刀根明日香

1991年、三重県生まれ。ノンフィクションサイトHONZレビュアー。バスケットボール歴9年。酒飲み。好きなジャンルは歴史、人文系、スポーツ系、ゆるいもの。最近は歌舞伎を始めとする伝統芸能に興味あり。

刀根明日香

1991年、三重県生まれ。ノンフィクションサイトHONZレビュアー。バスケットボール歴9年。酒飲み。好きなジャンルは歴史、人文系、スポーツ系、ゆるいもの。最近は歌舞伎を始めとする伝統芸能に興味あり。

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    ノンフィクション書評サイトHONZ(2011−2024)のアーカイブ

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学生メンバー応募レビュー『市場対国家』

HONZ学生メンバー合格者が応募の際に書いたレビュー。最後は刀根明日香さんのレビューです。 ※2012年1月18日当時のものです。 政治家ってどんな人? 日本の政治家みたいにどうせ国家議員の息子が国家議員になるのでしょ? その中から首相が生まれるのでしょ? だから日本なんて変わりっこないのね。私が高校まで持っていた政治のイメージは、ニュースを観るようになった今でも変わらない。いくらCHANGEを叫んでも、民主党が喜んでも、私には遠い世界。政治経済学部の大学生がこんなこと言っ

    • 『世界を配給する人びと 遠いところの声を聴く』 

      なぜ人は旅に出るのかーー。日々決まった生活のルーティーンを繰り返していると、自分はこのままで良いのかと不安になる。旅がしたい。せめて心だけでも。 本は心を旅に誘う。本を通じて著者の旅を追体験することで、少しだけ人生が豊かになる気がする。また、本の先には、「この人に会いたい」「あそこに行ってみたい」という希望が生まれ、リアルな世界に彩りを与えてくれることもある。 本を読んでいると、著者との対話がはじまる。「どうして人は旅に出るのか」「なぜ作品をつくるのか」「なぜわざわざそん

      • 『Mine! 私たちを支配する「所有」のルール』現代社会の所有概念とは?

        「私のもの!」という感情が私たちの生活にどのような影響を及ぼすのか。本書を読むと、何気なく過ごしていた日常が全く異なって見える。「座席のリクライニングはどこまで自由に倒せるのか?」「ディズニーランドでお金を支払って最前列でショーを観れるのは、平等なのか?」意識せずにはいられなくなる。 「所有を設計する」とは耳慣れない言葉であるが、社会には「所有」を生かした工夫が数多く存在する。(ここでの「所有」は、モノではなく、かたちのない権利やコト、広い対象に使用している。)私たちは無意

        • 『特攻服少女と1825日』特攻服少女が令和に蘇った!

          1989年、昭和から平成に変わる時代に、女暴走族を取り上げた『ティーンズロード』という雑誌が並んでいたのをご存知だろうか。初代編集長の比嘉健二さんが当時の回想を交えながら書き上げた本書は、第29回小学館ノンフィクション大賞を受賞した。 女暴走族というニッチなジャンルで賞を受賞!? 小学館ノンフィクション大賞は、「未発表作品に限り、海外冒険旅行や、博物誌、観察記、歴史発掘、ビジネスドキュメント、スポーツドキュメント、科学ドキュメントなど、さまざまな視点から『時代』を捉えたもの

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          言語で国境を越える『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話』

          私は本が持つ「熱量」に惹かれる。著者がどうしても書き残したかったものや、誰かに伝えたかったこと、自分にしか出来ないことなどを、汗かきながら書き上げる姿を想像できる本が好きだ。本書『千葉から~』の熱量は計り知れず。私にとって今年No.1の一冊になるだろう。 著者は、1992年千葉県生まれ。大学受験や失恋、就活などを経験する中で、卒業してから引きこもり生活に突入する。「俺の心は底なしの深淵のなか」という時期に、昔から好きな読書はできない。代わりに映画をたくさん見始めた。そしてイ

          言語で国境を越える『千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、ルーマニア語の小説家になった話』

          APU活動記② HONZ定番企画「2022年印象に残った本は何?」

          連載の2回目は、いよいよ2022年に印象に残った本について熱く語り合います! APU活動記①はこちら 立命館アジア太平洋大学(APU)ライブラリーにやってきました。ウェルカムボードを見て、メンバー一堂のテンションが一段と上がります。様々な個性を持ったメンバーが一同に集い、やたらと熱い志で本を紹介する、HONZにとってはお馴染みのコーナー。テーマは「この数年で一番印象に残った本、皆さんにおすすめしたい本」で、漫画も小説もなんでもありです。出口さんを入れて11名の熱い(名)演

          APU活動記② HONZ定番企画「2022年印象に残った本は何?」

          APU活動記① 待ちに待った出口さんとの再会

          こんにちは!元学生メンバーの刀根です。久しぶりの合宿レポートに胸が高鳴ります!2023年1月初旬、読売新聞読書委員として活躍された皆様の集まりにHONZもちょこんと乗っけていただき、はるばる大分県まで行ってきました。私、年末からとっても楽しみにしていたのです。だって普段読んでいる本の著者たちに会えるのだから!    そして、今回の旅がさらに特別なのは、出口治明さんとの再会。出口さんは立命館アジア太平洋大学(以下APU)の学長で、HONZの客員レビュアーでもあります。2021

          APU活動記① 待ちに待った出口さんとの再会

          『ぼけと利他』唯一無二の往復書簡

          「利他」という言葉を本屋さんで見る機会が多くなってきた。大辞林で「利他」を引くと、「自分を犠牲にしても他人の利益を図ること」と書かれてるが、「犠牲」や「利益」という言葉がなんだかピンとこないなぁ。本書の著者・伊藤亜紗さんは、前書きで「利他」について研究を始めたきっかけをこのように話している。 利他とは相手のことを思って行動すること。 でも、本当の意味で相手のためになるってどういうことだろう。 本書は、美学者の伊藤亜紗さんと、福岡で「老宅所よりあい」を営んでいる村瀬孝生さ

          『ぼけと利他』唯一無二の往復書簡

          知識が好奇心の源『子どもは40000回質問する』

          知識が好奇心を育むのだ。好奇心を持続させるために、ノンフィクションを読み続ける。あらためて学ぶことの楽しさを実感したのは、本書『子どもは40000回質問する』を読んだからである。 本書によると、好奇心は、少し知っていることが肝心だと言う。全く知らないのでは手が伸びない。反対に知りすぎていても好奇心は育たない。その塩梅が大事で、だからこそ広く浅く興味を持つことは、好奇心を育てるのに必要なのだ。 本書は3部構成をとる。第1部は「好奇心のはたらき」。言葉を覚え、自分の行動と言葉

          知識が好奇心の源『子どもは40000回質問する』

          『自分で始めた人たち』人を通して地域を知る面白さと、「民主主義」を自分の言葉で語ること

          何かの入り口にいるような予感。芽吹く感じ。社会が、企業が、個人の生活がどんどん変わっていく。不確実な時代と呼ばれているが、芽吹きを肌で感じながら日々を生きている。 本書『自分で始めた人たち』にも、同じような空気感があった。政治に頼らず、市民が自治体と手を繋いで、地域を変える旅に出る。コロナ騒動の最中、また個人の尊厳が注目されている今、地域がどう動き出しているのか、未来に伝える大事な記録である。 本書は、「チャレンジ!!オープンガバナンス(Challenge Open Go

          『自分で始めた人たち』人を通して地域を知る面白さと、「民主主義」を自分の言葉で語ること

          『地方メディアの逆襲』共に生きて、共に歩む。これからのメディアのあり方

          記者の仕事は過程がそのまま表に出てくるのが魅力的だ。記者が何に問題意識を持ち、どう行動して、どんなメッセージを込めるのか。好きな報道や作品には、記者の怒りや悲しみ、執念さえも感じることが出来る。記者一人ひとりの存在自体が物語性を帯びていて面白い。 では、「地方紙」の記者はどうか。全国紙の記者と地方紙の記者の違いについて、私は本書を読むまで考えたことがなかった。分かったことは、地方紙の記者が抱く怒りや悲しみは、その地域で生きる人々の怒りや悲しみであった。住民と共に生きて、共に

          『地方メディアの逆襲』共に生きて、共に歩む。これからのメディアのあり方

          『くらしのアナキズム』人類学者から学ぶ「国家なき社会」の叡智

           2020年感染症のパンデミックのなかで、最初に声を上げたのは、中国・武漢の一人の医師だった。また、私たちの暮らしを守るのは、医療従事者や保健所の職員らの献身的な働きだったり、市民の自粛生活だったりする。はて、国は何をしてくれたんだっけ? 私が国に求めていることと、国がしてくれることには大きな乖離があると気づいた。 私の暮らしには、政治の影響はあまりないようにに思われる。一方で、飲食業など、国の政策により暮らしを脅かされた人たちもいる。国は優先順位を決めて政策を実行するが、

          『くらしのアナキズム』人類学者から学ぶ「国家なき社会」の叡智

          船上での無謀な取材を重ねた傑作『アウトロー・オーシャン 海の「無法地帯」をゆく』

          本書から得られるのは、海上での人権と労働問題、海洋汚染の実態、過剰漁業など表面上の知識だけではない。本気で取り組む際に人間はどこまでやれるかの挑戦であり、そのための準備や緊急時の冷静な対応、大量の情報と感情を文章にする熟練の技など、ジャーナリストがたどり着く1つの到達点だと思う。 私がノンフィクションを読み始めた動機のひとつに、世界のニュースの背景が知りたいというものがあった。新聞を読んでいても見えない世界。点と点をつなげるには、本を読むのが一番早くて面白い。ノンフィクショ

          船上での無謀な取材を重ねた傑作『アウトロー・オーシャン 海の「無法地帯」をゆく』

          『越えていく人——南米、日系の若者たちをたずねて』

           「移民」という言葉を聞いて、構えてしまう人は多いのではないだろうか。 日本生まれ日本育ちの私が、「移民」から連想するのは、難民だったり、昔読んだ井田真紀子の『小蓮(シャオリェン)の恋人』に出てくる残留孤児二世の話だったり。または、一緒に働いているベトナムからの留学生だったり。私は無意識に迎え入れる側の人間となり、社会問題として一歩引いた目線で「移民」を眺めていた。 もし私と同じような連想をした人がいれば、是非、本書を読んでほしい。また、人権や多様性について興味のある人に

          『越えていく人——南米、日系の若者たちをたずねて』

          『内心被曝 福島・原町の10年』「心の復興」を遂げた4つの家族の物語

          内心被曝 ー 南相馬市に住む主婦が口にした言葉である。外部被曝でもなく内部被曝でもない。住民の一人ひとりが東日本大震災深く傷を負い、心の奥に何万シーベルトという放射能を貯めてきた。この言葉を聞くと、おどろおどろしく感じるかもしれないが、ふと自分の生活を省みると、コロナ禍において得体の知らないものに傷つけられてきた心と重なるのではないだろうか。 本書は決して暗くて辛い日々の生活を訴えるような本ではない。むしろ、日々の生活の中で「心の復興」と真摯に向き合う人間の力強さが伝わって

          『内心被曝 福島・原町の10年』「心の復興」を遂げた4つの家族の物語

          理解出来るって楽しい!『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス)長生きせざるをえない時代の生命科学講義 』

          本書を読んで思ったのは、私も生命科学を理解できるんだな、という単純すぎる驚きです。私は科学に憧れがあったので、流行りのものや面白そうなものは一通り読んでいました。しかし、ワクワクするまではいかない。たとえば、伝記スタイルであれば、科学者の破天荒な人生に惹きつけられて楽しめることもあります。でも、「一から分かる科学〜」のような、科学の魅力をストレートに伝える本は、頭をフル回転する必要があり、娯楽というより勉強になってしまうのです。 本書は、その苦手意識を超え、まさに娯楽の本で

          理解出来るって楽しい!『LIFE SCIENCE(ライフサイエンス)長生きせざるをえない時代の生命科学講義 』