サイバーステップの通常営業 『~ハズレ転生~ 最底辺から始める異世界経営』はいかにして全年齢向けとなったか(ネタバレ感想&エロ要素有)
前書き
今までの記事で、サイバーステップのプラットフォーム『PandaShojo』の作品について3作触れてきた。しかし3作ともPandaShojo作品の中ではかなり癖の強い方であり、いつものPandaShojo作品、という括りに入れる事が難しかった。PandaShojo作品は全部で20作以上、前身である『CSノベル部』の作品と合わせると外伝作を含めて40作以上という数になるが、以前取り上げた3作、特に宿主ガードマンと強運傭兵と宝石の姫騎士は例外と言っていい作りになっている。
PandaShojo及びCSノベル部の作品の説明には常に、
「○○ブランド(筆者注:原作のエロゲーを出したブランド)よりXX年に発売された美少女ゲームを『PandaShojo(CSノベル部)』のプラットフォームに対応し、世界中の方々に楽しんでいただけるようにリメイクしました。」
と書かれている。世界中の老若男女がプレイしても問題ないようにするため、サイバーステップというメーカーがどういう仕事をしたのか。
今回はPandaShojo作品の中から、一体どんな改編をしてエロゲーから全年齢化させていったかについて紹介していこうと思う。いつものように元になったゲームを原作、PandaShojo製はPS版と記述する。
原作について
今回紹介する作品はカルサイトから2020年3月27日に発売された『異世界で俺はエロ経営のトップになる!』(公式サイト。18禁なのでアクセス注意)。タイトルから想像がつくかもしれないが、異世界転生ものである。
簡単に検索してみたところ、異世界転生物、つまりなろう系の隆盛は2010年代半ばにはもう始まっていたらしい。ちまたで流行っているのであれば、こうしたムーブメントを取り入れたゲームを作るのは自然な流れだ。
原作のあらすじ
これまで紹介してきたPandaShojo作品に比べ、本作はヒロインの数が5人と多い。順に解説していく。ヒロインは皆主人公クルトの商売に協力してくれるキャラクターだ。
アルマ・ヘリング(CV:柚原みう) ハイエルフの貴族。軍隊指揮という強力なスキルを与えられている。貴族であるため、有力者とのパイプ渡しや政財界の動向を調べることが出来る。大人しく優しい性格。
ユイカ・ヒナミヤ(CV:蓬かすみ) 東の地からやってきた狐族の獣人。東方見聞録という大商会を率いる豪商。商売や経営に対するアドバイスを行い、時にはクルトの作った商品を外国で売る手伝いをしてくれる。常に現実的かつ余裕のある態度を崩さないが、惚れた相手には情熱的。
エーディト・アーレンス(CV:綾瀬あかり) ドワーフの少女。鍛冶が得意だが熟練の域には達していない。クルトの考えついたアダルトグッズを作るのが主な役目で、現代日本の物とほぼ変わらないクオリティで作れる。口下手でやや天然。自分に自信が無い。
ビアンカ・バルシュミーデ(CV:祭場あかね) 犬族の獣人。ランメルツ家の侍女兼クルトの世話係で、追放されたクルトを心配して一緒に付いてきた。採取スキルの持ち主で、商売に必要な材料を探すことができる。また家事全般も得意。明るく世話焼きな性格。
カタリーナ・エーベル(CV:倉葉アイリ) アルラウネ族の女性。知識が豊富で魔法にも詳しい。クルトのスキルをどう応用してアダルトグッズを作るかアイデアを提案してくれる。
クルト・ランメルツ 主人公。現代日本で事故死し、異世界シュヴェンデの貴族ランメルツ家の三男として転生した。剣や魔法の才がなく、また勉学も苦手。周囲から否定され続けて育ったためか自己肯定感が低く、何をするにも自信が無い。
能力が無いからと田舎に飛ばされたクルトは「出世は出来なくなったけどとりあえず食うに困る事はないだろう」と高を括っていたのだが、一ヶ月で仕送りが途絶えてしまった。事実上の勘当である。というわけで一念発起したクルトは様々な失敗をしつつも、最終的に『アダルトグッズ製作で一山当てる』という目標を立てる。
大まかな原作の流れとして、
アダルトグッズ製作を思いつく
材料探しやアイデア出しをして、自作したり職人に頼んで作ってもらったりする
売れる場所を探す。最初は露天売りだったがアプローチを変えることも
売り上げが見込めたら新しいアダルトグッズ製作へ
途中お金が手に入る事があり、それを使って新しいアダルトグッズを作るか商売方法を変えるか選ぶ事が出来る
こんな感じだ。クルトが作った、あるいは性的に使用するために取り入れた物はかなりの数になる。作中で作った順番で言うと、
・ローター
・一日一度はパンチラが拝めるお守り
・バイブレーター
・オナホール
・獣人向けの媚薬
・獣人向けのしっぽ用ローター
・拘束具
・クリキャップ
・開口機
・電動マッサージ機
・コンドーム
etc.
といった具合だ。そして開発する度に、ヒロイン達に使い心地はどうか試すというイベントが入る。それが主なエロシーンになるのと、個別のルートに向かうためのフラグとなっている。
さすがにこの内容をニンテンドーSwitchで出すわけにはいかないだろう。いくらエロ要素を削ったとしても、バイブやオナホを売るゲームをそのまま出すのは無理だ。
そしてPandaShojo版として出すにあたり、サイバーステップは内容の改変を施した。
18禁から全年齢対象へ
PandaShojo版のタイトルは『~ハズレ転生~ 最底辺から始める異世界経営 - Isekai Junior Manager -』。2023年4月13日に配信された作品である。以下が具体的な改変内容となる。
・露出は控えめに
PS版を起動して最初に目に付いたのは、タイトル画面に並ぶヒロインの露出度の低下だった。一目で肌色の面積が減っていることに気づく。何人か原作とPS版のヒロインを並べて表示してみる。
とりあえず3人紹介した。全体的にみんな膜のような物で覆われて露出が抑えられている。元があまりにも肌を見せすぎているから仕方ないのだろうが。エーディトだけは一部以外ほぼ原作通りの格好をしている。
PandaShojo、というよりサイバーステップのエロゲー移植作はこうしてキャラのグラフィックに手が入ることが多々ある。ただそれについても上記のような『単に元絵に色を足して露出を減らしました』というパターンだけではない。強運傭兵と宝石の姫騎士やぽかぽかママ恋温泉では元のキャラクターデザイナーの絵を使った生成AI絵が使われているし、宿主ガードマンではキャラクターデザイナー自身によるリファインが行われている。
・クルトが作る物
PS版ではアダルトグッズ製作は行わなくなった。クルトはアダルトグッズ製作者ではなく発明家という立場になり、現代の知識を使ってこの世界にないものを作ることになる。
原作では最初にローターを作っていたが、PS版では電動マッサージ機を作っている。用途は肩こりや筋肉痛の緩和だ。電マを本来の用途で使っていることに逆に驚いてしまった。初めて作った発明品をビアンカで試すシーンもあるにはあるが、原作ではエロシーンだったがPS版では単なるマッサージ機として使って「気持ちよかった」で終わりだ。CGはあるが当然エロシーンはカット。
原作で2つめに作った一日一度はパンチラが拝めるお守りはPS版でも健在。直接的な描写がないため許されたのだろうか。
エーディトの力を借り、バイブではなく新型の電動マッサージ機を作る。エーディトがバイブの試作機を自分で試すシーンは当然カット。決意を胸に大きく息をするエーディトだけが描写される。
樹脂が発見されたのでオナホールではなく輪ゴムを作る。大々的に売り出してヒットする。
獣人用の媚薬を作る。試作品にあてられたビアンカが発情するがキスだけして終わり。獣人用以外の媚薬も作ってアルマに飲ませるが発情だけして何もせず終わり。
その後もゴム靴を作ったり開口機は作らなかったりといろいろ改変されている。
・個別ルート
各ヒロインのルートは概ね流れが原作と同じであり、差異はエロシーンのあるなしだけである。
原作のクルトは個別ルートに入ると露出プレイや野外プレイ、触手プレイ、スライムプレイをやり出す変態になってしまうのだが、PS版ではカットされているので変態性はなくなった。
一応ヒロインと肉体関係になっていると示唆される描写はあるのだが、何かというと『朝まで話していた』といった感じでぼかされているのは気になった。
PS版のCGは原作のエロシーンをトリミングしたり衣装を足して露出を減らしたりして、局部や乳房が映らないようにしている。シチュエーションと合っていない事があり、ただ会話しているシーンなのに大股を広げているユイカのCGが入るなど不自然なところが目立った。
原作の感想
原作に関して、設定は突飛ながらも結構楽しめる内容だった。クルトを追い出した家族にもそれなりの苦悩があったことが示されていて、長兄エーミールと次兄ヨーゼフも性格の割に弟想いだったことが分かるようになっている。ただ貴族という立場上どうしても親子兄弟ずっと仲良く、という訳にはいかないため、小狡い立ち回りをしたり役立たずの息子を放逐する羽目になってしまった。両親も兄もそれについては悔いている部分があった。ただ追い出しただけの悪役家族で済ませなかったのはよかったと思う。
主人公のクルトはよく言えば謙虚、悪く言えば卑屈な人間で、たいてい何かしらトラブルが起きるんじゃないかと心配している。タイトルである『異世界で俺はエロ経営のトップになる!』という自信満々さは、かなり終盤になるまで見せる事はない。
ヒロインは皆好感度の上がりが非常に速い。ルート分岐も分かりやすく簡単で、適当にやっていても複数ヒロインのルートを選べる(このゲームはEDフラグが立っているヒロインの中から誰を選ぶか決めることで個別ルートに入る)。前述したとおりクルトはヒロインの個別ルートに入ると変態化するので、その辺りは好き嫌いが分かれるかもしれない。
ヒロインの扱いに関してはかなりの差がある。一番優遇されているのはメインヒロインのアルマで、CGの数は差分を抜いて17枚ある。次はユイカで14枚、ビアンカ13枚、エーディト12枚なのだが、カタリーナのCGはなんと9枚しかない。アルマの半分ほどのCGしかないのである。カタリーナ自身割とキャラが薄く、登場人物紹介でどう説明したらいいのか迷ったキャラクターだった。この辺りも影響しているのだろうか。
このゲームのシステムの話もしておきたい。お金が手に入って、それを使って新商品開発をするというものだ。これは完全に機能不全を起こしている。定期的にお金を手に入れても、意図的に破産するよう散財しない限り0になることはない。やる事といったら本当に新商品開発をエーディトに頼むかユイカに頼んで交渉してもらうくらいしかないため、フラグを立てるための選択肢の変形でしかない。普段の食費や材料費、人件費、工賃、賃貸料、税金など日常生活にかかる様々なお金を支払うわけでもないのだ。資金というリソースをやりくりするゲームではない。ここまで無意味ならこのシステムをわざわざ入れなくてもよかったのではないだろうか。
総評として、ヒロインは可愛らしかったしシナリオもきちんとまとまっていて満足出来た。ヒロインが5人もいるのでボリュームも多い。個別ルートに入ると他のヒロインが空気になるため、クルトを取り合って修羅場みたいな展開にならなかったのは、そういう作風であると理解する事にした。
PS版の感想
原作が結構エロとストーリーに密接な繋がりがあったため、エロシーンをカットしたPS版はいろいろと齟齬が出てくる内容になってしまった感が否めない。健康器具としてマッサージ機を売っているだけなのに、露天商から店舗営業に切り替えた際に「あんまり大通りで売るような物でもないし」とクルトが言っている。このセリフは原作と同じで改変されていないので、健康器具屋が人目を忍んでこそこそマッサージ機を売っているという、やっぱりアダルトグッズ屋なんじゃないかと思わせるような描写になってしまっている。背景も原作と変わっていないので、どう見てもTENGAみたいな物が陳列棚に置いてある。
期待の新商品が輪ゴムでそれを買うために沢山の人が訪れるとか、原作で『卑猥な物を売っているから』という理由で役人に摘発されたクルトの店が『見た事ないものを売っているから』という理由で摘発されるとか首をかしげる点が結構ある。原作でクルトの長兄エーミールに対して、不仲の嫁と仲直り出来るようアダルトグッズをプレゼントして夜の営みを改善させようと試みる、という展開があった。しかしPS版ではアダルトグッズを安易にクルトの発明品に置き換えてしまったため、『健康器具や輪ゴム、ゴム靴、ゴム手袋をプレゼントしたらエーミールと嫁が仲直りした』というよく分からない展開になってしまっていた。ここは展開自体をもう一ひねりしてほしかった。
エロシーンのカットと一部差し替えだけではやはり無理があるな、というのがPS版に対する私の感想である。ちなみにPS版にもお金を払って新商品開発のシステムがあるのだが、案の定機能していない。
両作に共通する疑問点
原作・PS版に共通する点で気になったことがある。それは製品の開発・生産速度だ。クルトが「あれを作ろう!」と思いつき、エーディトに依頼。「やってみる」とエーディトが作業に取りかかり、あっという間に完成。アダルトグッズでも発明品でもどちらも同じで、獣人用しっぽローターだろうとコンドームだろうとゴム靴だろうとゴム手袋だろうと、すぐに作り上げて量産体制を確立させる。エーディトは優秀な鍛冶師であり弟子もいるとのことだが、いくら何でもハイペースで作りすぎである。何ならクルトが一個一個手作りしていた最初のローターや電マですら、一定数を作って売りさばけるほど生産速度が速いのだ。
また、最初に作ったローターと電マの構造についての描写があるのだが、いまいちテキストだとどういう作りになっているのか把握しづらい。ネジのオスメス的な発想なのだが、
『上下に外殻を分けて、ひねったときに組み合わさる形にすればいいんじゃないか。砕けたときに発動する魔法石を使い、木材で外側を覆ってローターの形だ』
どういう形状なのだろう? 実際にできあがっている物は現実にもある普通のローターなり電マと同じ形状なのだが。
終わりに
今回は今まで紹介してきた作品とは違う、いつものPandaShojo作品のノリを感じられるタイトルだった。サイバーステップが抜きゲーを全年齢対象化するときはこんな感じになり、そうして何作も作り続けてきている。その時に出る「これは無茶だろ」みたいなひずみが個人的には面白くて遊んでいるのだが、歪んだ楽しみ方なのかもしれない。
最後に、テキストの誤字脱字を完全になくせとは言わないがさすがにこれはないだろうという画像を見てもらいたい。
次回はPandaShojoの前身、CSノベル部の作品について取り上げようと思う。
了