新型コロナ・ウイルス感染が生み出す米国と同じ姿を見せる日本経済
パンデミック禍で米国、ユーロ圏など各国の急激なGDPの落ち込みが相次いで公表される中で、今月17日、日本の4-6月期のGDP統計が公表された。欧米諸国の都市封鎖などの厳しい対策が実施されなかった日本も、予想を上回る過去最大の落ち込みを示した。
〇 日本 : 新型コロナ・ウイルスの影響、欧米より
遅れて表面化
図1は米ユーロ圏の実質GDPの推移である。コロナ感染拡大の時期を眺めるため、昨年7-9月期(Q4)から前期比年率、すなわち、経済推移の瞬間スピードの変化を示したものである。
図1. 日米ユーロ:実質GDPの推移(前期比年率、%)
これらに表れているように、新型コロナ・ウイルス感染がパンデミック化する状態が鮮明で、今年1-3月期の下落幅を眺めると、ユーロ圏、米国、日本の順であり、4-6月期は更にその度合いが急激に表面化したことを表している。都市封鎖などの対策強化が感染急拡大とともに社会活動、経済活動に大きな抑圧効果があったことが分かる。
日本について眺めると、以前のレポートでもお示したように昨年10ー12月期に消費税率引き上げの影響から瞬間風速でマイナスに転じている。
その後デジタル通貨などによる消費税率引き上げの影響緩和策を実施したことにより1-3月期に前期比マイナスの幅が縮小したものの、訪日客の激減、世界景気の停滞、そして自粛規制で、4-6月期には瞬間風速では欧米ほどのマイナスには至らないものの、日本でも過去最大のGDPの落ち込みを記録している。
〇日本 : 4-6月期、米国を上回る実質GDPの縮小
同じGDPの推移を前年比で眺めると、異なる姿が表れてくる(図2)。
図2. 日米ユーロ : 実質GDPの推移(前年比、%)
依然のレポートでもお示ししたように、米国実質GDPは今年1-3月期に前期比でマイナスに転じているが、前年比では0.3%増とプラスを維持している。他方ユーロ圏は前年比で3.1%減と前年の水準を下回っており、米国はユーロ圏より新型コロナ・ウイルスの感染状況が弱かったといえる。但し、4-6月期には米国、ユーロ圏共に一挙にパンデミックの影響が拡大したことが分かる。
同様に日本を眺めると、昨年10-12月期から消費税率引き上げを受け前期比でマイナス。今年に入って消費税引き上げ緩和策にも関わらず1-3月期は前年比でのマイナス幅が更に拡大、このような状況の下で新型コロナ・ウイルス感染拡大により4-6月期には前年比9.9%の大幅減を記録している。
この落ち込み幅は4-6月期前期比年率で32.9%という急激な落ち込みを示した米国の前年比9.5%を上回るものである。これは新型コロナ・ウイルス感染拡大まで前期比で拡大を続けてきた米国に対し、消費税率引き上げで昨年10-12月期から前期比マイナスをすでに示してきた日本との違いである。米国の都市封鎖より穏やかな自粛で対処した日本ではあるが、実質GDP水準では4-6月期に米国を上回る縮小を示しているということである。
〇 新型コロナ・ウイルスで米国と同じ姿の日本
日本経済においては新型コロナ・ウイルス感染の時期とその対応の違いから図1に示されるように4-6月期の前期比年率の落ち込み幅は欧米と比べ相対的に小さいが、図2でみるように前年からの経済規模の変化では米国を上回る縮小に陥っている状態にある。
この視点から実質需要の前年比の推移を眺めたのが図3である。
図3. 日本 : 実質需要項目の推移(前年比、%)
図3で明らかなように、4-6月期の各実質需要の前年比は、輸出等が23.3%減と国内総生産GDPの2倍以上の下落を示し、パンデミックにある世界経済の需要急減を示している。
この輸出の落ち込みを1980年以降で眺めると、2009年1-3月期36.0%減、同4-6月期28.8%減に続くものであり、リーマン・ショック時の落ち込み幅には至らないものの、過去3番目の大きさである。
さらに注目すべきは民間消費が10.9%減と国内総生産GDPの落ち込み幅を1%ポイント上回る縮小を示していることである。この落ち込み幅は、リーマン・ショック時の09年1-3月期と消費税率引き上げ後の15年1-3月期の3.5%を約3倍大きく上回る過去最高の落ち込み、縮小である。
輸出に加え、民間消費が過去最高の落ち込みを示すという姿は、米国の4-6月期の姿と同じである。新型コロナ・ウイルスの影響は、世界経済の停滞はもとより、国内消費の急激な縮小を生み出しているということである。(「特異な姿を示した4-6月期の警告経済」参照 )
〇 名目値ではリーマン・ショック時を上回る落ち込み
また別の視点、すなわちより実態経済と近いとされる名目値で眺めてみよう。図4は名目GDPの推移をリーマン・ショック時と現状とを示したものである。
図4. 日本 : 名目GDPの推移(前年比、増加寄与度、%)
リーマン・ショック時の景気の底である09年1-3月期に名目GDPは前年比で11.2%減と最大の落ち込みを示したが、今年4-6月期は同11.7%減となり、リーマン・ショック時の最悪期を上回る落ち込みを示している。
更に明瞭なことは、今回家計部門の需要、とくに民間消費の落ち込みが格段に大きいことである。
また、政府部門の需要(政府消費、公的投資)はリーマン・ショック時に景気後退から1年遅れて動き出しているのに対し、今回は消費税率引き上げ緩和策の実施でプラスを続けてきたが、今年に入ってその伸びは鈍化してきている。実施期間の短さと外出自粛で支援が伸びなかったと考えられる。
さらに一律10万円の「定額給付金」の申請が5月半ばごろから開始されたため、その支給が4-6月期には十分出てきていないのであろう。「定額給付金」は8月半ばから月末で終了ということで、7-9月期にその大半が計上されることになる。
加えて、雇用維持や自主営業への支援金支給については、実施期間と支援金規模は不透明である。米国のように個人所得勘定が四半期で公表されていないため、データで把握できない。政府や国会は、政府施策の規模やその浸透状況をどのように判断するのだろうか、大きな疑問である。
〇 リーマン・ショック時と異なり、民間消費が生み
出す総需要の縮小
表1は今回の状況をリーマン・ショック時と比較したもので、各名目需要の前年比増減を対象期間の累積で眺めたものである。リーマン・ショック時は08年1-3月期がピークで、景気後退期はその後09年1-3月期までの1年間。今回は消費税率引き上げ時の19年10-12月期から今年4-6月期の3四半期と今年1-3月期と4-6月期の2四半期、つまり今年上半期の期間である。
表1. リーマン・ショック時との名目需要・供給比較(兆円)
左側の数値はそれぞれの期間の前年比増減累積額、右側はそれぞれの累積額の総需要(総供給)に対する構成比である。総需要(総供給)の前年比累積額が3期間においてマイナスであるため、構成比において各需要・供給の前年比増減累積がプラスの場合、マイナスの符号となることに注意。
需要側から眺めると、輸出等はリーマン・ショック時13.9兆円の縮小に対して今回は10.0兆円である。総需要下落幅に対する構成比でみても、リーマン・ショック時が54.4%と下落幅の半分以上を占めていたが、今回46.9%、今年上半期では44.3%と小さくなる方向に推移している。
輸出相手先から見えることは、新型コロナ・ウイルスの影響が大きいNAFTAやEU向けの落ち込みがアジア地域向けより大きい。台湾や中国向けの輸出は回復基調にあり、貿易相手国の感染時期や落ち着きの違いが地域間で生まれており、リーマン・ショック時で経験した世界に対する同時落ち込みには至らない姿である。
民間消費はリーマン・ショック時の1年間で5.4兆円縮小しているのに対し、今回消費税率引き上げ後からの3四半期で既に10.2兆円とほぼ2倍の規模で縮小している。総需要下落幅に対する構成比では、リーマン・ショック時が21.2%であったが、今回は48.0%と総需要下落幅のほぼ半分を占めている。今年上半期では更にその比率は高まっている。
民間設備投資については、リーマン・ショック時に5.0兆円縮小したが、今回はその半分の2.5兆円の縮小に止まっている。総需要下落幅に対する構成比もそれを反映しており、今年上半期には構成比で7.7%と更に小さくなっている。
輸出等と民間設備投資を合わせた総需要下落幅に対する構成比は、リーマン・ショック時74.1%と圧倒的に高い。今回はその構成比が58.3%、今年上半期は52.0%へと低下している。すなわち、リーマン・ショック時は海外、企業部門の需要縮小であったが、今回は、それら以外の家計部門、特に民間消費の縮小がもたらす総需要の縮小が特徴である。
〇 今回、輸入等の減少が大きく、国内総生産GDPへの
負荷軽減
同様な計算で総供給について眺めると、リーマン・ショック時の1年間で総供給(総需要)は25.6兆円(国内総生産GDP:21.4兆円、輸入等:4.1兆円)縮小。今回は3四半期で総供給は21.3兆円(GDP:12.3兆円、輸入等:9.0兆円)縮小、今年上半期で同19.0兆円縮小している。
これから分かることは、リーマン・ショック時は国内総生産GDPが総供給減少の大半(83.8%)を占めていたのに対し、今回は総需要の急減に原油価格の下落もあるが、新型コロナ・ウイルスによる輸入相手国の生産や輸送の停止などから輸入等の下落が9.0兆円とリーマン・ショック時の倍近くになったと思われる。
また、マスクなどの医療関連や在宅勤務、遠隔授業などの必需品の需要増に対し、輸入の制約などで、総需要の縮小に海外供給の縮小も影響している面もある。
今回このような状況を反映して総供給に対する国内総生産GDPへの負荷が減少する形であるが、今年上半期においては輸入等の減少が小さくなってきており、総需要の縮小に対する国内総生産GDPへの負荷は高まってきている。
すなわち、海外からの輸入体制が回復するにつれ、制約されていた輸入が動き出せば、海外での生産に依存する経済においては、ましてや、国内での生産体制の回復が遅れるようであれば、輸入代替が急速に進展する可能性も高い。これが更に国内生産活動の回復を弱め、ひいては国内総生産GDPへの負荷が大きくなる可能性がある。