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黒ひげのサンタの日(お通夜に届けたクリスマスケーキ)

(2019年12月24日の記録 5年前)
昨日はプロバイダーを開始して以来続けている17年目のケーキ配りの初日。

6年前のこの日は、もう今日のうちに命のともしびが消えるであろう愛猫シャリを家に残しケーキを配り、客先で「亡くなった」という知らせを受け、流れる涙を隠すこともできず、会員様方に慰めの言葉をもらいながらケーキを配っていたという、そんな思いで深い日でもありますが、やはり、毎年、心に深く残る出来事が起こる日でもあり、今年もまた悲しい別れがあり、けれど来し方行く末を再認識する、思い出深い日となりました・・。

17年前、プロバイダー事業を増やし、それまでの広告デザインの会社や事業所がクライアントの仕事とは異なり、一般家庭の方々が入会して「会員様」となり、パソコンを購入してくださったりという繋がりが増え、そんな方々にお歳暮代わりにクリスマスケーキをプレゼントし始めたのがキッカケでした。
私自身は、比較的高価な買い物を頑張ってしてくださった会員様へのお礼のつもり程度で、夜、夕食の明かりが点く家々を回ってチャイムを鳴らし「サンタで~す」と言ってケーキを手渡していただけなのですが、そん中で、ドアを開けた時にケーキをもって立つ私を見て「泣き出す方」が沢山いたのです。

泣きだすのは大抵が一人暮らしの会員様で、もう長い間「クリスマス」の賑わいなど縁もなく暮らしていた方がほとんどで、思いがけず現れた私のような「黒いひげのサンタ」でも、感激で私の手をつかんで喜んでくれるほどでした。
又ある方は、ご不在だったので玄関先に弊社の「アトラス君」のキャラクターの入ったクリスマスカードを付けたケーキを置いて帰ってきましたが、翌朝に電話で「昨日はごめんね、留守にしていて、でも、玄関にあったケーキを見て、感激したわ!、もう娘たちが嫁いでお父さんと2人きりになってからクリスマスケーキなんて食べた事もなかったから!昨日、2人で美味しく嬉しく頂きましたよ。本当にありがとう!」と興奮した声でお礼を言ってきてくれました。

この方は、弊社から会社事務所のパソコンなどはすべて購入して下さり、設置設定からトラブル時まで、全幅の信頼を私に寄せてくれていた設備工事会社の奥様でしたが、仕事以外?のこの「ケーキをプレゼントしに来てくれた」という思いがけない出来事が何よりも嬉しかったと、何度も何度もお礼を言ってくれました。
こんな、その初年度の経験で、私は、私の些細な行為でも、人によっては幸せに感じ、感激してくれるのだという事を知り、私自身喜びに感じ、更にお客様方に喜びや、幸せや、楽しさを感じてくれる人が増えればーと、毎年のケーキ配りを熱心に行うようになりました。

・・・でも、そのケーキ配りも数年行った頃に、私は一つのルールを決めました。
「喜んでくれない方、お礼を言わない方には、もう配らない」

不在宅の玄関に置いていっても電話一本くれない方や、雪降る夜に玄関先に立つ私がケーキを差し出すと「どうして?」と聞き「今年、パソコンを買ってくださいましたから」というと、当たり前のように受け取って、お礼も言わず、喜びもしないという「人種」もいる事に気づき、そういう方にはこういう時間や心を砕くことは辞めようと決めました。

「忘己利他」という言葉は、我を忘れ他者の利を優先することというものですが、他者を楽しませ、喜ばせることに、「私自身が喜びを感じなければ、そういう行為は心が消耗して続けられない」と判ったからでした。

2013年12月23日、今日のうちにも命の灯が消えてしまうと思われた愛猫のシャリを置いてケーキ配りに出発しましたが、夕方4時ころ「亡くなった」と携帯電話に知らせが・・・


そんな中で、最初に書いた6年前。
愛猫のシャリが亡くなったという連絡を受けた後も、順番に一軒一軒ケーキをお渡しに回っていると、私の声のトーンで「どうしたの?」と心配してくれる方がいました。

「実は、17年飼っていた猫が先ほど亡くなって・・・」というと、自分が飼っていた犬や猫が亡くなった時の事を話して下さりながら、玄関先での立ち話しながら、私と一緒に涙してくださいました。
それがケーキ配り最初の年に、喜びの電話を下さった設備工事会社の奥様でした。
その方が実は今年の初めに弊社に来られて、しばらく入院していた事、そして癌であることを話してくださいました。
すい臓癌で、手術ではどうする事も出来ず、抗がん剤や放射線治療を行っていくという事でした。
完治できるかーと言うより、いつまで生き延びることが出来るかという覚悟を話されていきましたが、大切な会員様で、人柄も尊敬できる心の通じ合った方のこういう告白はやはり残念でした。

その後、別の医師である会員様とお話していた時に、ご兄弟がオプジーボ(癌治療の特効薬と期待されている薬)で完治したというお話を聞き、私はその会員様に電話して、入院先なども紹介してもらえるそうなので、社長様(ご主人)と相談して可能だたら、是非、治療を受けてください!と連絡しましたが、数日後に「私の癌には効かないという主治医の話で、せかっく私の為にそこまで言ってくれたのに申し訳ないけど、今の治療でがんばりますわ、アトラスさん、本当にありがとう」と泣きながらの電話でした。

それから10カ月、この会員様の容体を聞くことは憚れたのものの、毎年毎年、私のケーキ配りを楽しみにしてくれているその会員様宅にも、是非届けたいと昨晩も行きましたが、車をご自宅前に近づけると見たくなかった光景が・・・無情にも玄関先に『忌中』の行燈が置いてありました。

『通夜12月22日、告別式12月23日』

お葬式が丁度終わった、その日が今日でした。
「ああ、今年のケーキを手渡せなかった・・・」
車中でどうしようかと悩みましたが、今日のこの日は特別な日ですので、不作法はご容赦頂き、まだ焼香台のある玄関先に入っていくことにしました。

「アトラスと言います、社長様をお願いします」というと、親戚らしき方がご主人を呼んできてくださいました。
ご主人は、ケーキを手にして玄関に立つ私を見た途端、顔をクシャクシャにして涙ぐみました。
私もそんなご主人に嗚咽が漏れそうになりましたが
「・・このような時にスミマセン、玄関先に来るまでお亡くなりになったなんて知らなくて・・・。」
「でも、毎年恒例のこの日に、奥様にケーキを手渡したかったので・・・非常識かと思いますがお受け取り頂けますか」
と私も声を詰まらせながら伝えると
「ありがとう!ありがとう!本当にありがとう」
「家内も、毎年毎年、あなたがケーキを持ってきてくれるのを、本当に楽しみに待っていたんだよ、喜んでると思うよ。
いや、本当に寄ってくれてありがとう。家内も喜んでいるよ」そう言って受け取って下さりました。
そして
「アトラスさん、これからも、ぜひ続けてください、家内もそうでしたが、みんなが『あなた』が来るのを本当に楽しみに待っているはずですから。あなたの気持ちには家内も本当に力づけら心の支えになっていたと喜んで言ってましたよ、多分、家内だけでなく、他のお客さんの多くの方も、家内のように、あなたがこうやって毎年毎年、自分たちの為に心を砕いてくれることを心から喜んで、そんなあなたの事を心から待ち望んでいると思うから、これからも続けてください、そして、本当にありがとう・・・」
本来なら出直して香典をお持ちすべき場面に、ケーキをお渡ししたにもかかわらず、涙ながらに逆に「ありがとう」とお話し下さる社長様に、私も何も言えず、ただ感謝の頭を垂れ、涙を流れるままに任せました。

私のようなものに、できる事は些細なことでしかありませんが、皆さんが喜んでくれることを、これからも続けていきたいと、そう更に強く思った2019年の12月23日のケーキ配りの日の出来事でした。

合掌、そしてメリークリスマス!

#エッセイ

もう20年近く続けている、会員様宅へのケーキ配り

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