腰部脊柱管狭窄症について
こんにちは。みるめATです。
今回も腰部疾患について投稿していきます。今回は腰部脊柱管狭窄症です。スポーツ現場ではあまりみられない症例ですが医療機関で勤務しているATの皆さんは腰部脊柱管狭窄症の患者さんを担当する事が多いのではないでしょうか。もちろんスポーツ現場メインで活動されている方々も知っておいて損はないと思います。そこで今回は基本的な病態理解から適切な運動指導までの内容を投稿していきたいと思います。
◯腰部脊柱管狭窄症とは?
そもそも脊柱管狭窄症とはなんでしょうか?あまり詳しい病態を知らなくても名前から想像して脊柱管が狭窄(狭くなる)事かな?とわかるかと思います。ではなぜ狭くなるのか?詳しい病態を見ていきたいと思います。
◯定義
腰椎部の脊柱管あるいは椎間孔の狭小化により神経組織の障害あるいは血流の障害が生じ、症状を呈すると考えられていますが、現在のところ、腰部脊柱管狭窄症の定義について完全な合意は得られていません。
↑腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021より抜粋
脊柱管狭窄症は椎間関節の加齢などによる変形性変化などによって脊柱管が狭窄する事で馬尾神経や神経根を圧迫する事で、様々な神経症状が出現する腰部疾患です。以下に主な症状をまとめます。
◯症状
・下肢の痺れや疼痛
・間欠性跛行(座位や前屈姿勢を取る事で症状軽快する)
症状が進行すると...
・下肢筋力低下
・尿漏れ
◯脊柱管(spinal canal)の解剖
そもそも脊柱管とは椎体の後方に存在する椎孔が連なる事で脊柱管を構成しています。
脊柱管は前方が椎体後面、椎間板、後方が左右の椎弓、
椎間関節、黄色靭帯によって覆われています。
↑左が正常で右が脊柱管狭窄症患者の脊柱管。上記の写真だと脊柱管の椎体側と椎弓側面が変性し圧迫している事が分かりますね。
◯脊柱管が狭窄するまでの流れ
①は正常な脊椎と椎間板ですね。椎間板と椎間関節によって荷重の分散・挙動が行われています。ここから様々なストレスがかかることにより、変性が進んでいきます。
②椎間板内のプロテオグリカンが減少し、水分含有量減少して荷重分担機能低下。線維輪が損傷することで修復機転として神経組織が新生し、椎間板への負荷が加わると椎間板性腰痛を発症する。
椎間板機能の低下によって椎間関節への負荷が増し、適度の伸展・回旋不可によって椎間関節性腰痛が発症する
③椎間板機能不全によって椎体周囲に負荷が加わり続け、骨棘形成させる。また椎間関節軟骨も変性消失し、関節周囲に骨棘形成される。これらの過程において骨増殖部に神経組織が新生する。その刺激によって腰痛が生じる。(初期変形性脊椎症)
④椎体周囲や椎間関節の骨棘が増殖し変形性脊椎症を呈する。椎体後面の骨棘、膨隆した椎間板、変形した椎間関節、肥厚した黄色靭帯によって脊柱管が狭小すると馬尾神経や脊髄神経を圧迫、刺激し下肢痛、麻痺症状、間欠性跛行を呈するようになり脊柱管狭窄症と診断されます。
下の図も左が正常な脊柱です。右は椎体の骨棘、狭小した椎間板、変形した椎間関節を呈し、脊柱管狭窄症を発症している図です。
◯なぜ黄色靭帯が肥厚するのか?
原因はまだわかっていないことも多いですが、年齢を重ねることによって椎間板の水分量が減少し、椎間板の不安定性が増加します。そうすると黄色靭帯が安定性を補填するために肥厚していきます。やはり始まりは椎間板の水分量の減少、すなわちプロテオグリカンの減少から全ては始まります。
そうすることで腰部脊柱管狭窄症が発症してしまうのです。
◯Save the プロテオグリカン
よく半月板損傷でなるべく切除せずに保存や縫合で半月板を残すことが現在は主流とされています。よくSave the メニスカスといいます。
半月板のそのスローガンと同じように腰にも勝手にスローガンを作りました。Save the プロテオグリカン !笑 私が勝手に作っただけなので優しい目で見ていただけると幸いです。
上の図だと椎間板内の組織はほとんど水分で構成されています。やはり水分の減少が一番の問題です。そしてその水分量を維持しているのがプロテオグリカン です。以下に、椎間板各組織の水分量まとめました。
椎間板内の各組織の水分量
髄核→77%
線維輪→70%
椎体終板→55%
ほとんどが水分で構成されています。プロテオグリカンが減少し、水分含有量が低下することにより椎間板が狭小し骨棘形成など様々な疾患や状態へ進行していくことは避けられません。
◯腰部脊柱管狭窄診断サポートツール
日本脊髄病学会が推奨しているサポートツールがあります。
ABI→足関節上腕血圧比
ATR→アキレス腱反射
SLRテスト→下肢伸展挙上テスト
病歴や問診及び身体所見で合計点は-2点から16点までとなります。このスコアが合計点数7点以上だった場合は脊柱管狭窄症である可能性が高く、感度は92.8%、特異度は72%です。
◯手術についてATが把握すべき内容
前回の腰椎ヘルニアの部分でも少し触れましたが改めて腰部の手術について触れていきます。まずは保存療法を実施しますが、神経圧迫の要因が椎間板の変性や黄色靭帯の肥厚など自然経過での退縮が難しい。そのため保存療法では症状改善が得られないことが多い。症状進行し、日常生活動作が著しく障害される場合は手術治療を検討するべきである。
◯椎弓切除術
黄色靭帯骨化症骨棘形成などによる脊柱管狭窄症に対する、腰椎部分の追求の一部を切除して脊柱管を広げ圧迫を解除する術式
◯腰部固定術
腰椎不安定症が症状の一因となっている場合は腰椎固定術が選択されることが多いです。前述した椎弓切除術を行うことで不安定性が増すことで固定術を併用して行うこともあります。
ちなみに不安定性の定義は以下のようになっています。
・前屈位ー後屈位にて4mm以上の滑りを生じ、前屈位ー後屈位にて10度以上の角度変化があるもの
この定義に当てはまる症例でも、減圧術のみで有効な場合もあるので、実際には症例ごとに固定術の適応を慎重に検討することが必要です。
◯運動指導について
腰部脊柱管狭窄症診療ガイドライン2021の運動についての記載を以下にまとめてみます。
・運動療法を行うことを提案する
・専門家の指導下に行う運動療法は痛みの軽減や身体機能や、 ADL,QOLの改善にセルフトレーニングよりも有効である。
・最適な運動療法の種類は明らかになっていない
・除圧術よりも効果は劣るが有害事象リスクは低く、低コストであって、重症例以外では推奨できる
なので特に推奨されている運動はないので私が論文などや経験をもとに少しまとめたいと思います。
運動指導に関しては固定術では固定部分に負荷を与えることはリスク管理を徹底する必要があります。骨盤の過度な屈曲、側屈など腰椎の固定されている部分が動かされることは避けなければなりません。そのような知識は運動指導するアスレティックトレーナーにも必要不可欠です。
◯腰部多裂筋と腰部脊柱管狭窄症
腰部多裂筋と腰部脊柱管狭窄症をまとめた研究がいくつかありました。
腰部多裂筋横断面積が病変分の疼痛優位側が健側に比べて減少しているという研究あります。
病変部における腰部多裂筋横断面積の小さい症例にはADLや歩行能力が低い傾向を示すそうです。これは特に女性で顕著に腰部多裂筋横断面積と歩行能力について関連がある様です。
この様に腰部多裂筋の横断面積が減少することによって歩行能力の低下やADL機能の低下が見られます。腰部脊柱管狭窄症の代表的な症状として間欠性跛行が挙げられます。
◯間欠的跛行とは
歩き続けることができない状態のことです。一定の距離を歩くと疼痛などにより歩行困難になり、しばらく休息するとまた再びあるい続けることができるという症状です。
特に病変部での疼痛側で横断面積が減少することも明らかになっているので、腰部多裂筋へのアプローチは大切です。
腰部多裂筋をエクササイズする運動メニューは多々ありますが、腰部多裂筋はご存知の様にローカル筋で筋肉自体が小さいです。そのため、うまく意識できないと脊柱起立筋で代償してしまう人も少なくありません。
多裂筋の運動として推奨されているものはクロスエクステンションや四つ這い位での運動です。四つ這い位で対側の上下肢を伸展挙上する様な上の写真の様な運動をすることが多いと思います。しかし、上の写真のクロスエクステンションでは多裂筋よりも脊柱起立筋の活動の方が大きくなると言われています。
一方、下の写真の様な上肢で支持しながら下肢のみを伸展する様な運動の方が多裂筋の活動が活発になるという研究結果もあります。ただキツい運動を処方するのはナンセンスです。活動させたい筋に適切に刺激が入る方法で行うことが大切です。
腰部脊柱管狭窄症患者さんだけではなく腰痛患者さんのほとんどで多裂筋の萎縮が認められるほど腰痛と多裂筋は斬っても切り離せない関係です。腰部脊柱管狭窄症も多裂筋の萎縮と歩行の関連性があると認められているので多裂筋へのアプローチもとても大切になります。
まだまだ明確に推奨されるものがないからこそ腰部脊柱管狭窄症への運動処方も患者さん一人一人の状態を確認し、今までの治療内容などを踏まえリスク管理を徹底し運動提供することが大切です。
最後は当たり前のことになってしまいました。
長々と投稿してしまいましたので、この辺で終わりたいと思います。
今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
またどうぞよろしくお願いいたします。
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