『特攻服少女と1825日』特攻服少女が令和に蘇った!
1989年、昭和から平成に変わる時代に、女暴走族を取り上げた『ティーンズロード』という雑誌が並んでいたのをご存知だろうか。初代編集長の比嘉健二さんが当時の回想を交えながら書き上げた本書は、第29回小学館ノンフィクション大賞を受賞した。
女暴走族というニッチなジャンルで賞を受賞!? 小学館ノンフィクション大賞は、「未発表作品に限り、海外冒険旅行や、博物誌、観察記、歴史発掘、ビジネスドキュメント、スポーツドキュメント、科学ドキュメントなど、さまざまな視点から『時代』を捉えたもの」が応募される。暴走族という視点から何が見えるのだろう。
さらに本書に惹かれた理由がもう一つ。それは、”昭和×編集”本はハズレなしという私の経験だ。たとえば1970年代、松本正剛が率いた初期工作舎を紹介する『工作舎物語 眠りたくなかった時代』は最高に面白かった。
当時の雑誌作りの熱量に衝撃を受け、その雑誌のある時代に生きていた人たちに嫉妬した。本書の時代は平成であるが、同じくSNSのない時代である。『ティーンズロード』も本として残したくなるほど思い入れのある雑誌に違いない。「もう一度あの熱量を!」と期待が高まるのを感じた。
著者の比嘉健二さんは、1982年にミリオン出版に入社し、『ティーンズロード』『GON!』『実話ナックルズ』などの雑誌を立ち上げた編集長である。Youtubeで検索すると「裏社会雑誌の帝王」という文字を見つけた。サブカル界で有名な人だという。Youtubeを見ていると、「女暴走族とか、褒められることやっていないけど、応援したくなっちゃうんだよね」と言いながら優しい眼差し。すごく良い人だ……。
比嘉さんとレディースとの出会いは、1987年、突如訪れる。取材の帰り道、渋滞の高速道路の後方から爆音でヤンキー少女の暴走族が迫ってきた。底抜けに明るい笑顔に、ルックスはアイドル風な美少女ばかり。多くがサテン地の法被姿で、可愛さに見事にマッチしている。企画としていけるんじゃないか……。身体中の血液が逆流するような興奮を味わったという。
ヤンキー少女雑誌は企画として成り立つのか。当時売れていた『ポップティーン』『ギャルズライフ』のギャル誌を分析すると、ヒントが見えてきた。
比嘉さんの中で雑誌の方向性が決まる。ヤンキー少女を取り上げて、10代の少女たちに届くものをつくろう。相当なマーケットがあることに確信を持つ。1998年春に『ティーンズロード』の1号目が刊行された。他社が男のヤンキー雑誌で成功しているなか、少女の暴走族に目をつけたのは新しい試みだった。
本書の読みどころは、暴走族の幹部を務める少女たちのキャラクターや、暴走族の掟、取材時のエピソードなど山ほどある。そして、たくさんの魅力がこの世界を好きで純粋に応援している比嘉さんや『ティーンズロード』編集部の皆さんの温かい視線から生まれているのが伝わってくる。少女たちがここまで心を開いてインタビューに応えるのも驚きであり、何より雑誌に掲載されることを心から喜んでいた。暴走族という緊張感とは裏腹に、どこかほのぼのと感じさせる空気感さえも感じることができた。
『ティーンズロード』は、「ハミ出した10代が何かを考える時間を、雑誌という枠で共有する」というコンセプトの通り、日常に居心地の悪さを感じている10代の少女たちに圧倒的に受け入れられた。「疾る女たち」というレディース総長へのロングインタビューや、「人気総長の公開質問コーナー」「HOT TEL」という24時間留守録できるメッセージ電話から生まれる会話。企画は、読者の肉声への反応やキャッチボールが多かった。読み物として充実させ、真面目な誌面を作ることで、ファンを増やしていった。
『ティーンズロード』は本書によって、令和の時代に蘇った。当時の読者の胸を熱くしたように、今を生きる私も、同じように救われている。人生に足踏みしてしまう人たちに語りかけるような、優しい本である。
当時暴走族だった少女たち大人になり、令和の10代の少年・少女たちは暴走族が消えた静かな社会で暮らしている。本書は平成を描くと同時に令和を映し出している。みんなどうやって居場所を探しているのだろうか。
本書にも登場するヤンキー少女のその後の話。全力で生きている姿がカッコ良い!