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消費財主導の物価上昇 = 前年比からは浮かび上がらないサービス消費の弱さ =

                       2021年06月30日

〇 民間消費インフレ、4月、5月とFRB見通し上回るも、5月前月比で鈍化

 25日、5月の米国民間消費支出デフレータが公表された。基準年の固定ウエイトで算出される消費者物価(CPI)と異なり、民間消費支出デフレータは、毎月の消費支出項目の変化を反映して算出されるため、FRBがCPIより重視している指標である。

 民間消費支出デフレータの動きを図1、表1で眺めると、今年3月以降上昇率が高まり、5月は前年比で3.92%を記録している。エネルギーと食料を除くコアも同様な動きをしており、4月に前年比で3%を上回り、5月には同3.40%と上昇幅が拡大している。

デフレータ(総合コア)[3182]

図1. 民間消費支出デフレータの推移(2019年10-12月期=100、前年比、%)

表1. 民間消費支出デフレータの推移(前月比、前年比、%)

デフレータ(表)[3183]

 6月のFOMCにおける経済見通しにおいても、21年の経済成長率の上昇修正とともに、民間消費支出デフレータ(インフレーション)を3.4%と前回3月の見通し2.4%より1%ポイント上方修正してきた。コアについては21年3%と3月時点の2.2%から0.8%ポイント上昇修正されている。

 FRBは6月時点でインフレ見通しを上方修正したが、総合、コア両方において既に4月には上回っている。6月のFOMCにおけるメンバーによる金利見通し、ドット・チャートの分布が大きく変化し、24年ではなく、23年に0.25%の利上げが2回あることを示唆している。

 パウエルFRB議長はFOMC後の会見で、利上げの議論は時期尚早と述べ、量的緩和縮小(テーパリング)については、実体経済の推移を注視し、市場の過度な反応を抑えるために事前に通知を行うと述べた。

 6月のFRB見通しでは、経済成長率を今年7%と3月見通しの6.5%から引き上げたが、来年22年は3.3%へと落ち着くとしている。民間消費支出インフレも今年の3.4%から来年2.1%へと安定化していくとしている。コロナ禍からの急激な回復に伴うインフレ圧力の上昇も、経済が安定的な推移に移行する過程で、インフレ圧力も沈静化していくというシナリオである。

 4月、5月と前年比で上昇率を高めている民間消費支出デフレータであるが、前月比で眺めると、総合では4月0.64%から5月は0.45%へ鈍化、コアも4月0.70%から5月は0.48%へと鈍化している。この背景には5月の実質民間消費支出が前期比で0.3%と4月の4.4%から大きく鈍化したことがあり、物価が需要の強弱を映し出す状況となっており、パウエルFRB議長の物価に対する見通しの根拠ともいえる。

〇 消費インフレ、消費財価格上昇幅拡大が牽引、但し5月はその勢い鈍化

 それでは民間消費支出デフレータの推移を、財、サービス別に眺めてみよう ( 図2、表2 )。

デフレータ(財サービス)[3184]

図2. 財・サービス別民間消費支出デフレータの推移(前年比、%)

表2. 財・サービス別民間消費支出デフレータの推移(前月比、前年比、%)

デフレータ(財サービス)(表)[3185]

 図2に描かれているように、サービス物価の上昇を主因に前年比1.5%以下で推移してきたが、今年3月以降民間消費支出デフレータの上昇率が高まっていることが分かる。その背景は、耐久消費財に続き非耐久消費財の上昇幅が拡大、すなわち消費財の価格上昇が動き出してきたことがあります。

 5月時点で、耐久消費財価格は前年比で6.75%、非耐久消費財価格は同4.61%となり、FRBの見通しを上回る一方、サービス価格は同3.15%に止まっている。

 これらの推移を前月比、すなわち上昇の勢いという観点から眺めると、非耐久消費財価格は4月から上昇の勢いが鈍化を示す一方、耐久消費財、サービスは5月に上昇の勢いが鈍化しています。この動きは実質民間消費支出需要の動きを反映したものです。

〇 4月以降耐久、非耐久財消費が拡大、5月にはサービス消費急拡大

 それでは民間消費支出デフレータの動きに影響を与える需要、すなわち実質民間消費支出の動きを財、サービス別に眺めてみよう。

 図3、表3に示したように、実質民間消費支出は前年比で4月9.2%とプラスに転じ、5月24.7%と上昇幅が急拡大している。

実質民間消費支出(グラフ)[3186]

図3. 財・サービス別実質民間消費支出の推移(前年比増加寄与度、%)

表3. 財・サービス別実質民間消費支出の推移(前年比増加寄与度、%、19年10-12月期=100)

実質民間消費(表)[3187]

 実質民間消費支出の拡大を牽引しているのは、物価の推移と同じく耐久消費財である。耐久消費財の前年比増加寄与度は3月の2.1%から、4月6.3%、5月8.8%と消費拡大を牽引している。

 非耐久財消費は4月まで前年比増加寄与度でみて1%台で推移してきたが、5月には同5.4%へと急拡大してきた。中身を眺めると、コア物価に含まれない食料は4月、5月も同0.7%で安定的に推移する一方、エネルギー関連は4月同プラス0.4%とそれまでの同マイナス0.1%から反転上昇、5月も同0.8%と寄与度は小さいものの倍増している。

 食料、エネルギーを除く非耐久財消費は4月に前年比増加寄与度で2.0%に上昇、5月も同4.0%と増加寄与度で4月の2倍となっている。経済活動再開を反映した消費増が示されている。とくに男性用被服・履物の増加は経済再開を示唆するものであり、物価面にも明確に表れている。

 コロナ禍の消費活動の影響を直接受けているサービス消費は、4月に前年比増加寄与度で1.2%とプラスに転じ、5月には同10.5%と耐久消費財の増加寄与度を上回る2桁の急拡大を記録してきている。経済活動再開が明確に表れた結果である。

〇 前年比からは浮かび上がらないサービス消費の弱さ

 前年比では経済再開を示唆する民間消費支出の動きであるが、この推移を新型コロナ・ウイルス感染拡大前の水準(19年10-12月期=100)で眺めてみよう。表3の右側の数値がそれらの推移を示したものであり、図4はそれらをグラフで示したものである。

実質消費支出(100)[3188]

図4. 財・サービス別実質民間消費支出の推移(2019年10-12月期=100)

 実質民間消費支出(黒線)は4月102.4と初めて新型コロナ・ウイルス感染前を上回った。しかし、5月は同102.7に止まり、前年比で経済活動再開を示す姿が観察されているが、消費水準の伸びとしては微増に止まっており、本格的な消費回復とは言えない状態である。

 新型コロナ・ウイルス感染拡大前の水準を上回っているのは。図4で明らかなように耐久消費財(4月131.8、5月131.6)、食料、エネルギーを除く非耐久財(4月117.5、5月117.0)、食料(4月112.9、5月111.8)である。エネルギー関連は感染前の水準を若干下回る水準で推移している。

 他方、サービス消費は5月前年比増加寄与度で2桁の上昇を示しているが、水準では4月95.2、5月95.8と依然として感染前の消費水準を5%程度下回っている。

 5月のサービス消費の水準は依然低いものの4月の水準は上回っており、耐久財、非耐久財ともに5月の水準が4月を下回っているのとは対照的である。サービス消費水準が低い状態で推移している過程でもサービス価格は前年比でプラスを継続してきているが、この背景にはサービス業や業種間で専門職などとの所得格差が大きくなるっていることを示唆していると考えられる。5月のサービス消費水準が微増する中での前年比の大幅上昇は専門職などの人手不足がより鮮明になっていると考えられる。

 前年比と感染前の水準からの消費水準との姿の違いは、図3に示されているように前年比で昨年20年5月が最大の落ち込みを示したことを受けて、今年5月感染前の水準が4月より鈍化しても前年比では大きくなるためである、

 FRBのパウエル議長がインフレに対して一時的な現象としている根拠はここにある。実質民間消費支出(黒線)は4月102.4と初めて新型コロナ・ウイルス感染前を上回った。しかし、5月は同102.7に止まり、前年比で経済活動再開を示す姿が観察されているが、消費水準の伸びとしては微増に止まっており、本格的な消費回復とは言えない状態である。

 新型コロナ・ウイルス感染拡大前の水準を上回っているのは。図4で明らかなように耐久消費財(4月131.8、5月131.6)、食料、エネルギーを除く非耐久財(4月117.5、5月117.0)、食料(4月112.9、5月111.8)である。エネルギー関連は感染前の水準を若干下回る水準で推移している。

 他方、サービス消費は5月前年比増加寄与度で2桁の上昇を示しているが、水準では4月95.2、5月95.8と依然として感染前の消費水準を5%程度下回っている。

 5月のサービス消費の水準は依然低いものの4月の水準は上回っており、耐久財、非耐久財ともに5月の水準が4月を下回っているのとは対照的である。サービス消費水準が低い状態で推移している過程でもサービス価格は前年比でプラスを継続してきているが、この背景にはサービス業や業種間で専門職などとの所得格差が大きくなるっていることを示唆していると考えられる。5月のサービス消費水準が微増する中での前年比の大幅上昇は専門職などの人手不足がより鮮明になっていると考えられる。

 前年比と感染前の水準からの消費水準との姿の違いは、図3に示されているように前年比で昨年20年5月が最大の落ち込みを示したことを受けて、今年5月感染前の水準が4月より鈍化しても前年比では大きくなるためである、

 FRBのパウエル議長がインフレに対して一時的な現象としている根拠はここにある。

〇 個人所得、政府支援急減の下、雇用者、事業者所得回復

 民間消費の源泉である個人所得の推移を簡単に眺めておこう。

 図5は個人所得の内訳を前年比増加寄与度で示したものである、明らかに今年3月まで政府の支援策による経常移転(受取)が個人所得の伸びを支えてきたことが明白であるが4月以降政府支援による経常移転(受取)が前年比でマイナスに転じる一方、雇用者所得が3月から増加寄与度を高め、さらに事業者所得、とくに非農業事業者所得の勢いを高めてきている。

個人所得[3189]

図5. 個人所得の推移(前年比増加寄与度、%)

 雇用者所得と非農業事業者の所得が拡大するという経済再開を裏付ける動きが観察されるが、個人所得全体の伸びとしては経常移転の減少で大きく鈍化してきている。

 7月の「独立記念日」を本格的な経済活動再開と位置付けるバイデン政権であるが、政府の支援策は6月で終了する動きがある中で、労働市場への就業者の参入が期待されると同時に、ニューヨーク州、カルフォルニア州に見られる全面的な経済社会活動の再開による非農業事業者所得の持続的回復拡大が期待され、個人所得の安定的な拡大路線へ復帰の基盤となる可能性が高い。

 但し、ロサンゼルスではインドのデルタ株感染拡大、マスク着用など警戒感が高まリ、経済活動再開には不安要素が漂う。

〇 実質可処分所得下落するも、経済活動再開期待から消費性向上昇

 最後に所得と消費の関係、より正確には実質可処分所得と実質消費の関係を図6で眺めてみよう。

実質可処分所得と消費[3190]

図6. 実質可処分所得と実質消費の推移(前年比増加寄与度、%)

 実質可処分所得は昨年4月以降継続してきた前年比増から、今年4月、5月と個人所得の鈍化と物価の上昇を受け、一転してマイナスに落ち込んでいる。

 但し、4月、5月は、雇用者所得や非農業事業者所得の回復が鮮明となり、先行きの経済活動に対する確信が醸成されてきたことを反映、貯蓄に回す割合を引き下げ、すなわち消費性向を高めて消費を増加させている。

 行きは個人所得の主軸である雇用者所得の増加基調と経済活動進展による非農業事業者所得の増加の下、物価上昇率の安定化への時間的経過との組み合わせとなりそうだが、所得と物価との経過家庭では、依然高い水準にある貯蓄率が消費回復の調整弁となりそうだ。

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