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勢い鈍化するも、回復示す米国法人所得 = 国内非金融主導の回復、海外収益回復に遅れ =

                        2021年5月30日

〇 法人所得、1-3月期、失速した前期から伸び横這い

 27日米国GDPの改定値が公表され、今年1-3月期(Q1)の実質経済成長率は前期比年率で6.4%増と暫定値と同じであった。昨年7-9月期に前期比年率で33.5%増と急激な回復を示した後、10-12月期は同4.3%増と回復の勢いは鈍化したが、年明け後は着実な経済回復を継続している姿を示している。

 同時に公表された法人所得(在庫評価前)の推移を眺めると、昨年7-9月期(Q3)前期比年率で163.1%増と急激な回復を示した後、10-12月期は同5.3%減と失速した。年明け後実質GDPが堅調な伸びを継続したことから、法人所得も力強い回復が期待されたが、1-3月期の伸びは前期比でゼロ、横這いとなった(表1)。

表1. 米国 : 法人所得(在庫評価前)の推移

法人所得(表)[3168]

 この動きを感染前の19年10-12月期の法人所得水準を100として眺めると、昨年4-6月期(Q2)に79.0と感染前の水準の約20%減に落ち込んだ。7-9月期には100.6とほぼ感染前の水準を取り戻したが、その後1-3月期にかけて99.3と感染前の法人所得を若干下回る水準で推移している。 

〇 国内収益昨年7-9月期には感染前の水準取り戻すも、海外は低迷

 法人所得を国内と海外で分けて眺めると、昨年7-9月期国内収益を軸に両者とも回復を示した後、10-12月期は両者とも失速している。続く年明け後の1-3月期には国内収益が前期比年率で1.9%増とプラスに転じたが、海外収益は同8.0%減と更に減少幅を拡大している。

 これらの動きを感染前の19年10-12月期の水準を100として眺めると、国内収益は昨年4-6月期(Q2)に80.4と感染前の水準より20%低く、海外収益は74.3と25%程度落ち込んだ。

 国内収益は昨年7-9月期には105.4と感染前収益を5%程度上回り、感染前の水準を下回るのは2四半期に止まった。10-12月期の水準は若干低下したが、それでも感染前を上回り、1-3月期には感染前の水準を4.1%上回る水準である。

 他方、海外からの収益は回復力が国内収益と比べ弱く、昨年末でも84.0に止まり、今年1-3月期は82.3と更に水準を落とし、低迷している。

〇 国内収益、昨年7-9月期以降3四半期前年比プラス

 法人所得を前年比の動きで眺めてみよう。法人所得は昨年1-3月期から国内、海外外共に前年の水準を下回り、4-6月期には前年比で19.3%減まで落ち込んでいる。
 しかし、7-9月期には前期比で急激な回復を示したことを受け、前年比でも3.5%増とプラスに転じている。前期比では10-12月期マイナス、1-3月期ゼロと回復の勢いが鈍化している姿であるが、前年比では10-12月期マイナス0.7%に下落したものの、今年1-3月期は同12.7%増と二桁の伸びとなっている。

 今年1-3月期前期比の伸びがゼロでも前年比で二桁の伸びとなった背景には、法人所得の前年割れが昨年1-3月期から始まっており、昨年1-3月期の前年比の落ち込みを反映したプラス成長である。

 この影響を踏まえて法人所得の推移を国内、海外に分けて眺めてみると、国内収益は昨年7-9月期に前年比でプラスに転じた以降、今年1-3月期まで前年比で3四半期連続プラスの伸びを記録している。

 対して海外からの収益は昨年1-3月期から今年1-3月期まで連続して前年比マイナスで推移している。昨年10-12月期法人所得は前年比でマイナスに転じたが、法人所得に対する前年比増加寄与度で眺めると、法人所得0.7%減に対して、国内収益はプラス2.8%、海外はマイナス3.6%と海外収益が継続して落ち込んでいることで法人所得全体の回復を弱めている。

 今年1-3月期もこの姿が継続している。続く4-6月期前期比ゼロで推移しても昨年4-6月期の落ち込みが最大であったことから、法人所得全体では前年比25%を上回る伸びとなる。4-6月期は1-3月期より経済拡大が見込まれており、法人所得の伸びは前年比では大幅なものとなる可能性が高い。

 法人所得の前年比とダウ工業株との推移より、株価と法人所得の関係性は読み取れる(図1)。図1においてダウ工業株の4-6月期(Q2)の数値は4月と5月の平均値である。

法人所得(株価)[3166]

図1. 米国 : 法人所得と株価の推移(前年比、増加寄与度、%、ドル)

〇 非金融主導で国内収益回復拡大

 国内収益の推移を非金融と金融に分けで眺めてみよう(表2,図2)。

表2. 米国 : 法人所得(国内)の推移

法人所得(国内)(表)[3167]

法品所得(国内)[3162]

図2. 米国 : 法人所得(国内)の推移(前年比、増加寄与度、%)

 収益変化の勢いを前期比年率で眺めると、非金融、金融ともに昨年年初から減少に転じ、その落ち込み幅も最大であった。

 昨年4-6月期には金融がプラスに転じ、10-12月期まで前期比年率で2桁の伸びを継続してきたが、年明け後の1-3月期には一転してマイナスに転じている。

 他方、非金融は昨年4-6月期、1-3月期よりは減速幅は縮小したものの42.5%と2期連続して大きく減少した。但し、続く7-9月期には三桁の急激な回復を示し、その反動もあってか10-12月期には再びマイナスに転じている。年明け後の1-3月期には金融がマイナスに落ち込む一方、3.7%増と増加に転じている。

 感染前の19年10-12月期を100として推移を眺めると、非金融は4-6月期に74.5と感染前の収益を25%以上落ち込んだ。しかし、続く7-9月期には107.6と感染前の水準を一挙に取り戻し、10-12月期103.9に低下したが、続く1-3月期には104.0へと微増している。

 前期比では非金融より1四半期早く回復を示した金融の収益が感染前の水準を上回るのは昨年10-12月期で、非金融より逆に1四半期遅れている。年明け後の1-3月期感染前の水準は上回るものの、10-12月期より若干低下している。

 前年比で眺めると、非金融、金融の収益は昨年7-9月期にプラスの伸びに転じ、今年1-3月期で3期連続して前年を上回っている。

 今年1ー3月期、国内収益は前年比で19.7%増となっているが、増加寄与度で眺めると、非金融が16.3%増、金融も3.4%増と高まったが、非金融の収益主導の回復を示している。

 国内非金融の業種別推移は6月24日に公表予定。

〇 海外収益受取、昨年前半の急減から減少幅縮小、年明け後にプラス

 海外収益の推移を収益の受取と支払に分けで眺めてみよう(表3、図3、図4)。

表3. 米国 : 法人所得(海外)の推移

法人所得(海外)(表)[3164]

法人所得(海外)[3165]

図3. 米国 : 法人所得(海外)の推移(前年比、増加寄与度、%)

ユーロポンド[3163]

図4. ユーロ、英国ポンドの推移(対米国ドル)

 海外収益の推移は図3で示した前年比増加寄与度の動きで明らかなように、海外からの収益受取が昨年1-3月期からマイナスに転じ、4-6月期には前年比で25.4%減、海外収益収支の寄与度で44.1%減を記録、その後減少幅は縮小を示しながらも、昨年末まで前年比マイナスで推移した。

 この背景にはビジネスが密接な欧州地域やカナダ、メキシコ(USMCA)の貿易協定国などでのパンデミックによる景気低迷がある。今年1-3月期には海外からの収益受取が前年比でプラスに転じてきており、ビジネス相手国においてコロナ禍から回復してきた兆候とも思われるが、それでも感染前の19年10-12月期の水準と比べると94.1であり、感染前の水準を取り戻していない。

〇 海外収益の下落を止める米国ドルの低下

 図4はユーロと英国ポンドの対米国ドル・レートの推移である。折れ線グラフが上に向かえばドル高、欧州通貨安であり、下に向かえばドル安、欧州通貨高である。

 16年末から18年前半にかけて海外からの収益の受取が増加しているが、その背景の一因として、この期間欧州通貨が米国ドルに対して強含みに転じている。逆に見れば、米国ドルが欧州通貨に対して低下している期間であり、欧州通貨建ての収益を米国ドルに転換すれば収益の受け手である米国企業の収益は為替差益も享受できる時期であり、米国への流入を加速させる働きをしている。

 これを昨年の海外収益の受取に合わせてみると、昨年前半は欧州通貨安であり、パンデミック禍での欧州収益悪化に加え、米国ドル建てへの為替差損を回避させたと考えられる。

 昨年後半以降は逆に欧州通貨高であり、米国ドル建てへの変換に為替差益が加わる環境となぅている。欧州での感染状況も前半より改善してきていることも加味すると、欧州通貨高は前年比でのマイナス幅を縮小させてきたと考えられ、年明け後の1-3月期には前年比でプラス転換してきたという姿と解釈できる。

 先行きについては、欧州経済はパンデミックからの経済回復を鮮明にしてきており、米国の海外からの収益受取は増加するものと思われる。同時にECBは6月10日の理事会で金融緩和のための債券購入枠の縮小が議題に挙がるという話も出てきており、欧州通貨が米国ドルに対して強含みに推移する動きが出てきている。

この動きは米国の海外からの収益受取を加速させる一因となりそうだが、欧州経済より力強い回復を示す米国で物価上昇や財政赤字拡大が懸念される中、FRBは債券購入枠縮小や利上げをスケジュールに上げていない。

 このような状況の下で金融緩和縮小策を採れは、パンデミックからの景気回復の過程で自国通貨高や金利上昇を生み、回復の足取りを遅くしかねない。このままではECBの金融緩和縮小策も難しい状況どころか、債券買い入れの延長も想定される状況である。

 日米欧も含め、物価上昇をどう考えるかが問われる事態である。6月1日のOPECプラス会合、今週末の米国雇用統計の結果などを眺めながら、10日のECB会議、15~16日のFOMCへと続く。政策の行方が重要な時期である。

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