取り、クローゼットの扉を閉める。だけど気力が湧かず、ベッドに腰かけた。ハン
2023年5月12日 17:41
エレベーターを降りる。足は第一でなく、第二に向かう。 高橋はデスクでパソコンに向かっているが、見るからに辛気臭い。フラれて落ち込んでいる。「高橋」 と声を掛けると、ビクリとして振り返った。「ちょっと顔を貸せ」 一瞬の躊躇のあと、ヤツは立ち上がった。 ひとけのない、会議室のほうへ行く。「何の用です?」 背後から不機嫌な声。 「お前、サンドバッグな」 「は?」「しくじった
2023年5月12日 17:40
ランチを終えて佐原係長と社に戻ると、そのビルの前に立つ木崎を見つけた。鞄を片手に第三営業部の間宮さんと話している。 彼女は綾瀬と同期で入社二年目。我が社の営業には珍しい、ふわふわして可愛らしい女の子だ。いつも髪を、どういう構造になっているのか見当もつかない、ゆるふわに結っている。服装もフェミニンなスカートにブラウス。今日は襟付きジャケットを合わせて雰囲気を引き締めている。おしゃれが好きなのだ
2023年5月12日 17:39
「私の素晴らしい洞察力によると、宮本は私に相談したいことがあるんじゃないかと思うんだよね」 佐原係長がそう言いながら、テーブルに置かれたばかりの盆から茶碗と箸を取り上げる。 よく利用する定食屋。今日の日替わりは目玉焼きのせハンバーグ。お味噌汁は長ネギとお揚げ。 昼休み真っ只中のお店はほぼ満席で活気がある。彼女に誘われてのランチだけど――「まあ、店のチョイスは失敗したかも」と佐原係長。「
2023年5月11日 06:39
区立公園のジョギングコース。祝日の早朝。好天とあって、それなりに走っている人がいる。 その中のひとりになったものの、体が重い。寝不足でのジョギングはよくなかったかもしれない。高校生の頃ならこれくらい問題なかったのに。やはり三十路は若くない。 走るスピードを落とし、折よく見つけたベンチに向かう。 座って一息をつく。 昨日はよく眠れなかった。藤野に高橋。ふたりとも急にどうしてしまったのだ。
2023年5月11日 06:38
シャワーを浴び終えてダイニングに戻る。一直線にテーブルの元へ。その上に置かれたスマホを見る。私用、社用どちらにも藤野からのメッセージはない。 時刻は二十三時。レストランの予約は十九時で、三時間食事にかかったと考えてももう店は出ているはずだ。その後、バーにでも行ったのか。だが藤野はレストランで宮本に告白すると言っていた。 バスタオルでガシガシと頭を拭きながら、キッチンに向かう。冷蔵庫から缶
2023年5月11日 06:35
火曜の十九時前。普段なら休日はまだまだ先。だけど今週は違う。明日は祝日。休日出勤の予定もない。 帰り支度を済ませ、まだ残業をしている同僚に、「お先です」と声をかける。と、背後から、「タイミング、ぴったり」 と声がした。振り返ると同じく帰り支度を済ませた藤野がいた。「え!」と高橋が離れたところから叫ぶ。「今日の先約って藤野主任ですか」「そう」 藤野がにこりと爽やかな笑みを浮かべる
2023年5月10日 19:05
木崎が宮本とエレベーターに閉じ込められた。 それを知ったときに最初に浮かんだことは、『なんだ、その羨ましい状況は!』だった。 そんなことを言っている場合じゃないとすぐに反省したが、でもやっぱり、羨ましい。 密室に宮本とふたりきり。男心をくすぐるシチュエーションじゃないか。それを木崎が――。 木崎は他人に厳しいし、無能と判断した相手はばっさり切り捨てる。だから薄情な人間だと思われがちだ