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縮小する民間消費支出 = 新型コロナ・ウイルス拡大前から縮小継続 =

                        2021年6月14日

〇 米国消費1-3月期に感染前水準に戻るも、日本は5%低い水準へ再び低化

 図1は日米の民間消費支出(実質)の推移を、財・サービス別に、新型コロナ・感染拡大前の2019年10―12月期を100として描いたものである(日本 : 6月8日公表の1-3月期 GDP 改定値に基づく)。

消費19(日米)[3176]

図1. 日米 : 民間消費支出(実質)の推移(2019年10-12月期=100)

 民間消費支出(実質)全体の動きを眺めると、日米共に昨年4-6月期に大きく落ち込み、その後共に反転回復を示したが、日本は今年1-3月期再び鈍化し、感染前の水準を5%下回る水準に再度落ち込んだ。他方、米国は1-3月期に拡大を強め、感染前の水準を取り戻している。

〇 米国、財消費が拡大主導、日本は財・サービスともに再び低迷

 民間消費を財・サービスに分けて眺めると、米国において昨年7-9月期に耐久財と非耐久財の消費が急拡大、10-12月期には足踏みがみられたが、続く1-3月期に耐久財が急拡大、非耐久財も大きく上昇しており、米国消費が感染前の水準を取り戻した牽引力は財の消費といえる。

 他方、日本の消費では、耐久財消費は10-12月期に感染前の水準を4%上回る拡大を示したが、今年1-3月期には同2%へと鈍化した。日本では空気清浄機やエアコン、など白物家電が伸びているとの報道もあるが、米国の耐久財消費は1-3月期に感染前の水準を22%上回っており、日本の耐久財消費の回復力の弱さが明確である。

 非耐久財消費についても、1-3月期米国では感染前の水準を8%上回っているが、日本は感染前の水準にようやく達した段階である。

 コロナ感染で日米共に消費低迷が集中しているサービス消費について眺めると、昨年4-6月期の落ち込み幅は日米共に感染前の水準を15%下回るという急激な落ち込みを示している。

 その後日本は回復を続け、昨年10-12月期には感染前より6%低い水準にまで持ち直したが、今年1-3月期には同9%減へと再度低下した。対する米国は昨年7-9月期日本を上回る回復を示したものの、その後の回復は緩慢に推移、今年1-3月期は鈍化はしないが、感染前の水準の6%低い水準に止まっている。

 新型コロナ・ウイルス感染禍での民間消費がサービス消費の低迷に集約されていることはこの図でも明らかである。未だパンデミック禍にある世界経済で共通する姿であろう。

〇 感染対策の遅れから米国を大きく上回るサービス消費の落ち込み

 民間消費を感染前の水準からの視点で眺めてきたが、今度は前年比の推移で眺めてみよう。図2は日米の民間消費支出(実質)を、財・サービス別に、前年比増加寄与度で示したものである。

消費(財サービス)(日米)[3175]

図2. 日米 : 民間消費支出(実質)の推移(前年比増加寄与度、%)

 日本においては19年7-9月期にかけて消費税率引き上げ前に耐久消費財を中心に消費が拡大、続く10ー12月期には財・サービス両面で前年比マイナスに転じている。

 昨年1-3月期にはサービス消費の落ち込みが拡大し、感染拡大の4-6月期には財消費の落ち込みが拡大すると同時に、サービス消費が急激な減少を示し、全体として前年比で35.3%減を記録している。

 米国の民間消費を前年比で眺めると、前年比マイナスに落ち込むのは昨年4-6月期であり、サービス消費の落ち込みがその主因である。日本と異なり耐久消費財、非耐久消費財はそれぞれ増加寄与度でマイナス0.2%、0.4%と微減である。

 米国では昨年7-9月期以降、耐久消費財、非耐久消費財共に前年比でプラスを記録している。この推移を眺めると、日本での7-9月期までの財消費の落ち込みは消費税率引き上げの影響が覆い被さっていることが分かる。日米で政府支援の規模と迅速さの違いが日米の財消費にも表れていると考えられるが、消費税率引き上げの影響が継続していると考えられる。

 感染前からの水準で眺めたように、日米ともサービス消費の低迷が消費回復の足かせだが、前年比で眺めるとサービス消費の落ち込みの大きさが、特に日本において非常に大きいことが分かる。

 昨年4-6月期のサービス消費の前年比増加寄与度を眺めると、日本は全体24.3%減に対して18.9%減であり、米国においては全体10.2%減に対して9.0%減である。日本のサービス消費の落ち込み寄与度は米国の倍以上である。

 今年1-3月期のサービス消費について眺めると、米国では全体1.6%増に対して2.1%の押し下げ要因、日本は全体7.4%減に対して7.3%減の寄与であり、米国の3倍以上の押し下げ効果を示している。

 米国よりも日本のサービス消費の落ち込みの深刻さは、東京や大阪など現時点でも緊急事態宣言が発令されているという状態は、米国と比べるまでもなく新型コロナ・ウイルス感染対策の遅れがあり、同時に政府の支援策の対象の狭さ、支援額の少なさ、支給の遅れなど指摘する点が多く、ましてやその改善策が機敏に施行されないという人災的な要素がある。

 前年比では昨年4-6月期の急激な落ち込みの影響が反映されるが、4-6月期もこの状態が改善される見込みはない。

〇 日米経済活力格差広がる中、感染対策が遅れる日本

 日米の民間消費支出(実質)の推移を、新型コロナ・ウイルスの影響に焦点を当てるのではなく、中期的な視点としてリーマン・ショックからの推移を眺めてみよう。図3はリーマン・ショック前のピークを100として、日米の民間消費支出(実質)の推移を眺めたものである。

日米消費(リーマン)[3177]

図3. 日米 : 民間消費支出(実質)の推移(リーマン・ショック前ピーク=100)

 リーマン・ショックからの回復は日米でほぼ同じ軌道をたどってきたが、14年、そして19年と日本の消費支出が屈折していることが分かる。14年は消費税率が8%へ引き上げられた時である。

 14年は団塊の世代がほぼ65歳に達し退職時期であった。消費税率引き上げに対して、高齢者は貯蓄率をマイナス、すなわち貯蓄を取り崩して消費を増やしたときであり、現役最後という気持ちでビッグ・チケット、高額商品の購入を行ったといえる。

 その後の回復力は弱く、新型コロナ・ウイルス感染前のピークではリーマン・ショック前のピークを4%程度上回る水準であり、同時期の米国消費は25%程度上昇しているのと比較すると、日米の格差は歴然としている。

 このような状況の下で、19年10月に消費税率が10%に引き上げられ、そして翌年新型コロナ・ウイルス感染拡大を受けたことになり、現時点でもリーマン・ショック時の最悪時近くに低迷している。

 人口増加の米国に対して、日本は人口減、少子・高齢社会にある。14年以降の推移が示すように、消費税率引き上げ、年金、介護などの社会保険負担の増加など家計所得を的とした財政健全化政策が日本の活力を削いでいることを理解すべきである。コロナ支援策はこの状況を理解して政策支援を施すべきである。

〇 インフレ圧力が注目される米国に対し、日本はデフレ継続

 日米経済活力の差は物価の推移にも明確に表れている。物価とは、財やサービスに対する需要と供給との関係で決まるものである。図4は日米の民間消費支出デフレータを財、サービスに分けて四半期の推移を眺めたものである。

PC(日米)[3174]

図4. 日米 : 民間消費支出デフレータの推移(前年比増加寄与度、%)

 一目して、日米での民間消費支出デフレータの推移の違いが明らかである。米国はサービス消費価格の上昇を中心に前年比で1.5%前後を推移しており、昨年10-12月期には耐久消費財価格も前年比でプラスに転じ、非耐久消費財価格も再びプラスに転じてきており、経済再開に受けた動きを示している。

 他方、日本は19年10-12月期に前年比で1%程度にまで上昇した後、4-6月期、7-9月期と同0.5%に鈍化、10-12月期以降は前年比マイナスに落ち込んでいる。

 19年1-12月期以降の上昇の背景には、19年10月に消費税率が引き上げられたことがある。消費税率が8%から10%へ引き上げらると、それだけで物価を1.85%( 1.10/1.08=1.0185 )押し上げる計算となる。

 これを踏まえて19年10-12月期以降の推移を眺めると、昨年1-3月期でも前年比で1%程度であり、消費税率引き上げの影響を差し引くと前年比マイナスである。上昇率が半減した続く4-6月期、7-9月期にも消費税率引き上げの影響は組み込まれており、実態の物価上昇率のマイナス幅は一段と拡大していることが分かる。消費税率引き上げの影響が消滅する昨年10-12月以降は前年比でマイナスに転じている。

 経済再開に向けた米国では、消費者物価で4月前年比4.2%増と3月の同2.6%増から伸びが高まり、さらに5月は同5.0%増へとさらに一段と上昇してきており、経済再開によるインフレ圧力に注目が集まる。一方、日本ではデフレ的な状況が継続しており、日本の民間消費の弱さが露呈されている。

〇 縮小続ける日本の民間消費支出

 図5は日米の民間消費支出(実質)の総需要に占める構成比の推移である。

日米消費(構成比)[3173]

図5. 日米 : 民間消費支出(実質)の推移(対総需要構成比、%)

 米国も感染拡大で大きな調整を迫られたが、対総需要構成比で58~59%の狭い範囲で安定的に推移している。対して日本は14年以降再び下降基調を継続、総需要構成比は今年1-3月期には44.9%と過去最低の水準に達している。

 途上国とは異なり成熟国として安定成長の基盤である民間消費支出の比率が低下し続ける日本の姿、政府はこれまでどう理解してきたのだろうか。

 日本でもようやくワクチン接種が開始される一方、緊急事態の解除、オリンピック開催に賛否が分かれる状態である。このような状況でも政府は国民が指針にできる方針を明確にしておらず、サービス業を中心に先行き不安が高まっている。

 予備費は30兆円あると度々政府は訴えるが、積み残しであり、「見せ金」としか映らない。縮小する民間消費支出の姿は国民の生活が追い込まれていることを示唆している。そのような状況下でのコロナ禍に直面した国民を支援、救済することが急務である。

 安定成長基盤が削れていく状態では財政再建は無理である。近視眼的で対応が遅れる政府、中央銀行の姿が露呈している。「骨太の方針2021」は金融・財政両面からの「骨太の国民生活再建」が主軸であるべきだ。

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