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ペスカタリアンになりきれない。

週末に友達の家でのホームパーティーがあり、そこに参加していた女の子が人生で初めて捌いたという当日絞められた鶏を焼き鳥にして食べた。その女の子に感想を言わなければと躍起になり、自分の口内にある感覚全てを駆使して焼き鳥を味わい、肉の柔らかさに感動し絶望した。鶏を絞めることもできない、捌くこともできない、肉を喰らうその行為をうまく正当化することができない中途半端な状態の私。

次の日、家の近くのいつも通っているスーパーで夕飯の買い出しをしていて、ふと肉売場の冷凍コーナーに陳列されている「Impossible Meat」が目に付いた。何となく手が伸びていて、気が付いたら買い物袋に収まったそれが家のキッチンに並んでいた。

初めて調理してみると本当に挽肉じゃないのか疑うほど「普通」だった。ちなみに、初めてのプラントベースミートはタコライスにした。とうに腐りかけの玉ねぎと冷蔵庫に眠っていた生野菜と冷凍アボカドと貯蔵用トマト缶があったのでタコライスしか思い浮かばなかった。そんな行き当たりばったりの出来合い料理なのに近年の私の作る料理の中ではダントツで「普通」に美味しかった。

「これでいいじゃん」

普通のタコライスを食べながら目の前の霧が晴れていくような感覚に陥り、つい数日前に食した鶏に対する贖罪のような気持ちから「今日から私は肉なんか食べないぞ」と心に誓った。急にベジタリアンなんて高い目標を置いてしまうと続かないだろうなと思い、魚類は有りというルールにして(いわゆる「ペスカタリアン」)日常を過ごしてみることにした。

そこから2日間、自宅で大量に作ったタコライスの具材を小分けにして少しずつ食べてる間は無事ペスカタリアン生活が続いた。

3日目、オフィスに出社すると先輩にランチに誘われた。先輩2人と向かった先は少し歩いた先にあるスープカレー屋だった。内心「私の食べれるものはあるんだろうか」とドキドキしながら向かうと、幸運なことにそのお店にはしっかり野菜カレーもシーフードカレーもあった。それでもメニューを前にして私が選んだのはそのどちらでもなく納豆キーマカレーだった。

数日前の感動はどこへやら、気が付いたら誘惑に負けていた。「どうしても納豆がドロドロに入ったあのスープカレーを食べたい」そう思ったが最後、頭の中の理性がどれだけ「おい、三日坊主!」と叫ぼうとも、私の中にはこれを食べない選択肢なんてなく「ああ、せめてこの挽肉がプラントベースだったらいいのに」なんて悠長に考えながら、最高に美味しい納豆キーマカレーを欲望のままに食した。

その日帰るとちょうど作り置いていたタコライスの具材が切れるところだったので、昼間の一件は何事もなかったかのようにスーパーに寄りプラントベースミートを追加購入した。

翌日、オフィスに出勤するとまた先輩にランチに誘われた。先輩3人と向かった先はよく行くトンカツ屋さんだった。半ば諦めムードの中向かうと、案外メニューにはシーフードフライ定食のようなものもあり、前日の反省を踏まえてこれにしようと思った。なのに注文の順番がまわってくるとなぜかヒレカツ定食を頼んでいた。いつも通り絶品だった。トンカツ屋さんでトンカツを食べないなんていうことは暴挙にしか思えなかった。

ここまでが今日の昼の出来事。夜ご飯は追加購入していたプラントベースミートをせっせと使って茄子と挽肉の味噌炒めを作り、サラダうどん風にして食べた。

私は元々焼肉は沢山食べると気持ち悪くなるし、肉なんてなくてもいくらでも生きていけると思っていた。でも美味しいご飯を食べることに対する貪欲さもあるから、なんだかんだでその場のメニューのラインナップから肉ありメニューがベストだと判断すれば躊躇なくそれを選んでしまう。

ランチに向かう途中、先輩の一人に「実は今週からペスカタリアン生活を実践しようと思っていたんですけど、早速破っちゃいました」と打ち明けると、「俺も最近太ってきちゃって、気を付けないといけないと思っているんだよね」という返事が返ってきた。私がペスカタリアンを志す理由は動物愛護の観点だけだったけど健康面という捉え方もあるのか、と拍子抜けした。

調べてみると、一般にヴィーガンやベジタリアンには3つの動機があるらしく、健康を目的とするダイエタリー・ヴィーガン、環境保持(地球温暖化の原因となるメタンガスの発生源となる牛のゲップの抑制など)のためのエンバイロメンタル・ヴィーガン、最後に、動物愛護を目的とするエシカル・ヴィーガン。

If you ate an average sized beef burger just once or twice per week, over the space of a year your consumption of beef would contribute 604kg of greenhouse gases. That’s the equivalent of driving a regular petrol car 1,542 miles (2,482km) or heating an average home for 95 days, or one return flight from London to Malaga.
https://www.milliondollarvegan.com/meat-and-climate-change/

私の動機を改めて定義してみると、健康面は興味がなく、人間が利用する為だけに動物を増やし、育て、殺している現状に対する抗議の面が大きい。

そこまできて、じゃあ毛皮はどうなのかとか動物実験はどうなのかとか、更には何故魚類と植物は良いのかとか、次から次へと新たな疑問が湧いてくる。全ての問いに対する答えは「良くはない」というのが本心なんだけど、「全て完璧になんて気にしちゃいられない」っていうのが本音。

これからもきっと、付き合いでトンカツ屋に行くこともあるだろうし、行った先のお店で食べたいと思ったものが肉を使っているメニューしかないことだってある。

それでも、何もしないよりよいことは明らかだ。

元ビートルズのポール・マッカートニーさんが提唱している「ミートフリーマンデー」のように、週1日だけ肉を食べないという運動もありますね。一切断つ、というのではなく、少しでも減らそうという考え方だと思います。
「絶対に肉は食べない」という禁欲主義ではなくて、今日は肉はやめておこうかな、一週間はやめておこうかな、くらいで良いんです。そしてやっぱり食べたくなったら、食べても良いんです。
https://globe.asahi.com/article/14478225

世の中では、ゆるいベジタリアンのことをフレキシタリアンと呼ぶらしい。ペスカタリアンにはなりきれないかもしれないけど、これからはフレキシタリアンとして半歩ずつでも自分なりの正義に向かって近付いていきたい。

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