米国:予想上回る回復示すも、不透明感払拭できず2) = コロナ・ウイルス拡大が生み出したサービス消費の急落 =
2020年11月 12日
〇 コロナ・ウイルス拡大による社会経済活動停止が生み出した消費不況
図1、表1は実質民間消費支出を耐久財、非耐久財、そしてサービスという3つのカテゴリーに分けて、前年比及び消費全体に対する前年比増加寄与度で推移を眺めたものである。
図1. 財・サービス別実質消費の推移(前年比増加寄与度、%)
表1. 財・サービス別実質消費の推移(前年比、増加寄与度、%)
08年からのリーマンショック時と比べ、コロナ・ウイルス拡大による民間消費支出の落ち込みは、急激な落ち込みとその下落幅の大きさが歴然としている。さらに、その急激で大幅な落ち込みがリーマンショック時には見られなかったサービス消費によって引き起こされたことも明白である。
逆にリーマンショック時の消費の落ち込みは耐久財や非耐久財消費の落ち込みであったが、今回は逆に耐久財、非耐久財の落ち込みは4-6月期の1四半期で、7ー9月期には前年比でプラスの伸びを示している。
この違いが示唆するものは、今回の消費の落ち込みは不況によるものではなく、コロナ・ウイルスの急拡大によるもので、ロックダウンなどによる社会経済活動の停止がサービス消費に直結したものといえる。社会経済活動の停止が不況を生み出しているという姿である。
今年4-6月期、実質民間消費支出は前年比で10.2%の大幅下落を示したが、その内訳をみると、財消費が同1.7%減(寄与度0.6%減)で、サービス消費は同14.0%減(寄与度9.0%減)であり、サービス消費の歴史的な落ち込みが鮮明である。
ロックダウンが解消された7-9月期、サービス消費は前年比7.2%減(寄与度4.6%減)と前期の落ち込み幅の半分にまで縮小する一方、財消費は同6.9%増(寄与度2.5%増)と一転して大幅プラスに転じている。ロックダウンなどコロナ・ウイルス拡大に対する社会経済活動の抑制が予想を上回る影響を与えていることが理解できる。
〇 在宅勤務拡大で「必需品」の購入拡大、所得増加見込みで乗用車回復
表2は実質財消費の推移を示したものである。
表2. 耐久財・非耐久財消費の推移(実質、前年比、増加寄与度、%)
実質耐久財消費は昨年まで前年比で5%を上回る伸びを示してきたが、1-3月期には同2.0%と増加幅が半減以下に縮小した後、4-6月期には同1.5%減に下落したが、7-9月期に12.7%増(寄与度1.7%増)へと力強い回復を示している。
内訳を眺めると、今年に入り大きく下落してきた乗用車及び関連消費は7-9月期前年比8.7%増と4-6月期の同7.0%減から一転して急増している。また家具・家事用品も7-9月期同10.0%と前期のマイナスから大きく回復している。
他方、TV,PC、携帯など情報機器を含むレクレーション関連消費は長期にわたって堅調に推移してきたが、1-3月期の前年比11.3%増と鈍化した。その後増加幅を拡大、7-9月期には同22.7%増と増加幅をさらに拡大している。家具・家事用品同様在宅勤務などの広がりがこの動きの背景にあると理解できる。
その他耐久財消費は乗用車と同様今年上半期下落幅を拡大しており、所得の急減の中で「必需品」の購入という選別消費が働いていることを示唆している。7-9月期には前年比で7.4%増へと大きく回復しているが、その背景には株価上昇や所得の増加が見込まれてきたためであろう。乗用車の購入なども同じ動きと判断される。
外出規制、在宅勤務の拡大は非耐久財消費にも鮮明に表れている。飲食品が増加を続ける反面、被服・履物、ガソリンなどの消費が減少続けている。
〇 7月以降消費財輸入の減少幅縮小し、増加基調
財消費の回復は輸入にも明確に表れている。図2は実質輸入の推移を示したものである。実質輸入は6月に前年比15.7%減と最大の落ち込みを示した後減少幅を縮小、9月には同2.8%減となっている。
図2. 実質輸入の推移(前年比増加寄与度、%)
中身を見ると、減少をリードしてきたのは乗用車やその他の消費財である。これら消費財輸入は7月以降減少幅を縮小してきており、乗用車を除く消費財輸入は9月前年比0.2%増とプラスに転じてきている。乗用車輸入も6月に同8.3%減で底を打ち、9月には同1.6%減と回復基調にある。国内耐久財消費の回復を明確に裏付ける動きである。
また飲食品輸入は年初から前年比で伸びを高めており、9月時点でも前年比6.0%増と増加を続けている。
ちなみに生産、設備投資に関連する工業原材料が7月以降鈍化してきており、9月には前年比マイナスに転じている。気になる。
〇 コロナ・ウイルス拡大によるサービス消費の急落
今回の消費急落の主因であるサービス消費について眺めてみよう。表3は実質サービス消費の推移を前年比及び寄与度で示したものである。
表3. サービス消費の推移(実質、前年比、増加寄与度、%)
実質のサービス消費は今年1-3月期にそれまでの前年比2%近傍の推移から同1.1%減となり、4-6月期には同14.0%減へと急激な下落を示した。人との対面、接客業態を主とするサービス業がロックダウンなどで急激に遮断された姿である。7-9月期には同7.2%減へと4-6月期の下落幅から半減してきているが、それでも依然として大きな減少を示している。
中身を眺めると、交通、ガソリン、レクレーション、そして飲食・宿泊という外出規制による落ち込みが明白である。消費減少の寄与度で眺めてもこれら4つのカテゴリーの押し下げ寄与が大きい。中でもレクレーションと飲食・宿泊はロックダウンが解消された7-9月期においても前期より落ち込み寄与度が半減したとはいえ、依然として大きく、サービス消費の回復の足を引っ張っている。
他方、在宅時間の拡大で電気、ガスなどの消費は増加を続けている。更にサービス消費の増加に寄与しているものとして金融・保険サービスの消費がある。金融・保険サービスへの支出は第二次オバマ政権の13年から急速な増加基調を続けており、コロナ・ウイルス拡大の下でも前年比プラスを維持している。
〇 サービス消費の急落が労働市場を通じて不況連鎖を生む
サービス消費の動きは労働市場にも明確に表れている。図3は業種別就業者の推移を前年比増加寄与度の推移で示したものである。就業者は今年4-6月期に大幅な減少を示し、それもサービス業就業者の減少に集中している。前回の世界的な不況であったリーマンショック時と比較すると、その急激さ、落ち込み幅の大きさ、そしてサービス業での集中的な下落が明確である。
図3. 就業者の推移(前年比増加寄与度、%)
図3で今年10-12月期の数値は10月単月のものであるが、前年比6.0%減と7-9月期の同7.0%から縮小はしているが、リーマンショック時の最悪期である09年7-9月期同4.9%減を依然大きく上回る減少である。
コロナ・ウイルス拡大によるサービス消費の急減、サービス部門の就業者の急減、所得急減という連鎖が動いており、ロックダウン解消後においてもこの連鎖、サービス消費、就業者、所得という連鎖が以前動いており、最近のコロナ・ウイルス再拡大はこのサイクルに大きな不安要素となっている。
ここにきて米国のファイザー社がドイツのビオンテック社と開発している新型コロナ・ウイルス・ワクチンが、数万人参加した治験で90%を上回る確率で感染を防いだとのニュースが飛び込んできた。サービス消費の連鎖をプラスに変えるものとして、来年の治療開始に期待が高まる。
=== 次のレポートでは、これまで眺めてきた消費動向を所得、労働市場の面が眺める。