母親の話
幼い頃、私は、周りが困り果てるほどのお母さんっ子だった。今となっては考えられないが。
正直言って私は母親が苦手だ。
愛ゆえの過保護なのだろうか。部屋の中や携帯を必ず漁り、異性の連絡先だと判断すれば無断ブロック、女の子の友達であっても自分の知らない子とは関わり合いになってほしくないと言う。
守れないと、家から追い出されることもあった。愚痴を垂れれば他にもあるが、母親の行動は、率直に言って、理解に苦しむことが多い。
そんな母親であるが、私は母親のことを「苦手」と思っても、「嫌い」とは思ったことがない。
4年前の母の日、私は母親にサプライズをした。
花を贈ったのだ。父親の知り合いのバラ農家のおっちゃんに頼み込んでめちゃめちゃ良いバラをたくさん用意してもらった。
バラを渡した。母親は泣いて喜んでくれた。
子どもの前では泣かないと決めていた人なのに。
私がプレゼントした花を母親はずっと飾っていた。寿命を迎えそうになるとドライフラワーにする、と言い、挑戦はしたものの失敗してしまい、結局捨てることになった。その時の悲しげな表情が未だに記憶に残っている。
母親は1年前に転職した。本人は飽きたからと、言っていたが本当のところは私の大学進学に必要な経費を稼ぐために、より高給の場所に移ったらしい。
人間ってかなり適当な生き物で、良い記憶はいつまでも残る。
むしろ、
美化されて良い記憶が、より良い記憶になってしまう。
そのせいか、私は母親に理解し難いことをされてもいつか前みたいに戻ってくれるんじゃないかと期待をしてしまう。本当はこんな人間じゃなかったんじゃないか、とも思う。
一筋縄ではいかないと言えば、お高くとまっているように見えるかもしれないが、どうも母親に対する感情は一筋縄ではいかない。
「苦手」ではあっても、「嫌い」にはどうしてもなれないらしい。