銀座とお正月
クリスマスはひとり、新宿の虎屋でぜんざいを食べたあと結婚相談所へ行ったので、なかなか気が沈んでいた。年始こそ気が晴れるようなことをしたいと思い、銀座に行くことに決めていた。
子どもの頃は全くその良さがわからなかったが、この歳ともなれば、仕立てのいいコートやぴかぴかに磨いた革靴で、思いきり背伸びしてブラブラしたい街だ。
まず、前々から予約していた資生堂のエステサロンに行く。私は実は今まで一度もエステの施術を受けたことがなく、生まれて初めての体験だった。
エレベーターでサロンのある階のボタンを押すも、なぜか「その階には止まりません」のアナウンス。
あとから聞くに、開店時刻に予約を入れたため、開店時刻以降にならないとサロンのフロアに止まらない形となっていたらしい。
受付を済ませ、個室へと案内される。
フェイシャルエステなので、上はすべて脱いでローブを着る方式だった。
個室が取調室さながらの安い脱毛サロンとは違い、さすが資生堂、ウッディな雰囲気の広々した個室で、きちんとハーバルな香りがする。
エステティシャンは、色白でショートカットの女性だった。控えめな声でしずかな話し方、でも聞き取りやすくて、普段から声の通らない私は羨ましい限り。
こんな美肌の人から顔をマッサージされるのはなんだか気恥ずかしくなるのではないかと思ったが、実際には毛穴の掃除なども入念にやってもらい、ツボ押しもかなり適所を心得ており、心身ともに癒される時間となった。
資生堂はコース制ではなく、一回ごとに支払いとなる。一時間ほどの施術で、しめて一万円強。妙な勧誘もなく、私の肌質に合うようなメニューを軽く紹介だけしてくれた。
ちなみに、私は顔の皮膚が薄いらしい。
ビタミンBを摂取するといいようだが、やはり今年は精神的にもツラの皮を厚くしたいものだ。
エステを終え、ランチは近くの資生堂パーラーへと向かった。
通されたテーブルの隣の卓には全身真っ黒のスキンヘッドのおじさんが座っており、若干怯んだものの、彼に運ばれてきたのはプリンやフルーツもりもりのデザートプレート。
きらきらしたスイーツを、静かに険しい顔で食べているから驚きだ。
私はエビフライのサンドイッチを頼んだ。このご時世なのでフォークがないのは少々困ったが、仕方なく手掴みで頂いた。
そのあとは、銀座和光へと向かった。
和光のショウウィンドウには、大きな虎のオブジェが飾られ、なんとその目は瞬きをしていた。
のちにテレビでそのオブジェの制作の裏側が特集されていたが、どうやら新年が始まる12:00ぴったりに虎の目が開く仕掛けとなっていたようで、なかなか凝っている。
和光には私に買えるようなものはないだろうが、お金持ち気分を味わうにはもってこいの場所だ。
ハンカチコーナーでレースのハンカチを少し物色し、デヴィ夫人のような話し方でバッグを品定めしているマダム達を横目に、意味もなくウロウロしてから、誰にも声をかけられることなくそのまま店を出た。
買い物はなにもしていないが、銀座の知らない世界をのぞくために二万円でおさまるなんて、ある意味かなりの贅沢だ。
いい一年の幕開けになったと思う。