馬と足枷
馬は走ることが大好きだった。
風に乗り、グラデーションのように変化する景色を横目にまっすぐ進んでいくことが馬にとって至福であり、「生まれてきた意味」そのものであった。
走る道はいつも同じであったが、飽きることなど一度もなかった。
しかし、ある日突然、馬の脚には足枷がついていた。
誰が何の目的でつけたのかはわからない。
馬は困惑しながら一歩一歩、足を踏み出してみた。
当然のことながら足枷は馬を地面へ引きつけ、以前のように走らせてはくれなかった。
風に乗って颯爽と駆けることができず、立ちはだかる障害を飛び越えることもできず。馬は重い足を引きずりながら目の前に立ちはだかる大きな壁の前で止まり、脇に見える別のルートを眺めた。
その時、誰かが言った。
「しょうがないよ、諦めなって。それに別のルートにしかないものもあるのだからいいじゃないか。」
数秒の沈黙が過ぎ去った後、馬はコクリと小さく頷き、静かに尋ねた。
「あの道を駆けたいと思うことは傲慢なのか?」
相手は答える。
「そういうんじゃないよ。だけど、嘆いたって変わらないものは変わらない。諦めなければ君の足枷が今すぐ取れるというわけでもないだろ?」
相手の言うことはもっともであった。馬自身も分かっていたことだった。
それでも馬は言わずにはいられず、寂し気に呟いた。
「あの道を駆けることでしか感じられない風があるんだ。そこでしか見えない景色があるんだ。代わりにならないものを失っているんだ。それを「しょうがない」の一言で済まさないでくれ。私の大切な時間と感情なんだよ。」
馬の足元に風が吹いた。
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