10-12月期GDP統計から浮かぶ日本経済の姿 = 「安定性」と「成長力」薄れる日本経済 =
2021年 2月25日
新型コロナ・ウイルス感染が世界に蔓延し始めて1年が経過した。昨年の世界経済はこの感染症パンデミックの下で社会・経済活動が大きく抑制され、現時点ではウイルス・ワクチン接種に大きな期待が掛っている。国はそれでも現状では新型コロナ・ウイルス感染抑制と社会・経済活動の動向に一喜一憂しているが、その流れの中でも各国の社会・経済基盤の軸を確認しておくことがパンデミックから立ち上がるための政策策定に重要である。
前レポートでは、技術革新の波が継続する米国経済の姿をお示ししたが、今回は日本経済が抱える社会・経済基盤に光を当てる。
〇 新型コロナ・ウイルス感染が経済回復の頭を抑え込む状況続く
図1、表1は、米国、ユーロ(19ヵ国)、そして日本の実質GDPの推移である。
図1. 日米ユーロ : 実質GDPの推移(前期比年率、前年比、%)
表1. 日米ユーロ : 実質GDPの推移
これらの国、地域について前期比の流れを眺めると、昨年7-9月期は4-6月期の大きな落ち込みから一転して回復に転じた姿が観察され、その回復の強さは4-6月期の落ち込みの大きさを反転させた姿となっている。
続く10-12月期の回復の勢いは、7-9月期よりも大きく鈍化している。4-6月期の最悪期は脱したものの、ユーロ圏(19ヵ国)の実質経済成長率がマイナスに転じるなど、各国、地域の回復の頭が抑え込まれている姿にも見える。前年比の推移もこの姿を映し出している。
この流れは新型コロナ・ウイルス感染拡大と社会・経済活動との折り合い、すなわち感染拡大抑制のため、都市封鎖など外出や営業規制と緩和を断続的に継続していることに起因している。ユーロ圏の都市封鎖によるマイナス成長はその典型で、年明け後の日本も同じ状況にあり、マイナス成長が予測されている。
このような状況の下、感染、発病、重症化の抑制力を持つとされるワクチン接種に各国が期待を寄せている。しかし、変異株の発見も加わり、ワクチンの抑制力検証を行いながら接種が実施されている状況の下、ワクチン生産の遅れも顕在化しており、接種状況に拘束される状況は年内続きそうである。
〇 感染前に対する日本の回復水準は高いが、回復基盤の弱さ明瞭
改めて10-12月期の日本の実質経済成長率を眺めてみよう。10-12月期の実質GDPは前期比年率12.7%増、前年比1.2%減である。感染拡大前の19年10-12月期の水準に対して1.1%(98.9)低い状況となった。これに対して米国は97.5で2.5%低い水準、ユーロ圏は94.9で5.1%低い水準となり、感染拡大前の水準に対しては日本の感染拡大からの戻しが高いという姿が浮かぶ。
しかし、リーマン・ショック直前のピークからの推移を眺めると(図2)、様相は大きく異なる。昨年4-6月期において、日本、ユーロ圏の実質GDPはリーマン・ショック前のピークを大きく下回った。ユーロ圏は7-9月期にピークの水準を上回ったが、日本は10-12月期にようやく上回った状態で、マイナス成長のユーロ圏より低い水準である。感染拡大前の日本の実質GDP水準がユーロ圏をも下回っていたためであり、米国と比べれば日本の経済成長基盤の弱さがより鮮明となる。
図2. 日米、ユーロ : 実質GDPの推移(リーマン・ショック直前ピーク=100)
〇 実質民間消費支出、感染前の水準に対し日本が米国を若干上回る
それでは日本の需要について眺めてみよう。最初に取り上げるのは最大の需要である民間消費支出である ( 表2 )。
表2. 日米 : 民間消費支出(実質)の推移
実質民間消費支出は昨年10-12月期前期比年率8.9%増、前年比2.4%減と7―9月期から2四半期連続で回復した。この結果、10-12月期の水準は感染拡大前の19年10-12月期の水準を2.2%下回る水準となった。
同時期、米国の実質民間消費支出は前期比年率2.5%増と7ー9月期の同41.0%増から大きく鈍化、前年比でも2.6%減と日本を下回っている。結果的に感染拡大前の19年10―12月期に対する水準でも日本が米国を上回った。
この背景には米国の新型コロナ・感染者数が世界最大を記録する状況の下で外出、営業規制を実施していたのに対し、日本では自主規制の下で「Go To トラベル」が継続実施されていたという状況の違いがある。但し、日本において年明け後「緊急事態宣言」が実施されており、今年1-3月期の日本の実質民間消費支出は昨年4-6月期以来のマイナス成長に戻りそうである。
〇 消費税率引き上げで消費抑制の下、新型コロナ・ウイルス感染拡大
感染拡大後の日本の実質民間消費支出の推移は、同時期の実質GDPの推移と同様、米国の推移を若干上回るものである。
しかし、図3に示されるように目線をリーマン・ショック時以降に投げかけると、実質GDPの推移同様日米での大きな違いが明らかになる。
図3. 日米 : 民間消費支出の推移(実質、リーマン・ショック前ピーク=100)
感染拡大前の19年10-12月期の水準を基準として、昨年10-12月期の実質消費支出の水準が米国よりも感染前の水準に近いという計算になるが、表1,図3でお分かりなると思うが、日本の19年10-12月期は消費税率が8%から10%に引き上げられ、実質民間消費支出は前期比年率で11.9%減と既に大幅な減少をしている状態にあったということである。すなわち、感染前の水準として19年10-12月期を基準に判断すると米国を若干ながらも上回る回復状況には、消費税率引き上げによる減少基調の中での感染不況と理解しておくべきである。
図3はこの状況を明確に示している。リーマン・ショック直前のピーク(08年1-3月期を100として昨年10-12月期の民間消費支出の水準を眺めると、99.3となり、ほぼリーマン・ショック直前の状態に戻ったに過ぎないことが分かる。ちなみに同時期の米国の民間消費支出は121.8であり、リーマン・ショック直前のピークを21.8%高い水準に達している。
図3で明らかなように日本の実質民間消費支出は14年4-6月期にも大きく下落し、その後の推移も弱く、米国との拡大格差が急速に開いてきている。すなわち、消費税率が5%から8%に引き上げられた以降日本の実質消費支出の伸びが急速に鈍化している。
また昨年10-12月期の下落も消費税税率が8%から10%に引き上げられたことよるものである。理解しておくべきことは、新型コロナ・ウイルス感染拡大による下落が、消費税率引き上げによる消費拡大抑制基調の下で起こっているということである。
〇 14年以降民間消費縮小続き、昨年4-6月期には過去最低
日本の民間消費支出の問題点を別の切り口で眺めてみよう。図4は実質値で民間消費支出の対総需要構成比を日米で示したものである。この図から2点指摘する。
図4. 日米 : 消費構成比の推移(実質、対総需要構成比、%)
1点目は最大の需要である民間消費支出の総需要に占める構成比の水準で眺めると、日米間で大きな開きがあるということだ。日米間にはほぼ10%ポイントの開きがあり、他の需要とは異なり安定的な動きを示すとされる民間消費であるが、安定的な需要の受け皿として日本は米国よりも弱い姿が浮かび上がる。この差は日本のサービス消費の構成比が米国よりも10%程度低いためである。
一般的にはGDPに対する構成比が喧伝されるが、日本も製品輸入が増加しており、総供給、すなわち、国内生産(GDP)+海外供給(輸入等)において海外比率(輸入等の総供給に対する構成比)が上昇してきているため、消費など総需要が増加しても海外からの供給が増加すれば国内生産(GDP)には結び付かず、引いては雇用にも大きな影響を及ぼす。実質値で総需要に占める国内生産(GDP)の構成比が米国とほぼ同じである日本でもGDPに対しる構成比では真の姿は見えてこない。
2点目は、米国の総需要に対する民間消費の構成比が安定的に58%を上回る水準で安定的に推移する一方、日本は同48%を上回る水準で推移してきたが、14年以降低下基調を鮮明にしてきている点である。昨年4-6月期には同45.1%と現基準の統計では最低の水準にまで低下している。7-9月期には若干上昇したが、10-12月期には同45.4%へと低下している。
米国でも新型コロナ・ウイルス感染拡大の下でサービス消費の割合が低下しているが、日本の14年以降の長期にわたる低下はサービス消費の低下に加え非耐久財消費の持続的な低下がその背景である。
民間消費は他の需要の変化より安定的であるため、不況期にはその構成比は上昇する傾向を示す。リーマン・ショック時など米国でも観察される。但し、昨年の消費税率引き上げによる変化は非常に小さく、消費停滞の大きさが浮かび上がる。
これを踏まえても最大需要である民間消費支出の縮小は経済の安定拡大を阻害する要因であり、とくに成熟社会においては大きな問題である。新型コロナ・ウイルス感染拡大による不況を乗り越えるためにも民間消費支出の回復が重要である。消費については改めてご説明したい。
〇 民間住宅投資、米国の急増と異なり、日本は年末ようやく下落基調休止
次に家計部門の需要である民間住宅投資について眺めてみよう(表3)。
表3. 日米 : 民間住宅投資(実質)の推移
実質民間住宅投資は消費税率引き上げの影響を受け19年10-12月期以降2四半期連続で前期比マイナス、前年比では昨年1-3月期にもマイナスに転じている。
しかし、新型コロナ・ウイルス拡大が顕在化した昨年4-6月期には前期比でプラスを記録したが、続く7-9月期には前期比年率で21.0%減と前回の消費税率引き上げ後の14年4-6月期(同20.7%減)以来の大きな落ち込みを示した。
昨年10-12月期には再び前期比でプラスに転じたが、同0.2%と微増にとどまり、結果的には感染拡大前の水準に対して8.7%低い水準に止まっている。
日本の民間住宅投資は新型コロナ・ウイルス感染拡大の下で、米国とは大きく異なる推移である。消費税率引き上げの影響で前期比マイナスを続けた日本とは異なり、米国の住宅投資は金融緩和の影響も受け昨年1-3月期まで増加基調を加速してきたが、4-6月期には感染拡大から一転して前期比年率で35.5%減と急激な減少を示した。
さらに日本と異なるのはその後の動きで、7-9月期前期比年率で63.0%増、10-12月期33.5%増と驚異的な拡大を持続している。この結果、10-12月期には感染前の水準を13.7%上回る水準に達している。
日本でも米国と同じく感染拡大によるテレ・ワークなどが叫ばれているが、日本ではICTネットワークが米国と比べ不十分なことに加え、米国と比べて都市部での感染拡大、感染者数急増に大きな違いがあり、日本の移住はマンションなど居住施設に余裕がある都市近郊に止まるため、米国と違い住宅投資には結び付いていなと考えられる。
〇 消費税率引き上げと新型コロナ・ウイルス感染でリーマン・ショック以来の大幅減少
最後に民間部門の需要である民間設備投資について眺めてみよう(表4)。
表4. 日米 : 民間設備投資(実質)の推移
実質民間設備投資も消費税率引き上げを受け19年10-12月期には前期比年率で16.8%減とリーマン・ショック時の09年1-3月期(同22.1%減)以来の大きな落ち込みを示している。
続く20年1-3月期には前期比でプラスを回復したが、その後新型コロナ・ウイルス感染拡大を受け、4-6月期前期比年率で21.5%減、7-9月期にも同9.2%減と連続して下落を続け、7-9月期には前年比で10.8%減とリーマン・ショック時の09年10-12月期(同12.2%減)と並ぶ落ち込みを記録している。
〇 感染拡大からの回復では日米差はないが、長期トレンドでは大きな差
消費税率引き上げからの回復時に新型コロナ・ウイルス感染拡大の打撃を受けた民間設備投資であるが、米国より1四半期遅れ昨年10-12月期に前期比年率19.4%増と強い回復を示した。前年比でも2.8%減まで取り戻した。但し、1年前は消費税率引き上げで大きく減少した時期である。
この消費税率引き上げの影響を含めた動きを図5のリーマン・ショック直前のピークを基準として眺めると、昨年10-12月期大きく回復したとはいえ、リーマン・ショック直前のピーク(08年1-3月期)の水準より1%程度低い水準に戻ったに過ぎない。
図5. 日米 : 設備投資の推移(実質、リーマン・ショック直前ピーク=100)
日本の民間設備投資はリーマン・ショックで米国と同様大きく落ち込んだ。米国はその後12年にはリーマン・ショック直前のピークを上回り拡大を続ける一方、日本は11年に東日本大震災を経験、同時に原子力発電所事故も伴ったことで、サプライチェーンの再構築も含め民間設備投資は13年初めまで長期にわたり低迷、リーマン・ショック直前のピークを上回り始めるのは16年後半である。この時期、米国は既にリーマン・ショック直前のピークを20%上回っており、経済の成長力格差が鮮明となっていた。
その後の日本の民間設備投資の拡大テンポは米国に大きく遅れをとり、19年7-9月期のピーク時でもリーマン・ショック直前のピークを6.7%上回る水準に過ぎず、同時期米国の民間設備投資水準は同37.1%上回っており、大差がついている。
新型コロナ・ウイルス感染拡大の影響はこのような状況で起こっており、単に感染拡大からの回復という短期的な動きでは回復水準に日米の差はないが、長期トレンドからは日本の設備投資の弱さが露呈しており、大きな不安が残る。
〇 日本の設備投資に革新的な投資がなく、効率性も悪い
民間設備投資は当期の需要であると同時に先行きの供給力、成長力を高めるという重要な役割を果たすものである。
図6は日米の実質民間投資の対総需要構成比である。日米ともにほぼ同じような循環サイクルを描いているが、11年以降の拡大期においては米国か直近2度の設備投資サイクルのピークを上回り続けているのに対し、日本は15年以降ほぼ横ばいの水準で、かつ過去2つの循環サイクルのピークを下回っている。
図6. 日米 : 民間設備投資の推移(実質、総需要構成比、%)
この姿は米国が11年以降ICT,IOTなど情報通信革命が進展していることを示す一方、日本では米国のように設備投資の内容が公表されていないが、米国のような情報通信革命が進展しておらす、成長力拡大の基盤が根付いていないことを示している。
加えて、設備投資構成比の日米相違からは日本の設備投資効率の悪さが読み取れる。
設備投資構成比水準は日本の方が米国より明確に高いにもかかわらず、実質経済成長率は米国の方が明確に高い。日本の設備投資の算出係数が小さい、簡単に言えば構造的に米国より設備投資の割合が高いにも関わらず、経済成長に結びついていないということであり、設備投資の効率が悪いということを示唆している。
〇 「安定性」と「成長力」薄れる日本、「様子見」姿勢を捨てよ
昨年10-12月期のGDP統計を基に日本の民間需要である家計部門と企業部門の需要について眺め、日本経済の位置付けを長期的な観点から眺めた。
ここから浮かび上がることは、日本経済の「安定性」と「成長力」が薄れているという姿です。
現状、新型コロナ・ウイルス感染解消に向けてワクチン接種の平等で迅速な推進が唯一の現状離脱施策のようになっていますが、この感染による雇用、所得支援など実行の立ち遅れ、迅速さの無さが明らかです。
家計部門の需要をみれば消費活動を支える国民の生活支援が急務であることは明白です。財政赤字に驚き政策を出し惜しみすれば税金を負担する人達の減少を招き、更なる財政悪化を生み出すことになります。短期的には「取り残された人々」への直接支援、経済が動き出せば累進課税の本格的な見直しなど税制改革が必要である。
また、政府は「デジタル化」、「脱炭素化」を成長政策として打ち出していますが、これらはこれまでも叫ばれてきたことです。それでも民間設備投資の動きには全く表れてきていないのが現実です。
これらの政策は米国政権を眺めながらの政府や民間企業の「様子見」姿勢のなせる業です。米政権が変わりこれらの成長戦略を声高にしたのでしょう。成長戦略として「アベノミクス」を評価する人達が多くおられますが、本当に現実を見ているのかと思っています。
日本政府の「様子見」姿勢も問題ですが、米国やドイツなどを眺めると民間企業の「様子見」、「横並び」姿勢が最大の問題と考えます。レバレッジを有効的に使って投資を行い企業の成長を促すのが企業家精神並びに起業家精神の本質です。リスクに備えて余剰資金を積み上げるのは高齢者だけで十分です。
日本経済の再生には民間企業において、「様子見」、「横並び」を打ち砕く企業家、起業家が出てくるか・・・である。