政府支援とウイルス感染拡大が生み出す需要 = 急落からの回復、実態より高めに出る数値 =
2021年5月11日
〇 今年1-3月期実質GDP一段と加速するも、感染前の水準に至らず
新型コロナ・ウイルス感染禍での政権交代の下、今年1-3月期の米国実質経済成長率は前期比年率で6.4%増となり、トランプ政権最終期の昨年10-12月の同4.3%増から勢いを増した(表1)。
表1. 米国:実質GDPの推移
前期比年率で6.4%増を示した反面、前年の水準をようやく上回る程度ともいえ、今年1-3月期の実質GDPの水準は感染前の19年10ー12月期水準を回復しておらず、若干低い水準に止まっている。
この姿は4-6月期により鮮明になってくる。その背景は前年比でみて感染拡大による最大の落ち込みを示したのが昨年4-6月期(9.0%減)であるためだ。表1に4-6月期の数値は4-6月期が前期比でゼロ成長した場合を示しており、その場合の実質GDPの前年比は10.3%増と二桁の伸びを示す。
〇 回復の勢いのピークは4-6月期か
バイデン政権の長期的な追加財政支援は議会承認に至っておらず、現状、1.9兆ドルの巨額の財政支援が4ー6月期に集中する。ここにきて米国経済の予想以上の回復がメディアで報告されるようになってきたが、これは前期比の伸びに加え、前年比が昨年の落ち込みを反映して高い伸びを示す結果と理解しておく必要がある。
すなわち、バイデン政権の家計を中心とした巨額の財政支援策は長くて9月までとされており、この財政支出パターンを考慮すると4-6月期に最大の回復力を示し、その後は落ち着いてくると予想される。
〇 耐久財消費急増するも、サービス消費は依然減少継続
それでは個別の需要を眺めてみよう。最初に民間消費支出(実質)について眺めると(表2)、今年1-3月期前期比年率で10.7%と急伸している。但し、前年比では1.6%増に止まる。
表2. 米国:民間消費支出(実質)の推移
1-3月期の民間消費支出(実質)の水準は感染前の19年10-12月に対して99.9とほぼ同水準に回復している。
さらに、4-6月期が前期比ゼロであったとしても、前年比は12.4%増に急増し、前期比と前年比から浮かび上がる姿は、実質GDPと同じ状況である。
民間消費支出(実質)を財とサービスの消費に分けて眺めると、1-3月期財消費は前期比年率で23.6%増と前期のマイナスの伸びから急伸している。前年比では12.5%増と前期より2倍近い伸びを示している。リモート・ジョブや移住に伴う中古乗用車やレクレーション関連などの耐久財消費がその背景にある。
他方、サービス消費は1-3月期前期比でマイナス3.2%と昨年10-12月期の伸びと比べて半減しているが、昨年1-3月期から継続してマイナスを続けている。前年比の推移は前期比と同じ動きをしており、1-3月期はマイナス3.2%と前期よりマイナス幅は半減したが、昨年1-3月期からの前年比マイナスが継続している。
〇 4-6月期、財消費が鈍化する一方、サービス消費が急拡大する可能性
昨年の新型コロナ・ウイルス感染拡大による急激な経済の落ち込みが、今年に入って前期比と前年比での動きの違いが出始めてきている。
これを踏まえて、財とサービスの消費について表2に示した今年4-6月期の数値を眺めてみよう。この4-6月期の数値は、4-6月期、前期比の伸びがゼロ、すなわち、今年1-3月期と同じであった場合の前年比を示したものである。
これを眺めると、4-6月期前期比で伸びが無くても、財消費は前年比で1.9%増、サービス消費は同10.8%増となる。
これらの計算が示唆することは、今年4-6月期以降昨年の急激な落ち込みが逆に前年比で前期比より大きく表れるということである。ちなみに、昨年4-6月期、財消費の前年比はマイナス1.7%だったのに対し、サービス消費は同マイナス14.0%であった。
この計算の示唆することは、4-6月期、前年比でみて財消費の伸びは1-3月期の伸びより鈍化する一方、サービス消費は2桁の伸びへと急上昇する可能性が高いということである。
すなわち、最近メディアで報告されている米国経済の力強い回復の裏側には、昨年の急激な落ち込みが影響していることを理解しておく必要があり、巷間言われるほど景気回復力は強くないということである。
〇 中国は米国より少なくとも1四半期早い時期に新型コロナ・ウイルスがまん延
先月16日、今年1-3月期の中国の実質GDPが前年比で18.3%増という強烈な伸びが報告された。しかし、この伸びも昨年の急激な落ち込みの影響が反映されていることを理解しておく必要がある。
逆に、昨年1-3月期の中国経済の落ち込みが如何に甚大であったかと判断すべきである。また、1-3月期の米国実質GDPは前年比で0.4%増であり、4-6月期は前年比で2桁増が予想される状態である。すなわち、新型コロナ・ウイルス感染は少なくとも米国より1四半期前には中国でまん延していたことを示唆している。
〇 1-3月期の消費拡大は3月に集中
図1は民間消費支出(実質)を月次で眺めたものである。図1が示すように6月以降耐久財、非耐久財の回復が続く中でサービス消費が昨年3月以降マイナスを継続してきたことが分かるが、今年3月にサービス消費が前年比プラスに転じると同時に、耐久財消費が一段とその伸びを高めている状況が観察される。
図1. 米国:民間消費支出(実質)の推移(前年比増加寄与度、%)
この動きを消費の源泉となる個人所得の推移から眺めてみよう(図2)。個人所得は、前年比でみて、昨年12月3.2%増、今年1月13.3%増、2月4.6%増、そして3月29.0%増へと急増している。 この背景には政府からの経常移転である「その他所得」(黄色棒)の動きがある。
図2. 米国:個人所得の推移(前年比増加寄与度、%)
今年2月は新型コロナ・ウイルスが再拡大した時期でもあり、3月は感染の改善に加え政府からの支援の急増による個人所得の急増で、サービス消費が前年比で一転して前年比急増に転じると同時に、耐久財消費も上昇加速したといえる。
個人所得で最大の構成比である雇用者所得を眺めると、個人所得の前年比増加寄与度で昨年末から今年1月にかけて0.7~0.8%増で推移してきたが、2月には0.2%増へと鈍化しており、感染再拡大の影響が浮かび上がる。
3月には同2.6%増と昨年1月、2月の伸びと並ぶ上昇率となり、消費マインドの好転に結び付いたといえる。但し、昨年3月の雇用者所得の寄与度は鈍化しており、それに対する伸びであることも理解しておく必要がある。
〇 民間住宅投資 高い伸び継続するも勢い鈍化、4-6月期がピーク
個人所得を源泉とするもう一つの家計部門の需要である民間住宅投資(実質)を眺めると(表3)、今年1-3月期前期比年率で10.8%増と高い伸びを示したが、その勢いは鈍化傾向を鮮明にしている。 前年比では12.3%増と依然2桁の伸びを維持している。
表3. 米国:民間住宅投資(実質)の推移
民間住宅投資の高い伸びは昨年10-12月期のGDP統計についてお示ししたように、感染拡大する都市部から近郊や他州への移住があり、これを牽引しているのは比較的所得の高い層である。この勢いが落ち着きを見せながらも1-3月期も継続したということである。
移住などに関わるものとして耐久消費財の堅調さがあり、その購入者も比較的所得の高い層であることが裏付けられる。
これまで見てきたように今年4-6月期民間住宅投資が前期比でゼロの場合の前年比を計算すると25.3%増と最大の伸びとなる。これは昨年4-6月期前年比でマイナス4.0%と唯一マイナスを記録しているためである。
昨年7-9月期以降は前年比で高い伸びを記録しており、民間住宅投資の前年比は4-6月期がピークで、その後は明確な伸び率鈍化を示していくと考えられる。加えて、バイデン政権による巨額の財政支援は中間所得層以下に行われるため、ワクチン接種の拡大と加え、民間住宅投資の勢いは鈍化していくものと考えられる。
〇 昨年10-12月以降拡大強まる民間設備投資
企業部門の需要である民間設備投資(実質)を眺めてみよう(表4)。
表4. 米国:民間設備投資(実質)の推移
民間設備投資は当期の需要であるが、同時に先行きの需要や供給力を生み出す重要な需要である。民間消費支出は最大の需要であるが、消費は当期で消化してしまうが、民間設備投資は当期の消費や輸出などの需要を受け増減するが、同時に先行きの消費や輸出などの需要を創出する働きがある。消費や輸出は当期需要として消滅するが、民間設備投資は先行きの国の活力を創出する重要なものであることを確認しておこう。
民間設備投資は昨年4-6月期にかけて前期比でマイナス幅を拡大してきたが、続く7-9月期に急回復、その後拡大幅は縮小を示し、今年1-3月期は前期比年率で9.9%増と依然高い伸びとなった。
この結果、今年1-3月期には感染拡大前の19年10-12月期の水準を取り戻している。前年比でみても2.7%増と19年10-12月期以来のプラスとなった。
民間設備投資は3分野、構造物、設備機械、知的投資に分けて公表されている。
工場や倉庫、オフイス」ビルなどの構造物投資は今年1-3月も前期比年率で4.8%減、前年比でも16.4%減と下落基調を継続している。感染前の水準に対して82.9,17%以上低い水準である。
設備機械は設備投資の最大の構成比を占めていることを反映して、民間設備投資全体の動きを作り出している。今年1-3月期は前期比で16.7%増、前年比でプラスに転じた昨年10-12月のプラス幅3.5%増を大きく上回る同12.1%増を記録している。
感染前の水準は昨年10-12月期に上回り、今年1-3月期には感染前の水準を7.5%上回る、
3番目の知的投資は前期比で昨年4-6月期減少を示したが、前期比減少はこの期間のみでその後は力強い拡大を示し、今年1-3月期も前期比年率で10.1%増を記録している。前年比でも昨年4-6月期に伸びがゼロになった以降プラス幅を拡大してきており、今年1ー3月期には同3.9%増となっている。
この結果、感染前の水準は設備機械同様、昨年10-12月期に上回り、今年1-3月期には感染前の水準を4.6%上回っている。
〇 技術革新の流れ継続
米国の民間設備投資の推移を2分野で眺めてみたが、図3は民間設備投資の3分野における対総需要投資比率である。この投資比率の推移から浮かび上がる姿は、工場などの箱物の拡大ではなく、製造、サービス現場での構造改革の動きである。サプライ・チェーンの多国籍化による情報。技術などの一元管理が背景にあると考える。
図3. 米国:民間設備投資(実質)の推移(対実質総需要比、%)
設備機械投資は景気の波を受けながらも高い投資水準を維持しているが、知的投資は景気の波に左右されることなく直線的な投資比率の上昇が観察され、技術革新の流れが着実に進展していることを示唆している。
〇 感染拡大に伴うリモート・ジョブ拡大が情報機器投資の急激な加速生む
それでは設備機械投資、知的投資の細目を眺めてみよう。それぞれの細目を2002年1-3月期の実質水準を100として、図4は設備機械投資、図5は知的投資について眺めたものである。
図4. 米国:設備機械投資(実質)の推移(2002年1-3月期=100)
図5. 米国:知的投資(実質)の推移(2002年1-3月期=100)
設備機械について眺めると、明らかにコンピュータを含む情報機器がリーマン・ショック時の落ち込みは観察されものの、18年まで順調に拡大しており、2000年のITバブル崩壊以降情報機器の整備が米国の設備投資の軸になってきたことが分かる。
19年にはその動きが鈍化し、昨年1-3月にかけて減少を示している。しかし、感染拡大が明らかになった昨年4-6月期以降急激な拡大に転じてきている。感染拡大によるリモート・ジョブの進展などが情報機器投資の急激な拡大を促したことを示唆している。
〇 革新的な情報フラットフォームの胎動が生み出す知的投資
知的投資について眺めると(図5)、ソフトウェア投資がリーマン・ショック以降拡大スピードを上げ始めている。この流れは、15年末から一段と加速してきている。
リーマン・ショック後の金融機関での情報システムの再構築が進展する中、GAFAMと呼ばれる、グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル、マイクロソフト
などが革新的なプラットフォームとして胎動し、革新的な金融サービスを展開、更に全ての業界に展開するフィンテックと呼ばれる新しい媒体が革新的な発展を示してきている。
この業種を問わない展開は、5G,6Gを見据えた自動運転、医療などDX(Digital Transformation)にも拡大してきているが、この展開を促し、活発化するためのR&D(研究開発)も10年以降着実に拡大してきている。
〇 不透明な海外景気に関係なく、国内での革新的技術が牽引
民間設備投資(実質)の先行きをこれまで同様表4で眺めてみよう。
今年4-6月期の前期比がゼロであった場合の前年比を眺めると、構造物はマイナス7.3%、設備機械投資は同25.3%増、知的投資は同7.1%増と1-3月期の倍の伸びとなる。
米国で拡大している設備機械投資と知的投資の原動力は、米国で進化する革新的なプラットフォームを軸としたものであり、依然不透明な海外需要には大きく左右されないものである。すなわち、前年比で眺めたピークは4-6月期になるのかもしれないが、先行きも景気に左右されない動きで拡大を計測する可能性が高い。
〇 新しいサプライ・チェーンの構築
グローバル経済進展に伴い、より生産コストの低い地域への生産移転、部品、製品のコモディティ化を進めながらサプライ・チェーンを構築してきた。
しかし、米国の設備投資の構造変化を眺めても、製品、サービスの主軸は情報の集約、管理、そして制御などに移ってきている。すなわち、これらの流れにはこれまで想定しなかった国、国民の「安全保障」が組み込まれるということである。
バイデン政権の唱える同盟国間の協力による技術革新は真に国や国民の「安全保障」を守る新しい生産、サービスが不可欠ということである。
すなわち、新しいサプライ・チェーンは、生産コストの低下を求めるのではなく、国や国民の「安全保障」を確保できるサプライ・チェーンの構築である。
この新しい流れは、自動車、半導体、円高など米国の圧力を受けてきた日本に「技術立国」として大きなチャンスとなりそうだ。
〇 パンデミックによる急落からの回復も、ここにきて海上輸送にボトルネック
未だに新型コロナ・ウイルスのパンデミックがまん延する中、商品輸出とサービス輸出からなる輸出等(実質)について眺めてみよう(表5)。
表5. 米国:輸出等(実質)の推移
輸出等は海外、国内の感染拡大を受け、昨年年初から減少、昨年4-6月期には前期比年率で64.4%減を記録、感染前の19年10-12月期の水準を25%程度低い水準となった。
昨年7-9月期以降は前期比で急速に回復してきたが、今年1-3月期には前期比年率でマイナス1.1%と再び落ち込んだ。感染前の水準で眺めると、依然11%程度低い水準に止まっている。前年比でもマイナス8.9%に止まっている。
輸出等の推移は商品輸出の動きを反映したものであるが、同時に、コンテナ海上輸送や旅行客の減少を受けた航空輸送に大きな影響を及ぼしている。
他方、商品輸出の回復に対し港湾作業の遅れがボトルネックとなり、コンテナ船の稼働率の低下、用船価格の急騰が起こっている。今年1-3月期の商品輸出、サービス輸出の減少は、海上輸送のボトルネックが表面化したとみられる。
商品輸出(名目)の動きを国、地域別に眺めると、米国の最大の輸出相手国であるメキシコ、カナダのUSMCAに対しては今年1-3月期に前年比でプラスに転じている。感染拡大が継続する欧州、日本向けは依然低迷している。
他方、対立する中国向け、感染拡大が広がる昨年4月前年比でプラスに転じた以降急増、今年1-3月期は前年比58.2%増と中国が巨額の財政支出を行ったリーマン・ショックからの回復時を大きく上回っている。
これまで見てきたように、今年4-6月期の商品輸出が前期比でゼロであった場合、前年比では27.6%増と非常に高い伸びとなる。昨年7―9月期以降の前年比の推移とパンデミックの状況、さらには対中貿易の展開を考慮すると、夏場以降伸びは緩やかなものとなりそうである。
〇 実態より高めに感じる経済指標に注意
これまで眺めてきたように、米国経済は政府支援による民間個人消費の回復、感染拡大による住宅投資、民間設備投資の急拡大という姿が浮かび上がる。
一方、その推移には昨年感染拡大による急落からの回復という要素が数字に大きく反映されるという点に注意する必要がある。とくに4-6月期について公表される数値は実態より高めの感じに出てくる。
このような状況の下でバイデン政権により目標とする7月4日の独立記念日にかけてどのような状況を生みだされるかが焦点である。