7-9月期GDP統計から浮かぶ日本経済の姿 =経済活力の基本軸の弱さ露呈=
2020年11月26日
米国、欧州に続き、日本でも新型コロナ・ウイルス感染拡大第三波が現実化してきている。新型コロナ・ウイルス・ワクチンの年内使用実施が報道される中でも、既に10-12月期の欧米経済は大きく減速すると予想されている。
このような状況の下、16日に公表された日本の7-9月期GDP統計から日本経済の位置付け、状況を眺めてみる。
〇 日本も欧米同様7-9月期回復するも力不足
表1は、米国、ユーロ(19ヵ国)、そして日本の実質GDPの推移である。表の左側は前期比年率の伸びであり、右側は新型コロナ・ウイルス禍直前のピークを100としたものである。
表1. 日米ユーロ:実質GDPの推移 ( 前期比年率、%、直前ピーク100 )
7-9月期の日本の実質GDPは前期比年率で21.4%増となり、姿的には米国や欧州同様、新型コロナ・ウイルス急拡大からの回復という姿を示している。
4-6月期からの回復力という観点では、ユーロ圏、米国より弱く感じられる。
ユーロ圏や米国は新型コロナ・ウイルス急拡大で4-6月期急激で大幅な減少を示す一方、日本は19年10-12月期から消費税率引き上げの影響で2期連続のマイナス成長を既に続けてきた流れの中で新型コロナ・ウイルス拡大を受けている。欧米と比べ新型コロナ・ウイルス拡大が遅れた日本は4-6月期の落ち込み幅は欧米ほどには下落せず、その反動としての7-9月期の戻りは欧米よりも弱くなると理解できそうである。
欧米の7-9月期の反転はロックダウンからの反動であるが、日本では7月末から「GO TO トラベル」が開始されており、これを踏まえて考えると7-9月期の日本の回復力は弱いという気がする。
日米ユーロについて、新型コロナ・ウイルス禍直前のピークからの推移を眺めると、新型コロナ・ウイルスが急拡大した4-6月期の実質GDPの水準は、直近のピークを100として、日本が89.7,米国が90.9で同程度、ユーロが84.9と大きく落ち込んでいる。7-9月期には日本は94.1で、米国96.5,ユーロ95.7より低い水準に止まっている。
とくに落ち込みが大きかったユーロの水準が日本を上回っていることに注目すべきで、経済活力の基本軸で日本の弱さが露呈されたといえる。
〇 日本の経済活力の基本軸の弱さ露呈
経済活力の基本軸という観点から日米ユーロの動きを眺めてみよう。図1はリーマンショック直前の実質GDPの水準を100として描いたものである。
図1. 日米ユーロ : 実質GDPの推移( リーマンショック前ピーク =100 )
一目して明らかなことは米国の回復力であり、日本の弱さである。米国がリーマンショック前のGDP水準を取り戻すのは11年で、日本は11年に東日本大震災を受け、リーマンショック直前のピークを上回るのは13年である。他方、ユーロは金融・財政危機でピークの水準を取り戻すには日本よりも2年遅れ15年である。しかし、その後ユーロは堅調に拡大し、17年には日本を上回って推移してきた。
リーマンショック後の実質GDPのピークは、米国で19年10-12月期、リーマンショック直前のピークを100として122.2で22.2%高い水準であり、20年4-6月期は同109.8で15年1-3月期の水準となり、7-9月期は117.9で18年1-3月期の水準である。
ユーロの直近のピークは19年10-12月期で108.8、20年4-6月期は92.4でリーマンショック直線のピークより7.6%低い水準である。7-9月期は104.1で17年1-3月期の水準である。
日本の直近のピークは106.4でリーマンショック直前のピークより6.4%高い水準。20年4-6月期は95.4,リーマンショック直線のピークより4.6%低い水準、7-9月期は100.2で14年7-9月期の水準である。
7―9月期回復したとはいえ、日本は消費税率を5%から8%に引き上げた14年から6年間積み上げてきた実質GDP拡大分を失うという大きな影響を受けているということである。同様な視点で眺めると、米国で2年半、ユーロで3年半の戻りと比べても、新型コロナ・ウイルスの影響の大きさが分かると同時に、日本の経済活力の基本軸の弱さが改めて感じられる。
〇 家計部門需要急減、世界経済停滞の影響浸透し始める
それでは日本の実質需要項目の推移を眺めてみよう。図2は実質総需要の前年比推移で、各部門別需要の推移を実質総需要に対する増加寄与度で示したものである。
図2. 日本:実質総需要の推移 (対総需要前年比増加寄与度、% )
総需要とは4部門の需要に分けられる。それらは家計部門需要(民間消費支出、民間住宅投資)、企業部門需要(民間企業設備投資、民間在庫投資)、公的部門(政府消費支出、公的固定資本形成)、そして海外部門需要(輸出等:財貨・サービスの輸出)である。
さて図2でこれら部門別需要の推移を眺めると、リーマンショック時も今回のパンデミック化した新型コロナ・ウイルス禍も世界的な成長屈折を引き起こしているが、リーマンショック時は輸出の急減とそれに伴う民間企業設備投資の落ち込みが主導していた一方、今回はパンデミックにより財(商品)の貿易や運輸、海外旅行などサービス貿易が停滞する状況で、国内での新型コロナ・ウイルス感染拡大が家計部門需要の急激で大幅な減少として表面化している姿である。
7-9月期はこの姿に輸出減が民間企業設備投資の減に結び付く動きもみられ始めている。世界的な景気停滞の影響が浸透してきたことを示唆している。中国がいち早く回復基調に入り、7-9月期には欧米でのロックダウンが解消されて経済の反転が観察されたが、11月以降欧米での新型コロナ・ウイルスが再燃しており、海外需要の回復に危険信号が点滅している。
〇 民間消費支出の改善弱い中、投資需要が大幅減少
図2で家計部門需要の急減と世界経済停滞の影響浸透を眺めたが、それらの動きを個別需要の推移で再度眺めてみよう。
表2は実質総需要(総供給)の個別需要項目を、前年比と対総需要(総供給)に対する前年比増加寄与度で示したものである。
表2. 日本:実質総需要の推移 ( 前年比、対総需要前年比増加寄与度、% )
家計部門の需要である実質民間消費支出は、4-6月期前年比で10.7%と急激な減少を示した後、7-9月期には同7.2%減と落ち込み幅は縮小したものの依然大きな落ち込みを示している。7月末からの「GO TO トラベル」が動き出したが、7-9月期の消費不要効果は弱いと映る。実質総需要に対する寄与度では、4-6月期の5.1%減から7-9月期3.5%減と1.6%の改善に止まり、消費税率引き上げ後連続して最大の総需要押し下げ要因となっている。
家計部門需要である民間住宅投資は年初から前年比で5%を上回る減少を続けてきているが、7-9月期には同14.0%減と減少幅を大きく拡大している。新型コロナ・ウイルス拡大による移住需要の拡大でプラスに転じた米国とは異なる動きである。
米国と異なる動きを示しているのは実質民間企業設備投資である。日本の実質民間企業設備投資は消費税率が引き上げられた昨年10-12月期から前年比で下落を続けているが、4-6月期から減少幅が拡大、7-9月期には前年比で10.5%減と二桁の落ち込みを示し、実質総需要に対する増加寄与度も1.4%減と更に低下している。
一方、米国の実質民間設備投資は4-6月期前年比8.9%減から7-9月期同5.0%減へと減少幅を大きく縮小させている。この背景には景気に左右されない情報化(DX)の流れを生み出している知的投資が堅調に推移しているためである。新型コロナ・ウイルス感染拡大による教育を含むリモート・ジョブによる需要増も追加的な増加要因となってきている。
逆に見れば、日本の民間設備投資には米国のような景気に左右されない独立投資が無いということである。日本経済の経済活力の基本軸の弱さがここに露呈されている。この実態については後日生産指数の推移などで眺めてみたい。
住宅投資と合わせると、日本の投資需要の減少が拡大してきている。
海外需要である実質輸出等の推移を眺めると、昨年年初から前年比でマイナスを続けてきたが、今年に入って減少幅が拡大、4-6月期にはリーマンショック時の09年1-3月期に記録した前年比36.0%減にはおよばないものの、同22.2%減を記録した。
7-9月期は同15.7%減へと減少幅は縮小した。この日本の4-6月期、7-9月期の前年比の落ち込み幅は米国とほぼ同じである。
実質輸出等の実質総需要に対する増加寄与度は、7-9月期2.3%減と民間消費支出の同3.5%減に次ぐ押し下げ圧力となっている。
〇 公表されている経済対策が見えてこない公的需要
公的需要について眺めてみよう。公的需要は政府消費支出と公的資本形成、いわゆる公共投資、それに公的在庫である、
実質政府消費支出と実質公的資本の推移を眺めると、新型コロナ・ウイルスに対する経済対策が実施されている状況で、その対策が反映されているようには思えない。
政府は今年度においても2度の補正予算を決定しており、失業保険給付、飲食店時短養成費、そして「GO TOトラベル」支援金などの経済対策費は政府消費支出に含まれる。9月末には終了した対策もあるが、それにしても政府消費支出の推移に反映されているとは感じられない。経済対策が着実に実施されているのか疑問が残る。
新型コロナ・ウイルス感染に対する経済対策は通来の景気対策であってはならない。これは今回の労働市場でサービス業の大幅な調整が発生していることにも表れており、サービスに対する需要減で事業継続、雇用維持、とくにサービス業における雇用はパートやアルバイトで支えられているという特徴を踏まえた雇用支援に軸足を置いた施策が必須である。
労働市場で最大の就業者を抱えるサービス業の疲弊は、経済活力の基本軸の弱体化であり、「街」が消えていく姿に結び付くと同時に、生活困窮者の増加を生み出す。まさに「国の安全」が脅かされている状態であることを国民で共有し、対策の「選択と集中」の施策の実行が急務である。
==>内閣府はGDP統計の改訂計画を公表しており、改訂されたGDP統計で改めて日本経済の姿を眺めてみる必要がある。