鮒ずし

聞いたことはあるがよく知らない食べ物のひとつが鮒ずしだった。

琵琶湖を見てみようと彦根に行った時に初めて実物に出会った。

彦根城を見学した後、昼ごはんを求めてぶらぶらしていると鮒ずしの看板を見つけた。店内を覗くとスライスされた鮒ずしの真空パックが売られていて、案外小さいものなんだと初めて知った。好き嫌いがわかれる味と匂いだということは何かで読んで知っていたので、ものすごく興味が湧いた。真空パックじゃ匂いがわからない。店の人に、鮒ずしを食べたことが無いのですがどんな味ですか、と聞いてみた。酸っぱいよ、と答えが返ってきた。クセの強いチーズが好きな人は平気みたいよ、とも言ってくれた。店内奥の食事処で食べられることも教えてもらったので入ってみることにした。人生初の鮒ずしである。

酸っぱいものも、クセの強いチーズも好きだし、食べ物に対する許容範囲は広いほうだという自覚もある。それでも鮒ずしにはちょっと緊張していた。残してしまうのは申し訳ないし全部食べられるだろうか。待っている間に、鮒ずしをネット検索して予習した。鮒と塩と飯を発酵させたもの、と書いてあった。

選んだ定食とともに追加で注文した鮒ずしが目の前に並べられる。匂いはなんてことなかった。全然嫌な匂いではない。お刺身のようにスライスされた魚の身の周りに、粒の残った白いペーストがくっついている。飯だったものだな、と理解した。さっそく箸でつまんで一切れ食べてみると想像以上に酸っぱかった。顔のパーツがきゅうっと真ん中に寄ってしまう。酸っぱいヨーグルトの10倍は酸っぱい。次に激しい塩っぱさがやってきた。口の中が、ごはんだ!白ごはんを持ってこーい!状態になり、慌てて定食のごはんをわしわしと口に入れる。伝統的な日本の保存食の塩っぱさを忘れていた。これは一度にたくさん口に入れるものじゃない。そして肝心の鮒の味はなんだかよくわからなかった。酸味と塩味が強烈で鮒の印象が残らない。全体としてはなんというか、おいしい味というよりはやみつきになる味だ。辛口の日本酒に合うよ、と言っていた店の人の言葉を思い出した。確かによく合いそうだ。

残りの鮒ずしは少しずつ齧って食べた。それでも舌が痺れるほどの酸味と塩味であっという間にごはんが無くなった。なんならごはんのおかわりが欲しかった。鮒ずしがあればいくらでもごはんがいける。例えるなら、田舎のおばあちゃんが漬けてくれた塩っぱい梅干しみたいな感じなのだ。

食べ終えようかという頃、お茶を注ぎ足しに来てくれた店の人が周りのご飯のところも食べると体にいいのよ、と教えてくれた。その方は食べるとお腹の調子が整うらしい。食べるものかどうか迷っていたから教えてもらってありがたかった。でももうご飯が無い。三口程食べたが、ごめんなさいとギブアップした。


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