米国:予想上回る回復示すも、不透明感払拭できず ( 1 ) = IMF10月見通し上回る回復 =
2020年11月 7日
コロナ・ウイルス拡大がパンデミック化する中で、ロックアウト解除後の経済の姿を示す7-9月期のGDP統計が、中国、米国、ユーロ圏などで発表された。日本は11月16日公表の予定。
今回はロックダウン解除後の米国経済の姿を眺め、冬場を迎えウイルス感染拡大再燃が不安視される状況での問題点を提示してみたい。
米国、ユーロ圏、7-9月期急激な回復示すも、感染前には戻らず
米国実質GDPは今年1-3月期前期比年率でマイナス5.0%、4-6月期同マイナス31.4%。そして7-9月期同プラス33.1%となった。予想されたとはいえ、ロックダウン時の急激な落ち込みから反転、急激な伸びを示した。ロックダウンの影響が如何に大きな影響を持つかが改めて示された形である。
ユーロ圏19ヵ国ついて眺めると、実質GDPは今年1-3月期前期比年率でマイナス14.1%減と米国や日本よりも大きな落ち込みを示し、コロナ・ウイルス感染時期が早かったことを示すのであった。4-6月期には同マイナス39.5%と更に大きく下落したが、7ー9月期には同プラス61.2%と米国を上回る回復を示した。
ちなみに、日本の実質GDPは今年1-3月期前期比年率でマイナス2.3%、4-6月期同マイナス28.1%とユーロ圏はもちろん、米国と比較しても4-6月期までの落ち込みは小さい。コロナ感染の時期やロックダウンではなく自主規制に力点を置いていたことがこの違いに表れていると考えられる。
図1は日米ユーロ圏(19ヵ国)の実質GDPの推移をコロナ・ウイルス拡大が報じられる前の2019年10-12月期を100として描いたものである。
図1. 日米ユーロ圏 ( 19ヵ国 ) : 実質GDPの推移 ( 2019年10-12月期 = 100 )
米国、ユーロ19ヵ国について最大の落ち込みを示した4-6月期の水準を眺めると、コロナ感染直前の2019年10-12月期に対し、米国が89.9で10.1%低い水準まで低下、ユーロ圏は同84.9で、15.1%低い水準にまで落ち込んでいる。同様に日本について眺めると、同91.5と8.5%低い水準となっている。
過去最高の伸びを示し回復した7-9月期について眺めると、米国は同96.5となり、急激な伸びにも関わらず2019年10-12月期より依然として3.5%低い水準に止まっている。同様にユーロ圏についても同95.7で、4.3%低い状態である。
ちなみに、10-12月期に2019年10-12月期の水準に戻るためには、米国では前期比年率で15.2%、ユーロ圏では同19.3%という高い伸びが必要である。
〇 7-9月期の急回復で10月公表のIMF見通しを上回る。
次に米国経済について、今回のコロナ・ウイルス拡大による景気後退の推移を前回世界的な景気後退を示したリーマンショック時の景気後退と比較してみよう。
表1はこれら2つの景気後退時の実質GDPの推移を示したものである。リーマンショック時は景気後退直前の07年10-12月期を100、今回は19年の10-12月期を100として実質GDPの推移を示したものである。図2はそれらを描いたものである。
表1. 米国 : 実質GDPの推移
図2. 米国 : 実質GDPの推移 ( ピーク = 100 )
世界景気後退の下での両景気後退期の推移を眺めると、今回のコロナ・ウイルスのパンデミックが如何に急激で大きな影響を経済に与えているか明瞭である。
金融市場の混乱を通じた世界的な景気後退であるリーマンショック時は、景気後退3期目でも直前のピーク時に対して99.4で、ピーク時に対して0.6%しか低下していなかった。
これに対して今回、景気後退2期目である4-6月期に89.9、すなわち直前ピーク時に対して10.1%低い水準にまで急落している。そして、ロックダウン解除後の7-9月期には96.5とピーク時に対して3.5%低い水準にまで回復してきている。
この水準はリーマンショック時の景気の底である09年4-6月期の96.0を既に上回っている。今年3四半期の前年比は平均でマイナス3.9%であり、10月に公表されたIMFの世界見通しで示された米国の今年の実質成長率マイナス4.3%をも既に上回っている。
リーマンショック時は09年4-6月期に底を打ち、その後回復に入ったが、景気後退前のピークである07年10-12月期の水準を取り戻すには11年4-6月期まで更に2年必要であった。
現在米国、欧州でもコロナ・ウイルス拡大が再燃してきており、先行きは不透明である。このような状況の下で、今年10-12月期に景気後退前のピークである19年10-12月期の実質GDP水準を取り戻すには、前述したように前期比年率でプラス15.2%の伸びが必要である。
この場合、20年の実質GDPの伸びはマイナス2.9%となり、長期化したリーマンショックによる景気循環と比べ、景気後退2四半期の短命な落ち込み、ロックダウンからの急回復という姿になる。
〇 コロナ・ウイルス再拡大の兆し 社会経済活動の腰折れ懸念
10月のIMFの世界見通しのポイントとして、来年実質GDPの水準がコロナ・ウイルス感染拡大直前の19年10-12月期の水準を取り戻すのは中国のみと報告されている。この背景にはコロナ・ウイルス感染の終息には時間が必要であるという判断がある。
現状欧米で春先以上の感染者が報告されてきている。欧州ではロックダウンが再度施行されるという情報も入ってきている。春先のロックダウンと比べ学校、工場などの閉鎖までは踏み込まないという話であるが、今年4-6月期に経験したロックダウンの脅威は避けなければならない。
経済かコロナ防疫か、コロナ感染まん延の実態把握が以前不十分な現在、ロックダウンの脅威を経験したことで、どちらかに偏るのは危険である。ワクチン開発が一つの光明ではあるが、処置も含め時間的スケジュールが不透明である。
このような状況では各国が時限的な政策では不十分であり、財政赤字拡大の下でも、何よりも弱者救済に向けた「選択と集中」での施策が必要である。
〇 リーマンショック時、景気刺激策の下、輸出、そして家計部門が回復
コロナ・ウイルス感染再拡大が懸念される中、予想を上回る回復を示した7-9月期の米国経済について、各需要事にその足腰の強さについて概観してみよう。
表2は各需要項目について表1でお示ししたように、今回とリーマンショック時の実質値の推移を示したものである。
表2. 米国 : 実質需要の推移(ピーク=100)
最初に世界的な景気後退であったリーマンショック時の動きを確認しておこう。
表1で眺めたように景気の底は09年4-6月期であったが、表2のリーマンショック時の推移で青色で表示した時期が各需要項目の実質値が底を打った時期である。
表2で示されるように、景気刺激策として政府消費支出、公的資本形成が増加をする中、輸出等が09年1-3月期に底を打ち、1四半期遅れて民間消費支出、民間住宅投資、すなわち家計部門の需要が底を打っている。企業部門の需要である民間設備投資が底を打つのは家計部門の需要より2四半期遅れて、09年10-12月期である。
すなわち、リーマンショック時においては、景気対策で公的需要が増加する中で海外需要が回復、そして家計部門が回復に転じるという姿であり、企業部門の回復は遅れたのである。
〇 7-9月期、政府消費が勢い鈍化 新政権の始動が遅れれば足かせに
さて、今回景気刺激策として公的部門の需要を眺めると、リーマンショック時とほぼ同程度の推移をしているが、失業者など雇用者支援となる政府消費支出が7-9月期その勢いが鈍化したのが気になる。
政府の景気刺激策は次期大統領による政権が始動すれば実施されるのは確実である。バイデン政権となればインフラ整備を含み2兆ドル規模の予算が投じられると報道されている。但し、次期政権が始動するのに時間がかかれば施行が遅れ、景気刺激策に切れ目が出てくる可能性が高く、回復の持続性にマイナスの影響が出る。
〇 リーマンショック時のような海外環境は望めない輸出需要
海外需要である輸出等はリーマンショック時において、最初の3四半期はピークを上回る拡大をしており、ピーク時の水準を下回るのは4四半期目からであった。その低下傾向も次の四半期、すなわち09年1-3月期には底を打ち、その後回復、09年第3四半期にはピーク時の水準を回復している。
輸出の落ち込みが短期間で終了した背景には中国があり、リーマンショックに対して4兆元という巨額の景気刺激策が施行され、米国はもとより世界の落ち込みを緩和する働きをしたことを確認しておこう。
今回、輸出等の動きは全く異なり、サービスも含め大きく下落している。実質GDPが急激な下落を示した4-6月期にはピーク時に対して75.4と25%程度の大きな落ち込みを記録している。7-9月期には回復を示したが、この背景にはロックダウン解消による荷役作業の再開があると考えられる。
7-9月期においても84.7と約15%ピーク時より低い水準に止まっている。この水準はリーマンショック時の底である89.7を下回る水準である。中国は既に回復を示しており対中輸出も回復してきているが、米中の貿易交渉は解消されておらず、さらに欧州やメキシコ、カナダもパンデミックの下にあり、リーマンショック時のような海外からの需要増は期待できない。
〇 コロナ・ウイルス拡大が生み出す民間住宅需要
リーマンショック時、さらに今回の各需要項目と比べて大きく異なる動きをしているのが民間住宅投資である。
民間住宅投資はロックダウンの4-6月期に直前のピークを下回ったが、それでも93.4を維持し、リーマン時の底である63.8を大きく上回っている。7-9月期にはピーク時を5.1%上回る水準を一挙に回復している。
低金利という条件はあるものの、景気後退期での堅調さの背景には、コロナ・ウイルス感染拡大の中、リモートジョブの拡大から都市部からの脱出需要がある。
この動きは単に郊外への移住だけでなく、{Go To West}という昔からのあこがれもあり、東部から西部、それも近くにゴルフ場やキャンプ場のある山に近い場所が家族のためにも好まれているという。移住をしているのは高所得層であり、対象地域では賃貸価格や土地価格が高騰しているという報道がある。まさにコロナ・ウイルス感染拡大が生み出している動きである。この動きは低所得層が取り残される中で、都市部のみならず地方部での街の姿を変える流れになるのかもしれない。
=== 民間消費支出、民間設備投資については次のレポートで・・・・