『マチュピチュ探検記 ― 天空都市の謎を解く』
私が本書を読む前、マチュピチュは「アンデス山脈の頂きに建つ、精巧な石積みによるインカの遺跡」程度の知識しか持ち合わせていなかった。たしかインカ皇帝の財宝が隠されているとか……。現在この問いに対して、確かな答えは見つかっていない。あらゆる学者が独自の答えを持ち、証明しようと躍起になっている途中だ。あらゆる仮説が飛び交うなか、本書の著者が見つけた答えは美しい。
著者は、その答えを探すため、1人の人間を追いかける。マチュピチュ第一発見者とされるハイラム・ビンガムだ。著者の冒険の始まりはマチュピチュの謎を解明するため、また世間に溢れるビンガムの噂に答えるためだった。錯綜した情報をニューヨークのオフィスで探索し、ペルーに飛び、ビンガムと自分を重ね合わせるように歩き続ける。
著者は、「ナショナル・ジオグラフィック・アドヴェンチャー」の編集者である。前書は、「ワシントン・ポスト」の「2009年 Best book」に選ばれ、本書が2作目だ。冒険の部分では、現地案内人のジョン・リーヴァースやラバ飼いとのゆるい会話が続く。さして面白くもなく、ダラダラと読み進めていたのだが、読み始めて2日目、3日目になると、本書に愛着が涌き、気がついたらどっぷりとハマっていた。ペルーでのカルチャーショックや、インカの謎解きを常に読者目線で伝えてくれるので、物語の世界にぐっと引き寄せられるのである。
なぜ、著者はハイラム・ビンガムのあとを追うことになったのか。ビンガムによるマチュピチュ発見(1911年)から100周年の記念日が近づくにつれ、ビンガムは再び注目されるようになる。理由の1つは、たまたま発掘された地図が、ビンガムに先立つこと40年かそれ以上前にマチュピチュを訪れた人がいることを示していること。2つめは、ペルーの前大統領夫人が、ビンガムがマチュピチュで掘り出した遺物の返却を要請したためである。彼は、マチュピチュについて嘘を言っているのか。そして、不法に遺物を強奪したのか。
著者は実際にインカの風景を歩いてみて、建造物が自然の環境に合わせて、完膚なきまで計算し尽くされたうえで建てられていることを知る。さらに、建物同士が密接に結びついていることも明らかになる。
これは、インカの遺跡のひとつ「チョケキラオ」から見られる風景だが、著者にとっては、絵はがきを思わせるパノラマにしか見えない。しかし、現地の人が見たとき、この風景こそが、自然が、なぜアンデス山脈とアマゾン川が出会うきりの立ちこめた亜熱帯地方、それも人目につくことのない屋根の高みに、これほどまでに壮麗な花崗岩の都市が建てられたのかを教えてくれているのである。
ここでは書けないが、本書の最後には圧巻のクライマックスが待っている。彼はついにビンガムを理解するのだ。それはマチュピチュを理解することでもあった。理解するとは、真実を突き止めるだけではなく、マチュピチュの神秘性が腑に落ちる感覚とでもいえるだろう。読者も想像力に身を任せて、この場面を堪能してほしい。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?