裂固「Cosmic Web」(2021年)
岐阜県出身のラッパー・裂固さんが2021年1月5日にリリースした2nd ep「Cosmic Web」について、感想をまとめました。
下線部はリンク付き。約2千字。
◆ディスクレビュー
2021年1月5日発売。6曲入り、22分31秒。
裂固さん初の配信限定の作品。
2020年12月29日にTwitterで「1月5日に配信限定のEP発射します!🙌お楽しみに!」と投稿されているので、割と急に出たのだろう。
▶︎本人の告知ツイート
前作「omniverse」同様に全曲をDJ MOTIVEさんがプロデュースした。
「omniverse」は概念上可能な全ての宇宙の集合であり、
「cosmic web」は銀河同士のネットワークを意味する。
前作と同じく宇宙をモチーフとした共作であり、omniverseから続く世界線であることを感じさせる。
16曲入りのomniverseと比べ、わずか6曲のepということもあり聴きやすい作品。
フックがキャッチーな幕開けの表題曲「Cosmic Web」と、それに続くポップな「勝手にシンドバッド」に象徴されるようにepを通して耳馴染みが良い。
部屋の中でも旅立てる音楽の銀河系。
◆おすすめ曲→Cosmic Web、勝手にシンドバッド
1.Cosmic Web
ゲーム音楽を連想させる電子音から幕を開け、epはリスナーを音の宇宙へといざなう。テンポの速いラップが音のきらめきの上を駆けてゆく。固いライムの音へのハメ方が心地良い。特にフックがキャッチーでいい。
音は現代的ながら、
など昔からある硬派な言葉遣いは、実に裂固さんらしい踏み方だ。
2.勝手にシンドバッド
本epで筆者が一番好きな曲。
omniverseよりもポップに傾いたこのepを象徴するような曲だとも思っている。
サザンオールスターズの同名曲を要所でサンプリング。めちゃめちゃ楽し気なビートとは裏腹に、曲の上でステップを踏み踊るがごとく、ノンストップで毒を吐いている。
裂固さん本人が好青年なのは間違いないけど、曲ではMCバトル同様あちこちで毒づいていることがあるし、なかなか口が悪い。攻撃力も高い。それが楽しい曲に昇華されているのがこれ。
は特に刺さった。ライブ行った時に同じセリフ言いそうだなあ自分、と思って、絶対言わないようにしようと決めた。笑
3.Good Holiday (feat. sana)
リラックスムードたっぷりのビートそのままに、何気ない休日の様子を歌っている。
肩の力の抜けた女性ボーカルがフックの曲。
などはインタビューでエピソードトークを聞いたことあった。コロナ禍の生活がそのまま出ている。
(裂固さんは瞑想を日課とし、早起きして朝早くに必要な家事を片付け、自炊し、映画や絵を描くことや読書を楽しむという。筆者は日課とか決めてもまるで続かず、朝遅く起き、ダラダラして夕方ギリギリにやっとやる気になるタイプなので、その意識の高さにビビる)
▶︎裂固さんがコロナ禍の生活を語るインタビュー(BANTY FOOT OFFICIAL CHANNEL、2020年6月29日)
「一人暮らしの部屋にユニバース」と言っているけど、omniverseもcosmic webも、宇宙そのものを歌っているのではなく、音楽が連れて行ける無限の世界のことを歌っているのだと分かる。狭い部屋にいても辿り着ける宇宙がここにある。
4.In da labyrinth
印象的なピアノの音がリフレインし入り込む音の迷宮。ネガティブな話を棘を持ち歌っているが、持ち前の向上心と前向きさがうかがえる。
5.Bonus Game (feat. HARDVERK)
跳ねるベースとキックの音に、転がる言葉とフロウがマッチする。
イントロから鳴るリフも楽しく、心が跳ねる。
VAAKさんはヒキガネでも乾杯BROS.でも共作しており、一番共演機会の多い方。互いに韻が固いし、声のバランスもいい。
VAAKさん曰く「日頃の幸運を歌ってます」とのこと。
6.Thank you so much
「ありがとう」「感謝」「thank you」は何も思わず使ってしまいがちというか、心が伴ってなくともとりあえず言いがちな言葉だと思う。受け取る側にしても、本心から言ってるのか分かりにくい。裂固さんの場合は日頃の言動全て地元や仲間家族を大切にしていると伝わるものだし、epの最後の曲に持ってきたところからもフックの「余計な一言はなし thank youにくくる日頃の愛」という通りなのだと感じた。
◆資料集
▶︎Tune Core
▶︎裂固さん関連記事を2025/1/4現在24本、計約10万字書いています。記事はこちら↓