25/2/2 裂固さんに聞く

2025年2月2日、恵比寿Time Out Cafe&Dinerで行われたライブ「バリカタ vol.3」終演後、ラッパー・泰斗a.k.a.裂固さんに、発売されたばかりのミニアルバムや上京後の変化について聞きました。

筆者は音楽ライターではなく、趣味で裂固さん関連記事を2025/1/19現在27本、計約10万字書いているただのファンです。
「発言を文字起こししたいのですが…」とお願いし、許可を得た上で15分ほどお話を聞いて記事にしました。

下線部はリンク付き。約5千字。

※修正があれば随時直しますのでご指摘ください。

▶︎バリカタvol.3のライブレポはこちら

◆裂固さんプロフィール

(略歴の文中は敬称略)

 【泰斗 a.k.a. 裂固(たいと・えーけーえー・れっこ)】1997年6月24日生まれの27歳。岐阜県揖斐川町生まれ、池田町育ち、大垣市出身。「炸裂する固い韻」というMCネームの由来通り、固いライミングが特徴。
 2016年4月、18歳の時に出場した「第9回高校生RAP選手権」で優勝。翌2017年8月、テレビ朝日系列のMCバトル番組「フリースタイルダンジョン」で、チャレンジャーを迎え撃つ強者「モンスター」に抜擢された。2023年1月、国内最大規模のMCバトル「KING OF KINGS 2022 GRAND CHAMPIONSHIP」で日本一に輝く。
 梵頭率いる岐阜のヒップホップcrew・HIKIGANE SOUNDの一員。長年地元を拠点に活動し、地元大垣市のPR曲も制作した。
 2023年5月に上京。JCCという事務所に所属し、翌2024年5月以降、LUNAやJoe Ogawaら新たなチームの下でリリースを続けている。今年1月17日には、般若やCHICO CARLITOらが客演するミニアルバム「New Beginning」を発売した。

この日、ライブではWAZGOGGさんプロデュース(!)の未発表ソロ3曲を披露。ICE BAHNのBEAT奉行さんが手がけたHIKIGANE SOUNDの新曲も歌っていました。

リリースされたばかりのミニアルバム「New Beginning」収録の新曲「Beautiful Days」について、まずは聞きました。(以下歌詞引用)

大工してた親父憧れていたガキの頃が懐か
しい
ある日聞く父ちゃん現場で事故って仕事辞めたらしい
働き出すオカン見て何となく感じる環境の
歪み
服もチャリもお下がり
借金も嵩み八方塞がり
電気も止まり踏んだり蹴ったり
虚しい無いものねだり

「Beautiful Days」のリリック


◆未解決のコンプレックス、曲にできなかった

ーー「Beautiful Days」は、家庭環境を歌っていますね。皆が裂固さんの生い立ちを知っているのに、今まで裂固さん本人は歌詞で深く踏み込んでいなかったのがずっと不思議でした。家族に迷惑をかけたくないとか、背景より実力で評価されたいなどのお気持ちがあったのでしょうか。

めっちゃぶっちゃけ今もう話すと、まだ自分の中でなんの解決もしてない問題なんですよね、家族の問題っていうのは。解決していたら、いくらでも曲にできるんですけど。「貧乏だった。今は貧乏じゃない」だったら言えるんですけど、いまだにそうなんですよ。家庭環境に関しては、高校生RAP優勝した時から今まで何も解決してないんです。

解決するまでは曲にできない」と思ってたことを、いろいろ引き出してもらえたって感じなんですよ。今回東京に来てからJCC(事務所)に入って。「解決してないっていうのもリアルだから、それも曲にしてみよう」っていうので、今回書いた曲で。

でもめちゃめちゃ時間もかかってなんで自分が曲にできないかっていうと、コンプレックスなんですよね。自分にとっては、やっぱなかなか外に出せないというか、出したくない問題でもあったこと。だけど「今ならもう出せるかもしれない」っていうので、やっと出せたのがあの曲で。

▶︎Beautiful Days



◆ネガティブなままでは曲にしたくない

ーービート自体は明るいドリルなので、逆に歌詞のテーマが際立っています。

それはもうめっちゃ決めてたんです。

ーー制作チームではなく、裂固さんが決めた?

はい。家族のことだったり家庭のことを歌うんだったら、どんだけネガティブな内容だったとしてもサウンドはポジティブにしようと。

最終的にポジティブに行かなかったら、俺は曲にしたくないんですよ。ネガティブな始まりでネガティブで終わるんだったら、俺は曲にする意味はないって思ってるんです。なので、ポジティブに還元できる自分がいるんだったら曲にしたいっていうので、今回は。

「Beautiful Days」は、皆から見たらどう思うかは分からない。だって僕なんかより貧乏な奴もっといっぱいいるし、僕よりももっとしんどいことを乗り越えてきてる人がいる。そんな中で、僕にとっては苦しい問題だけど、それをまだポジティブに還元できてない段階で曲にできるかどうかっていうところは、すごいシビアに考えちゃうんです。だからこそ今回やってみて、もっと出しても良いのかもって思えたし。

会場に貼っていたイベントのフライヤー

ーー私はミニアルバムの中で一番好きな曲でした。素直な言葉はやっぱり刺さります。

でも、まだあれは素直になりきれてないんですよね。もっと素直になれるっていうのは自分の実感としてすごいあって。それはあの曲を作ったからなんです。

ーーもうちょっとこの先に行けるという感覚があるんですね。

そうなんです。だからそこは表現者としては、すごいステップアップさせてもらったというか。多分あの曲を作らなかったら、一生触れなかったトピックかもしれないんです。

ヒップホップって別にいくらでも渋いところに行けるけど、ああいうストレートな自分の家庭環境を表現する曲っていうのは、なかなかやっぱ自分の中で折り合いが付いてなかったら生み出せない部分がある。でもやっぱ実際やってみて、それを出してみた結果、いろんな反応もらったんすよ。あの曲に。

ーー1月20日放送のblock.fm「INSIDE OUT」でも、DJ YANATAKEさんが絶賛していましたね。

聞いてくれてる〜〜!

映画の上映館に貼られていたポスター(2月1日)


◆「Be Myself」で初めて使った一人称「私」

ーー映画「雪子 a.k.a.」主題歌の「Be Myself」の裂固さんのバースは、「愚かな私」から始まり「俺の手の中」で終わります。一人称が変わりますが、雪子と裂固さん、どちらの視点でしょうか?

どっちもです。「愚かな私」っていうのは雪子の感じなんですけど。俺は自分のことを「俺」って言うし、先輩相手だと「僕」って言う。「私(わたし)」っては言わない。「私」ってある種他人事というか、第三者目線から見た一人称だと思うんですよ。ただ、雪子の映画の中の曲だし、雪子の一人称は私だから。俺か僕か私って、場合によって変わるじゃないですか。そん中で「私」っていう一人称を使ったことがなかったんですよ。だから使いたかったというか。韻としても気持ちいいし(笑)。

▶︎泰斗 a.k.a. 裂固 × ポチョムキン × 瑛人 - Be Myself (Official Music Video) / prod. GuruConnect【映画「雪子 a.k.a.」主題歌】


◆1人でできる限界感じるも"主人公"は諦めず

ーーヤナタケさんの番組「INSIDE OUT」と1月17日放送の「ZEEBRA's LUNCHTIME BREAKS」を聞き、今の制作環境の充実ぶりを感じました。プロデュースを務めるLUNAさんから歌詞をダメ出しされるとも言っていましたが、ダメ出しを嫌うアーティストもいるのでは。

ダメ出しされると嫌っていうのは、今の俺はマジでないっす。なぜなら、自分でできる限界をとっくに見つけちゃったっていうか。岐阜にいる間スタジオ入りまくって、曲も作りまくったんですけど、いつまで経っても自分が納得いく曲ができなくて。「あ、これ以上ないかも」って思ったんですよ。

でも俺が主人公の世界線っていうのは諦めたくなかった。だから人の意見をちゃんと聞いてみようっていうのは思って。それをやるんだったら、岐阜じゃ絶対ダメだって思って。岐阜は、もう他人のようで他人じゃない。だからみんな良い曲だろうが悪い曲だろうが全部良い曲って言ってくれるんですよ。

そうじゃなくて、本当に自分ごととして、自分と一緒に作って行ってくれる中で、駄目なものは駄目って言ってくれる人の中に自分を置かないと、俺はもうこれ以上成長できないっていう限界が見えちゃったんです。それはもう本当に10年やってきて思ったんですよね。その壁を取っ払うには1回素直になんないと駄目だっていう。

▶︎泰斗 a.k.a. 裂固 - Don't Look Back (NEOWN Performance Video)


◆上京後はフローから考えて歌詞を書くように

ーー1月29日のKBDさんとのインスタライブで、最近は最初にフローを考えてからリリックをはめていくと言っていました。それは東京に来てから変えたんですか?

東京に来てからです。完全にそうです。

ーーアドバイスされて変えたということ?

はい。最初はもう俺、韻が踏めればそれで良かったんですよ。最近は宇宙語(言葉にならない言葉)でフローを入れてつくっています

▶︎泰斗 a.k.a. 裂固 - KEEP IT REAL Remix feat. 般若 (Official Music Video)


◆地元のため「売れないと何も説得力ない」

ーーヤナタケさんの番組で「曲でヒット出したいっていう気持ちが今は強い」と言っていましたが、売れ線狙いの姿勢に批判的なラッパーも多いのでは。

そういうのは俺は全くないです。もうなくなったっす。なんでかっていうと、売れないと何も説得力ないから。本当に地元を変えたいんすよね。岐阜をマジで持ち上げたくて。でも持ち上げれる自分じゃないし。やっぱ影響力を持ってない時点で、どんだけ地元のことを盛り上げようって言っても変わんないから。まず自分自身が盛り上がって、自分自身がヒットチューン出したり影響力を持っている人間になって初めてついてきてくれる後輩だったり、プロデュースごともできるっていうのを今はやっぱり思ってるから、今は売れたいっす。

ーー「影響力を持ちたい」というのは、高ラ同期のちゃんみなさんやOZworldさんを見ていても感じることですか。

感じるっす。すごいことなんですよやっぱ。ヒットを出すっていうのは。「安易な方向に向かったな」って思う奴は思うかもしれないけど、売れたくなくて音楽やってる奴なんていないと思うんです。みんなあわよくば売れたくてやってるんだけど、どっかで諦めて自分の可能性を狭めてる

▶︎泰斗 a.k.a. 裂固 - POLAR EXPRESS feat. Ashley (Official Music Video)


◆「ヒキガネのアツい部分を引き出したい」

ーーHIKIGANE SOUNDのアルバムも今年は出るんですよね。

そうです。きょうライブでやった(BEAT奉行さんの)未発表曲は、昨日一昨日PV撮影していて。アルバムにも、自分もガンガン意見してて。ヒキガネに皆がどういう印象持っているか分からないですけど、(ヒキガネは)ちょっとブラックだったりドープな印象の曲が多い。

ヒキガネにはアツい言葉だったり、あったかい言葉を持ってる人がいっぱいいるんで、僕はその部分を引き出したいなって最近思ってるんで。きょう歌った(地元を歌う)曲みたいな方向で、ヒキガネのブラックだけじゃないアツい部分を、俺は引き出そうと思ってる

▶︎昨年12月18日に配信されたHIKIGANE SOUND「IGNITION」。プロデュースはDJ FUKUさん


◆バトル復帰は「新しいもの見せられるとき」

ーーMCバトルは3月30日の口喧嘩祭2on2の後、しばらくお休みですね。

自分自身が新しいものを見せられるって思えるようになったらまた戻りたいなって。正直MCバトルで見せられるものは全部見せちゃったので。1回離れないと、多分新しいものは見せられないなって思うんですよね。

ーー復帰が前提であることは、ヒキガネ主催の口喧嘩祭の存在も影響していますか?

もちろん。でも自分がやっぱMCバトルに育ててもらってるからっていうのが大きいですね。その上で、やっぱやりまくったんですよねMCバトル。もちろん去年は優勝したり戦績は良かったんだけど、新しいものは見せてないなって思って。戻るときは、新しいものを見せられるときでないと、俺はただ"立ちはだかってるだけの奴"になっちゃうから。それよりも、俺はやっぱ立ち向かいたい

▶︎New Beginning (feat. CHICO CARLITO)



▶︎同じ日の梅田サイファーのKBDさん、KZさんの談話はこちら

▶︎昨年5月のICE BAHNの玉露さん、KITさん、BEAT奉行さんの談話はこちら

▶︎昨年8月のICE BAHNのBEAT奉行さんの談話はこちら

▶︎バリカタvol.3のライブレポはこちら

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