裂固「AUTOMATICFUN」(2016年)

岐阜県出身のラッパー・裂固さんが2016年7月20日にリリースした1st ep「AUTOMATICFUN」について、感想をまとめました。

下線部はリンク付き。約2500字。

▶︎裂固さんの楽曲一覧はこちら

◆ディスクレビュー

2016年7月20日発売。9曲入り36分
同年4月2日に「第9回高校生RAP選手権」で優勝した直後19歳でリリースしたファーストep

裂固さんは1997年6月24日生まれ。
ラップを始めたのはおそらく2013年4月ごろ。
ということは、ラップのキャリア3年ほどで高ラを制し、epを出したことになる。

ジャケットのイラストは、呂布カルマさんが手がけた。この頃から縁深い。
▶︎「ジャケットのイラスト描きました」呂布カルマさんTwitter(2016624)

裂固さんが2017年1月6日配信のシングル「Keep On Runnin’」に関して、

結構それまで暗い曲とかが多かったんですよね。優勝して逆転した状況を歌うっていうので、初めて明るい調の曲を作ったのがKeep On Runnin’

と述べている通り、本epはやや暗い曲が多く、アングラ寄りのドープな作品だ。

▶︎激闘!ラップ甲子園への道(20231115)

MV公開は
2015年11月27日 SILENT PLAN
2016年6月21日MAKE SOME NOISE
2016年7月23日 MY SPACE (feat. 知史)
ーという順番だけど…MVになってる曲より他の方が好きだな。

固いライミングは完成されており、スキルフルだけど何を言っているか全て聴き取れる。硬軟織り交ぜたワードセンスなど裂固さんらしさは随所に感じるが、声が平板でまだ発展途上という印象。

★オススメ曲→PROLOGUE、MY SPACE、風音



1.PROLOGUE

beat by CUT MASTAA KATO

ドラマチックに展開する幕開けの曲。ホーンが印象に残る。暗い印象のあるepだがこの曲は派手だ。ラップは1分半ごろ入ってくる。
タイトル通りライブのイントロにも相応しいと思うが…このepで、今もライブでやってる曲ってどのぐらいあるんだろう。やってるとしたらMVのある「MY SPACE」かな?

歌い出しにご注目。

「夜中の散歩環境悪循環のDungeon
解けない暗証番号常に波瀾万丈
このOneManShow 主役は私が担当

ダンジョン」でこのあと一躍名を馳せることになるし、「主人公感」が裂固さんの持ち味の一つだと思っているので、ラッパーとして初めて出したepの歌い出しがこれとは象徴的だ。
このバースは1stアルバム「TIGHT」収録の「BEFORE&AFTER」でもサンプリングされる。


2.MAKE SOME NOISE

beat by Mr.蓮
▶︎MV公開は2016年6月21日

タイトルは「騒げ!」という意味だけど騒々しい曲ではなく、木枯らしが吹くような寂寥感がある。
高ラ優勝後初めて公開したMVだけど、アングラ感の強いドープな音とクールなラップは当時どう受け止められたのだろう。

3.LOSER

beat by HERMANNUBIS

2〜6曲目は暗い曲が続く。
生粋のLoser」が「孤独ですら使い道によっちゃ価値がある」と言えるのが、とてもヒップホップらしい。マイナスが全部プラスになるのがヒップホップだと思う。
実家太くて苦労したことのない金持ちは勝ち組とされるけど、ヒップホップだと「リアルじゃない」とマイナス評価にすらなり得るだろう。

あと気になったのは「君の鼻で嗅ぎ分ければ分かるはずだ 格好つける程に増したBad Smell」かな。裂固さんの歌詞には「悪臭の漂う道」とかたまににおいが出てくることがあり、よく分かってなかったけど、それってフェイクを嗅ぎ分けるってことかとここで気付いた。(五感を書く中で一番忘れがちなのが嗅覚だと思う)

4.SILENT PLAN

beat by Vackhadow
▶︎MV公開は2015年11月27日

epの中で初めてMV作ったのこれだから、自信作として出したのかな。メッセージとしてはラップで活躍するぞ、ということだろうけど、「全く来る気配しないHappy End」とも言ってる。
「コンコンはいどうぞ」は「BEFORE&AFTER」でサンプリングされている。

5.魑魅魍魎 (feat. 人義)

beat by Mr.蓮

魑魅魍魎って字面的にも意味的にも怖い印象の言葉なんだけど、深夜徘徊するヘッズ&プレーヤーのことを言っているのかな。
クラブに行くようになり、深夜に活発になる不思議な世界だと私も感じている。

6.RHYME&REASON (feat. K.M)

beat by brian "BC" carter
epはこの曲まで不穏な空気が張り詰めており、なんとなく暗い印象が残る。

筆者の私物。左上が本アルバム


7.JUST DO IT (feat. 知史, TEP)

beat by CUT MASTAA KATO

この曲を起点に、人通りのない深夜の裏道から昼下がりの雑踏に抜けるように景色が一変する。サンプリングした生音の温かさに起因するのかな。

8.MY SPACE (feat. 知史)

beat by Vackhadow
▶︎MV公開は2016年7月23日

岐阜の雄大な自然をテーマにし、爪弾く弦がリラックスした印象を与える良曲。

ゲームの主人公を連想させる「回復しないHP」、他の曲にもたびたび登場する「揖斐川の流れ」など、初期に出したepとは言え裂固さんらしさはこの頃からはっきり出ている。

歌詞カードを見直していて思ったけど、岐阜レペゼンはこの時点で強いものの、岐阜弁は出てこないから、(でら愛してる、でれfeel畦道などの)リリックの岐阜弁は、活動を続けるにつれ意図的に使い出したのかもしれない。

9.風音

beat by HERMANUBIS

個人的にはこのアルバムでは7〜9曲目の後半の方が前半2〜6曲目よりも好きだ。後半3曲は1stアルバム「TIGHT」に入っていても違和感がないと思う。でもドープな感じを目指していたのかな。
この曲など、MV作ってもいいくらい良い曲だけど…?



◆資料集

▶︎WENOD紹介ページ

▶︎CDJournalディスクレビュー

▶︎Mikiki(タワーレコード)ディスクレビュー



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